日本料理の現場課題から生まれた「加熱前・真空」発想――魚庄が描く、煮物文化の未来とBtoB展開

有限会社魚庄 代表取締役 園田 正弥氏

コロナ禍以降、日本料理店を取り巻く環境は大きく変わりました。需要の変化、人手不足、原価と人件費の上昇。かつて当たり前だった提供価格や運営体制が、今では成立しにくい局面が増えています。そうした中で有限会社魚庄は、従来の飲食店運営だけに依存せず、現場で培った技術を「食品」として広げるBtoBの戦略を描いています。

本記事では、代表の園田正弥氏に、業界の現状認識から事業の方向性、そして“煮物文化”を世界へ届けたいという想いまで伺いました。

「人がいない」だけでは語れない、日本料理店の構造的な難しさ

――コロナ以降の状況や、いま業界で起きていることをどう見ていますか。

コロナに入ってからもう5年ぐらい、あまり前向きに活動できなくなってしまいました。明けて頑張って販促を打ちかけたんですけど、結果的に世の中の需要や体制がバランスよく取れなかった。今は、できるだけ従業員を絞って回す形になっています。

日本料理店って、人もいないし、そのまま続けてると地方の店でブランディングができていないところは、今後相当厳しくなると思います。昔は7~8,000円ぐらいの料理が平気で出てたけど、今は同じようなものが6,000円ぐらいで売ってる。原価も人件費も上がっているので、店の利益が得られない。付加価値が薄れている感覚があります。

――価格を上げることも簡単ではない、ということでしょうか。

例えば京都を見ていても、今そこに行かなくなっていく現象が起きつつあります。観光客が増えても、お金を出さない層が多くなってきている。アメリカやヨーロッパの方は長期滞在で、ホテルに泊まっても食べるのはデパ地下のお惣菜だったりする。日本はデパ地下の料理が美味しいから。

コロナ前まではBtoCのお客様に対して、そこそこの経営をしてましたけど、コロナ以降は集めにくくなって、お客様も変わってしまった。文化が変わったことで、困ってる店が多くなったのではないでしょうか。

「炊く」工程がネックになる現場へ――“加熱前”という提案

――そうした環境変化の中で、御社が展開しようとしている事業について教えてください。

飲食の現場って、焼き物や揚げ物は機械で焼くだけ、フライヤーで揚げるだけでできる。でも味をつける煮物は厨房に職人が要るんです。さらに野菜を剥かないといけなかったり、味付けが感覚に寄る。ここに手間がかかる。

予約がなかったら炊けないんですよね。でも、うちは予約がなくても炊いてしまって、しかも鍋じゃなく袋で炊きます。袋で炊くと、条件は未開封の冷蔵保存などになりますけど、1ヶ月ぐらい腐らない。鍋で炊くと3日目でもう使えなくなるんです。

だから、職人さんが鍋で炊く煮物を“袋の中で炊く”ように変えていく技術、もしくは食品化して、まず冷凍として用意する。そういう仕組みがあれば、飲食店やホテルの朝食、お弁当がたくさん出る現場でも使えると思っています。

――現場側のメリットは、どのあたりにありますか。

「炊いてしまったもの」を買うと高い。でも「炊く前」思考だと安い。うちが指定した調味料を一定量入れてもらうだけでできるので、味付けというより単純作業で終わる。だから安く提供できます。

例えば市場で冷凍里芋が1個20円だとして、それが5円高くなるだけで、温めるだけで30日持つような里芋の炊き物ができてしまう。人がいないことで店がなくなっていく流れを、商品と仕組みでフォローしたいと考えています。

セントラルと現場の経験を「外に売る」戦略へ

――御社の現在の体制や、そこから見えている戦略についても伺えますか。

今、うち調理師が極端に言ったら2人ぐらいしかいないんですけど、それでも日によって「昨日100万、明日0」とか、振れが大きい。予想ができない商売なんですよ。だから“保存を中心にできる日本料理店”としてやってきた。

今は、様々な食材会社に自分の欲しいものを作ってもらって、逆に自分が買い付けて使っている。その仕組みで出来た食材を、今からよそに売っていきたい。売ることで助ける店が増えるし、「そんなのあるの?」となる。価格も、例えば50円なら買わないけど35円なら安い、みたいな判断になる。

――製造は自社だけでまかなう想定ではないのですね。

うちが全部作ると間に合わないし、値段も合わない。だから専門工場にうちのスキームで作ってもらう形を考えています。かぼちゃを冷凍で販売してる工場のようなところに「ワンクッションこういうことをしてください」とお願いする。そうすると、うちの特許技術の新しい「加熱前の真空調理食品」ができる。

全国に出回れば、日本だけじゃなく海外にも広げられる。私は中国で冷凍野菜工場をやってたこともありますけど、当時はSARSや諸事情で撤退しました。あの頃は早かった。似ているものがなかった。でも今は、別のお店が作ったものを冷凍・冷蔵で売ってる時代になってきた。私は20年前にそれをやれてたけど、販売能力がなくて自社弁当だけに入れていたんです。

「炊く前」を選ぶことが、衛生と安心につながる

――加熱前の形にすることで、提供側の運用はどう変わりますか。

出来上がったものを冷凍するのは、食材の不向きや素材の劣化がおこる。それより、冷凍の里芋があって、それが炊けるようになっていて、自分で蒸すとか、袋を温めて加熱するとか、そういう方が衛生管理ができるんです。「炊いた時点から2週間経ったな」とか、管理できる。利用してる満足感や安心感も出る。炊く前なら、食材会社と総菜会社の違いみたいに、値段が半分ぐらいで済むという感覚もあります。

日本料理は「店の中」だけで完結しない。世界へ出すなら、煮物から

――園田代表が考える、日本料理の可能性はどこにあるのでしょうか。

日本人は野菜をおいしく食べる文化を持っています。野菜のだしを使った煮物の文化を世界に発信できたら大きい。日本人は醤油を持ってる。醤油があるってことは、塩、胡椒だけじゃなく、醤油と砂糖の文化がある。砂糖をメイン料理に使える文化を持ってるのは日本だけだと思っています。

欧米は塩味やスパイスが中心で、野菜は肉を食べるためにサラダで補うような発想も多い。そこに、日本の“だし”の文化が入ると、同じ食材でも別物になるんですよ。

例えば里芋の煮物が海外に普通に届くようになったら、ハンバーガーとポテトチップスが、肉じゃがに変わることだって起きる。世界の中に、日本料理の煮物文化がどんどん出ていく。

――そのために必要だと感じていることは何ですか。

食品会社や、貿易の仕組みを持つ人たちが関わる必要があると思っています。私は、商社に入ったらできることがあるとも感じています。ただ、現在の私ごときでは難しい。販売が得意な大きな会社の人が気づいてくれて、「これを使ったら面白い」と弊社とマッチングし、運営に使ってくれないかな、という思いはあります。

技術が欲しければ技術を伝える。食品が欲しければ食品を渡す。ただ、私の力だけでは難しいので、広げる力のあるところと取り組めることを願っています。

取材の場で語られた「働き方」と現場のリアル

――経営や現場の運用面で、いま強く感じていることを教えてください。

私は調理もできます、配達もできます、電話も聞けます、営業もしてます、コンサルティングもできます。でも設備も持ってるので維持費がかかる。電気代やバスの維持費もある。

それでも、人件費が一番かかる。働き方の制限も逆風であり、今回の戦略には追い風でもあります。週に何時間以上はダメ、残業代の問題もある。外国人雇用も簡単じゃない。日本料理店の文化で外国人ばかりというのも感覚が違う部分がある。そもそも求人してもなかなか人がいない。

「便利さ」が文化を広げる。だから、まずは知ってもらうことから

――最後に、この記事を読んだ方へ伝えたいことはありますか。

私は飲食店としてもやりますが、昔ほど利益が出ないのは現実です。だからこそ、店の中だけで勝負するのではなく、現場で困ってきたことを“できる形”にして外へ出したい。

ホームページを通じて、同業者さんや関係者に知ってもらい、技術が欲しければ技術を、食品が欲しければ食品を届けたい。日本料理店が陳腐化して消滅していく流れを止めるには、「おいしいのは当たり前」の先で、“できないからする”という発想が必要だと思っています。

そして、日本の煮物文化やだしの文化は、世界にまだまだ伸ばせる。便利な形で届くようになれば、文化は広がっていくはずです。

Contact usお問い合わせ

    お問い合わせ内容
    氏名
    会社名

    ※会社・組織に属さない方は「個人」とお書きくだい

    役職

    ※会社・組織に属さない方は「一般」をお選びください

    メールアドレス
    電話番号
    どこでお知りになりましたか?
    お問い合わせ内容

    プライバシーポリシーに同意して内容を送信してください。