来年で100年――西都食肉販売有限会社が挑む、小売と通販の新たなかたち
西都食肉販売有限会社 代表 田辺雄一氏
西都食肉販売有限会社は、精肉店として業務用の食肉販売と配送、小売店の営業、さらに店頭での惣菜販売にも取り組む会社です。長く地域に根差してきた一方で、近年は小売や通販への注力、SNSでの発信など、新たな挑戦も進めています。代表を務める田辺雄一氏に、事業の特徴や経営の考え方、組織づくり、そして今後の展望について伺いました。
地域に根差しながら、満足度の高い提案を届ける
――現在の事業内容について教えてください。
当社は精肉店を営んでおり、業務用のお肉の販売と配送を行っています。加えて、小売店の営業や、店頭での惣菜販売にも取り組んでいます。地域のお客様に向けた店舗運営と、業務用の対応の両方を担っているのが特徴です。
――御社ならではの強みはどのような点にありますか。
山形牛を「一頭買い」で販売していることに加え、提案力の幅が強みです。お肉そのものの満足度はもちろん、お客様に合わせて提案できることに価値があると考えています。商品をただ販売するのではなく、食べ方やシーンを想像し、満足していただけるかたちで届けていくことを大切にしています。
――経営において大切にしている理念を教えてください。
お客様、仲間、取引先、生産者を含め、関わるすべての人が幸せになるようなお肉屋さんを目指しています。どこか一方だけがよくなるのではなく、関係する人たちみんなにとって意味のある商売であることが大事だと考えています。
人の温かさが伝わる店でありたい
――お客様に喜んでいただけた印象的な出来事はありますか。
店頭で揚げ物を販売していたときのことです。ある時間帯に列ができ、販売を進めていたところ、最後に並んでいた高校生の男の子二人の前で売り切れてしまいました。残念そうに帰ろうとしていたのですが、揚げ物を買い占めた男性のお客様が、店から見えにくい場所で、その揚げ物を「お金はいらないから好きなの食べていいよ」と渡していたんです。
その場面を見て胸が熱くなり、私たちもその男性を追いかけて惣菜をプレゼントしました。その後、その方がまた来店してくださったとき、お店として少しいいことができたのかなと感じました。商品を通じて満足してもらうことも大切ですが、こうした人と人とのつながりが生まれることも、この仕事の喜びだと思っています。
――田辺氏ご自身が目指す店主像についても教えてください。
店主としてのキャラクターを、もっと確立していきたいと思っています。自分がきっかけでお店に来てくれる人を増やしたいですし、人柄や仕事への思いを通じて店の魅力につなげていきたいと考えています。地域の方だけでなく、全国の人にも知ってもらいたいという思いがあります。
その一環として、個人でスレッズを更新しています。地域の方に向けた発信と、全国の方に向けた発信を意識しながら、お肉屋さんの中の人のことや、日々感じていることが伝わるように続けています。
コロナ禍をきっかけに、経営の軸を見直した
――代表に就任した経緯を教えてください。
代表になって5年目です。きっかけはコロナ禍でした。当時、当社では学校給食向けの仕事をしていましたが、その仕事が一旦白紙になりました。もともと売上の大部分を業務用が占めていたため、その影響は非常に大きく、在庫も多く抱えていました。このままではスタッフへの給料も払えなくなるという危機感があり、スピーディーにいろいろなことを進めていかないとやっていけないと感じました。
そのタイミングで世代交代し、小売や通販に力を入れ始めました。ツールの活用などもその頃から進めています。従来の軸だけに頼るのではなく、新しい柱をつくる必要があると考えたことが今の方向転換につながっています。
――変化を進める中で難しかったことは何ですか。
長く続いている会社だからこそ、「昔からやっているから今も続けていること」が細かな部分にも大きな部分にもありました。それに対して疑問を持ち、変えていくことは簡単ではなかったです。具体的に何か一つというより、日々の仕事の中にある当たり前を見直していくこと自体が難しかったと感じています。
――組織の雰囲気や、社員との関わり方についても教えてください。
現在は9名体制で、社内は和気あいあいとした雰囲気です。普段から思ったことはしっかり共有するように意識していますし、時々お酒を飲みに行くなど、仕事以外の場でのコミュニケーションも大事にしています。年齢の近いメンバーもいれば年上のスタッフもいるので、日常的に話しやすい空気をつくることは意識しています。
小売と通販を広げ、「お肉といえばここ」と言われる存在へ
――今後の展望について教えてください。
今後は小売店の規模拡大と、通販の規模拡大を進めていきたいです。5年以内には新しい小売店の店舗を設けたいと考えています。現在は同じ作業場で業務用、通販、小売向けの肉づくりを行っていますが、通販が軌道に乗ってくれば、そのための場所を設けて体制を整えていきたいと思っています。
一方で、製造は専門性が高く、職人性も必要な仕事です。誰が担うのか、誰が責任者になるのか、肉を切ったり加工したりできる人材を確保できるのかといった課題もあります。そうした壁を一つずつ越えていければ、次の展開に進めると考えています。
――日々の店舗運営で感じている難しさはありますか。
お肉は季節感を出しにくい商材だと思っています。だからこそ、お肉の鮮度だけでなく、売り場の“気持ちの鮮度”をどうつくるかが難しさでもあり、楽しさでもあります。お肉が新鮮なのは当然として、それ以上に、お客様がワクワクしたり、気持ちが高まったりする売り場をつくりたいんです。
たとえば旬の野菜を使った味付け肉や、その日だけの限定メニューを出すなど、「うちでしか買えないもの」を増やしていくことが、お店の面白さにつながると思っています。店舗に立つことも多いので、お客様の反応を直接見ながら工夫を重ねています。