「覚え続けてもらえるメーカー」を目指して――Chiyo-petが貫く無添加ペットフードの良品主義
株式会社Chiyo-pet 代表取締役 千代 敬司氏
株式会社Chiyo-petは、ペット用ケア商品の企画製造やペットフードの製造販売を手がける企業です。人が口にできる原材料のみを使用し、添加物を使わない製品づくりを徹底しています。千代氏はテレビ番組への出演をきっかけに創業し、自社工場設立という大きな決断を経て現在の体制を築きました。本記事では、事業の特徴や創業の背景、経営哲学、そして目指す企業像について伺います。
目次
人が食べられる品質を貫くペットフード事業
――現在の事業内容について教えてください。
ペット用品の製造卸業を行っています。現在はその中でも、特にペットフードの製造卸に注力しているところです。
自社ブランド商品の開発・製造・販売に加え、他社様からご依頼を受けてOEM商品も手がけています。メーカー様の構想をヒアリングし、原材料の選定から試作まで一緒に進める形が中心です。
販売チャネルとしては、自社ECサイトも運営していますので、卸売だけでなく一般のお客様への直販も展開しています。いわゆるBtoBとBtoCの両方を担う体制です。
フードの中心は犬用で、主力商品もドッグフードになります。最近は猫用商品の展開にも着手しており、少しずつラインナップを広げている段階です。
――御社ならではの強みやポジショニングはどこにありますか?
最大の強みは、使用している原材料がすべて人間が口にできる品質であることです。しかも原材料は100%表示しています。
それだけではなく、工場の製造風景を公開し、各食品のトレーサビリティも明確にしています。どこで、どのように作られているのかが見える体制を整えている点が、当社の大きな特徴です。
製法や作り方はメーカーごとに違いがありますが、当社の製品は薬品や添加物を一切使用していません。そこは明確に線を引いています。
業界全体を見れば、すべてではないにしても、添加物や着色料が含まれている商品がまだ多いのが現状です。その中で、原材料の質と製造工程の透明性を徹底していることが、当社のポジションだと考えています。
テレビ番組出演から始まった創業ストーリー
――経営の道に進まれたきっかけを教えてください。
23年ほど前、読売テレビ系の「マネーの虎」という事業資金を投資してくれる番組に出演したことが始まりです。そこで370万円を融資していただき、その資金をもとに会社を立ち上げました。商品を販売しながら事業を軌道に乗せていった形です。
その後、番組の流れをくむ企画にも声をかけていただきました。YouTubeチャンネルの「令和の虎」になる前の段階で、過去の志願者や出演していた社長が現在何をしているのかを紹介するインタビュー企画があり、3回ほど出演させてもらっています。
――創業当初はどのような商品からスタートされたのですか?
創業当初は、まずペット用のケア用品から始めました。そこから徐々にフード系の商品へと展開を広げていった流れです。
当時、ペットフード業界にはどこかグレーな部分があると感じていました。製造工程が見えない、原材料の扱いが不透明なケースもある。そうした状況に違和感を持つようになり、「それなら自分で作ろう」という考えに至りました。
現在は自社工場を構え、自社商品を自分たちの管理下で製造しています。創業時のケア用品からスタートし、最終的にフードへと軸足を移してきたのは、より安心できる商品を届けたいという思いがあったからです。
「良いものを作りたい」――自社工場設立という決断
――キャリアの中で最大のターニングポイントは何でしたか?
約15年前、九州にペットフードの自社工場を立ち上げたことが最大の転機です。この決断は簡単なものではありませんでした。
業界に対して、どこかグレーな印象を抱いていました。製造現場をオープンにしない体質に疑問を感じていたからです。「それなら自分で作るしかない」と腹をくくりました。
工場設立は、利益を増やすための選択ではありません。「良いものを作りたい」という思いが先にありました。
売れる商品が必ずしも良い商品とは限らない。そこは自分の中で譲れない部分です。頑固だと言われるかもしれませんが、そのこだわりがあったからこそ、現在のペットフードづくりにつながっています。
――工場設立後、最も苦しかった時期について教えてください。
一番挫けそうになったのは、工場を立ち上げた直後の時期です。約5年間、赤字が続きました。どこで歯止めがかかるのか見えず、不安ばかりが募っていたのを覚えています。
工場は儲けるために作ったわけではありません。だからこそ、原価償却がいつ終わるのかも分からず、その先が見通せないことが何より辛かったです。本当に苦しい時間でした。
それでも、ここで辞めてしまえば、チヨペットが作るフードを待っているワンちゃんやネコちゃんが困る。そして、弊社でOEM製造させてもらっているメーカー様が、ペットフードを作る場所がなくなるという思いがありました。続けていくうちに、弊社と同じ志を持ったメーカー様や店舗様より「チヨペットで作ってほしい」と依頼をいただけるようになり、その積み重ねが現在につながっています。
OEMを軸に広がる共創モデルと新たな商品戦略
――現在力を入れている分野や今後の展望を教えてください。
商品の面ではキャットフードの企画を進めていますが、事業スタイルとして大きいのはOEMの拡大です。安心してペットフードを任せられる工場が少ないという現実があり、「チヨペットなら」と依頼をいただく機会が増えています。現在は別注商品の製造が非常に忙しい状況です。
自社ブランドを前面に出すというより、メーカー様の思いを形にする立場を重視しています。ヒアリングから始まり、食材選び、納得いくまでサンプルを重ねる。その工程を丁寧に積み上げています。
どの会社から販売される商品であっても、ペットを癒やすという自分の思いが実現できるのであれば、それで良いと考えています。
――なぜ今キャットフードに注力されているのですか?
ドライドッグフードの分野は競合が非常に多い状況です。一方で、猫のドライフードに目を向けると、本当にこだわった国産商品はまだ少ないと感じています。
犬より猫の飼育数が多くなっているという背景もありますが、銘柄の選択肢は十分とは言えません。数が増えているのに、質にこだわった商品は限られている。その状況を見て、チヨペットから良いキャットフードを届けたいと考えました。
現在は発売前のモニタリング段階にあります。ドッグフードとは異なる難しさもありますが、納得できる形に仕上げたいと思っています。
3年後を見据えた成長ビジョンと受注拡大の背景
――3年後の売上目標と現在の課題を教えてください。
今を1とするなら、3年後は1.3倍を目指したいです。
一方で、直面している課題は人手不足です。製造工程にはマンパワーに頼る部分が多くあります。最終的に出来上がったペレット状のフードは、一粒一粒を目視で検品しています。野菜や肉などを混ぜ合わせた製品は機械だけでは判断できません。そこを人の目で確認する必要があります。
工場設備にも大きな投資をしてきました。ただ、ペットフード専用の機械は選択肢が限られています。高額な専用機は4,000万〜5,000万円ほどかかり、しかも添加物を前提とした仕様のものが多いのが実情です。
そのため、フード成型機や混合機や乾燥機などは別注で製作してもらっています。効率や利益を最優先する機械ではなく、自分たちの製法に合う設備を選んできました。品質を守るための体制を維持するには、人材確保が今後の大きなテーマだと感じています。
――営業活動をほとんど行わず受注が広がっている理由は何ですか?
専門店への営業にはほとんど力を入れていません。業界全体で専門店が減り、増えているのはトリミング店ですが、物販で大きな売上を上げる構造ではないからです。
現在はOEMを軸に展開しています。約10社のメーカー様から依頼をいただいており、多くは口コミによる紹介です。「自社工場で作っているなら、うちもお願いしたい」と声をかけていただくケースが中心です。
一見での依頼は基本的にお断りし、理念を共有できる企業様の製造に取り組んでいます。
法律よりもモラルを重視する経営哲学
――経営において「これだけは譲れない」という信条は何でしょうか?
ペット商品は人間向けの商品と比べて、法律面で甘い部分があります。国産と表示しながら別の原料を使っても分かりにくいケースや、「入っている」と言いながらごく少量しか配合していない商品も存在します。誤魔化そうと思えばできてしまう業界だと感じています。
だからこそ、モラルを最優先にしています。原材料が入荷できなければ、欠品してでも待つという判断を取ります。売れる商品を追うのではなく、ペットのために本当に良いものを届けたい。その思いだけは決して曲げません。
――理想とする会社の姿を教えてください。
大きな会社にしたいとは思っていません。
子どもの頃に当社の商品を使っていた家庭の子が、大人になって家庭を持ち、また思い出してくれる。そんな存在であり続けたいです。
派手な名前ではなく、覚え続けてもらえる商品を作りたい。その思いで商品名も決めています。
家族との時間、そして経営者へのメッセージ
――お休みの日のリフレッシュ方法を教えてください。
土日のどちらかは仕事をしていますが、完全にオフの日は家族と過ごします。子どもがまだ小さいので、一緒に遊びに行く時間が何より大切です。
一人で過ごすことはほとんどなく、早朝にジムへ行く程度です。健康維持のために体を動かしています。
――最後に、中小企業経営者や起業家へメッセージをお願いします。
挫けそうになった時こそ、「なぜこの会社を立ち上げたのか」という原点を思い出してほしいです。
「商いは牛の涎」ということわざがありますが、商売は細く長く続けるものだと思っています。辛いことの方が多いかもしれません。それでも、お客様からの一通の手紙が支えになることがあります。
何かひとつでもモチベーションに変えられる出来事を持っていれば、踏ん張れる瞬間が来ます。焦らず、一歩一歩続けていくことが何より大切だと感じています。