歴史ある油屋から、EVレンタカーと地域の出会いづくりへ――油米が描く「次の道」
株式会社油米 代表取締役 大西 昌子氏
株式会社油米は、もともと油屋として事業を営み、長い歴史の中で灯火用の油から食用油、さらにはガソリンへと時代に合わせて形を変えてきました。現在はガソリンスタンドを1ヶ所に縮小しながら、EV専門のレンタカーという新たな挑戦に取り組んでいます。事業承継から3年、社員の雇用を守り、地域の魅力を来訪者に届ける取り組みも進める大西昌子氏に、事業の特徴や経営の軸、組織運営、今後の展望までを伺いました。
目次
事業の転換を進め、地域の価値をつなぐ
――現在の主な事業内容と、取り組みの特徴を教えてください。
当社はもともと油屋として1866年に創業し、灯火用の油から始まり、食用油、そしてガソリンへと事業を変えてきました。かつてはガソリンスタンド3ヶ所と卸が主でしたが、現在はスタンドを1ヶ所にし、縮小してきている状況です。
その流れの中で「次の事業」として取り組んだのが、EVに特化したレンタカーです。開始当初は、日産の車両を活用した企画もあり、日本旅行などと組んで「グリーンジャーニー」といった取り組みが動いた時期もありました。テレビ局が来るほど反響があったのですが、状況の変化もあり、企画は途中で止まりました。今は、個別にお客様へ対応しながら事業を続けています。
――ガソリンスタンド事業と新規事業の位置づけは、どのように整理されていますか。
売上構成で見ると、スタンド関連が大きく、だいたい「10対1」ほどの割合になります。一方でEVレンタカーは、前例が少ない分、ゼロから作らなければならない難しさがありました。遠方に類似例があると聞いても、簡単に見に行ける距離ではなく、自分たちで設計していく必要がありましたが、その分、手応えもありました。
また、EVは距離などの制約があるため、単に貸して終わりではありません。道順や行き先の提案まで含めて体験を設計し、「こんないいところがありますよ」と地域の魅力を伝えることも意識しています。地域で頑張っているお店を紹介し、お客様が実際に足を運んでくれる流れが生まれると、喜んでいただける実感があります。
不正をしない。雇用を守る――経営の軸を誠実に貫く
――経営判断の拠り所となっている価値観を教えてください。
経営の軸は二つあります。ひとつは、長く続いてきた会社を、できるだけ続けていきたいということです。私は引き継いでまだ3年ほどですが、「160年までは持たせたい」と思ってやってきて、なんとかここまで来ました。ただ、私がいつまでできるか分からない以上、いつか変わらなければいけない時が来る――その現実も見ています。
もうひとつは、従業員をきちんと雇用し続けたいということです。ここは田舎で、考え方も古いところがありますが、地域にいると「働いている人たちをちゃんと雇用できるか」が第一要件になりやすいと感じます。簡単に「今日で終わり」とはできませんし、私自身もそうしたやり方は選びたくありません。
だからこそ、厳しくても「不正をしない」は譲れません。たとえば雇用保険も、周囲では払っていないところがあると聞くことがあっても、当社はアルバイトを含めてきちんと払っています。「こんなに払っているんですか」と驚かれたこともありますが、いい加減にして儲かればいい、という気持ちはありません。
一方で、ガソリンスタンドの先行きを考えると、業種として良くなる見込みは大きくないとも感じます。だから早い段階で次の道を探したのですが、「少し早まったかな」という気持ちがよぎることもあります。それでも、守るべきものを守りながら次を作る――その両立に向き合っています。
逆境から立て直し、任せる組織へと動かす
――代表に就任された当初、どのような状況からスタートしたのでしょうか。
私が代表を引き継いだのは「やらざるを得なかった」というのが正直なところです。家業として、主人が亡くなり、一時は息子がやっていましたが、アメリカ生活が長く、継続が難しくなりました。結果として、私が担うことになりました。
ただ、引き継ぎは簡単ではありませんでした。変わった時点で全員から退職トラブルのようなことが起き、そこから始める形になりました。2年ほどは全然うまくいかなかったのですが、ここ1年で優秀な人が入ってくださり、その方が戦略を中心に担ってくれたことで、ようやく動き始めてきました。
組織づくりでは、固定観念にとらわれず、できるだけ皆の意見を聞くようにしています。私自身は、自分の意見を強く言うよりも、現場から上がってくる声を受けて任せる。計画書も皆が出してくれるようになり、助けられている部分が大きいです。
一方で、今の課題は年齢構成です。長く働いてくれている方が多く、若い人が少ない。私の代は何とか回せても、次の世代のためには「若い人たちにとって魅力ある職場」を作らなければいけないと思っています。
また、年齢を理由に簡単に切り捨てることもしません。体に負担がかからないよう時間帯を調整し、働けるうちは働いてもらう。その中で「あなたがいてくれるからここが成り立つ」と伝えられることが、生きがいにもつながると感じています。短い時間でも働き口があることが、人を支える面もあるのだと思います。
若い力を迎えるために、まず土台を固める
――採用や育成について、どのように考えていますか。
採用については、気持ちはあっても、今は「まず基礎固め」という段階です。レンタカー事業は始めた当初、ものすごく大きな赤字を出しました。だからこそ、土台をきちっと整えてからでないと、若い人たちを迎えて責任ある形で育て、きちんと給料を払っていくことは難しいと考えています。
ただ、可能性はあります。私は大学院や学会とのつながりもあり、大学側のコネクションも続けています。基盤が整いさえすれば、働きたい学生は出てくると思っています。若い人を受け入れるためにも、事業としての安定を作り、安心して働ける状態を先に用意する。それが順番だと捉えています。
空間を活かし、出会いを生む――婚活事業で地域に風を通す
――今後の展望として、取り組んでいきたいことを教えてください。
今後の取り組みとして、三重県の「みえの縁むすびサポート企業」になり、婚活を少しずつ始めています。田舎は若い人が都会に出てしまい、若い人が少ない。商売をしている方も、外に出る時間がなく、出会いの機会が限られている現実があります。
そこで2ヶ月に1回、あるいは3ヶ月に1回くらいのペースで懇談パーティーを開いています。ゼロのところも多いと聞きますが、当社では開催のたびに2人、2組、3組といった形で必ずマッチングが出ている状況です。認知が進めば、婚活事業も一定の形にしていけるのではないかと考えています。
この事業は、レンタカー事務所の空いているスペースを活かして収入を作ろう、という発想から始めました。ただ、広がり方としては地域内に閉じず、鈴鹿など近隣や、さらに北・南など県外から来てくださる流れができたら面白いとも思っています。
伊勢神宮に参拝したり、伊勢志摩を訪れたり――そうした機会に「伊勢で婚活しようか」という動機が生まれれば、地域にも人の流れができます。
SNSで見るより、実際に会うほうが安心できる。だからこそ、場の設計に価値があるとも感じます。個人情報の扱いも、県の仕組みに沿って、終わったら破棄する運用にしており、その点でも安心していただけるようにしています。
知らない世界を知る楽しさが、挑戦を続ける力になる
――これまで影響を受けた人や出来事があれば教えてください。
影響を受けているのは、海外で大学の学長を務めている友人の存在です。彼は国連にいた頃からの付き合いで、40年以上、もしかしたら50年近い関係になります。おとなしい人ですが、確実に地位を固め、大学を作り、AI技術を持った人材を育て、日本で働けるレベルの日本語力を備えた人たちを送り出そうとしている。その姿勢がすごいと感じます。
私の友人には、海外で教授になっている留学生の子たちも多く、皆が頑張っている姿が「私ももう少し頑張ろう」と思う起爆剤になっています。年齢を重ねてから事業を動かすのは体力的にも記憶的にも大変ですが、それでも「やっていて楽しい」と思えるのは、挑戦の中で自分が変わっていく感覚があるからです。
立ち上げ期に赤字が重なり、掃除も買い物も自分でやるようになりました。最近は洗車もします。手が荒れることもありますが、むしろ丈夫になって、体力がついてきた実感もあります。休みなく働いているように見えるかもしれませんが、私は「大変」という感覚があまりないんです。
――忙しい日々の中でのリフレッシュ方法も、差し支えない範囲でうかがえますか。
リフレッシュは、お菓子作りです。夜に帰って夕飯を作った後、ケーキを作ったりします。パンは失敗が多いのですが、それも含めて気分転換になっています。
知らない世界を知るのが楽しい。だから、大学院に入り直して学んだことも、貧しい地域の調査に一人で行ったことも、今の仕事を続ける力になっているのだと思います。
誠実に積み重ねながら、会社と地域の未来につながる道を――これからも一歩ずつ作っていきたいと思います。