「セキュリティの本質は人間にある」――サイバーと物理の融合で社会課題に挑むユニファ・テックの100年構想
株式会社ユニファ・テック 代表取締役CEO兼CTO 神﨑 康治氏
セキュリティ領域における課題は、サイバー空間とフィジカル空間の両面にまたがりながら複雑化しています。近年はランサムウェアや情報漏洩事件の増加に加え、サプライチェーン全体での安全性も重視されるようになり、中小企業にとってもセキュリティは後回しにできない経営課題になりつつあります。
株式会社ユニファ・テックは、その課題に対し「セキュアブース」という独自のソリューションを軸に、新たな価値提供を進めている企業です。本記事では、代表の神﨑康治氏に、事業の着想から現在の取り組み、そして100年先を見据えた構想まで詳しく伺いました。
目次
見えない脅威に「物理」で向き合う新発想
――現在の事業内容と、その特徴について教えてください。
当社は、セキュリティ性の高い「ブース型空間」を提供することで、情報漏洩リスクを物理的に防ぐソリューションを展開しています。従来のセキュリティ対策はサイバー領域が中心でしたが、実際には人が物理的に情報を持ち出すことで漏洩が起きるケースも多く、そこに着目しました。
このブースは、必要な人だけが入室し、必要最小限の情報のみを扱う「Need-to-Knowの原則」に基づいて設計されています。情報を分離し、アクセスできる範囲を限定することで、構造的に漏洩を防ぐ仕組みです。結果として、「誰が、どこで、何を扱っているか」が可視化され、管理負担の軽減にもつながります。現金輸送における金庫のように、「守るべきものを限定し、物理的に守る」という考え方に近いですね。
例えば、外部パートナーと機密情報を扱う場面や、開発・設計などの重要データを扱う業務では、「誰が・どこで・どの情報にアクセスできるか」を明確に制御する必要があります。サイバー対策をいくら強化しても、最終的に情報を扱うのは人間です。だからこそ、見えない脅威に対して“見える防御”をどう実装するかが重要だと考えています。
――この事業を思いついたきっかけは何だったのでしょうか。
大きなきっかけは、銀行システムに携わっていた頃の体験です。夜中にシステム障害が発生し、緊急対応のため出社しなければならない状況がありました。しかし、明け方でタクシーがつかまらず、現場に行けない。セキュリティルーム(いわゆるセキュアルーム)といった高いセキュリティ環境は、基本的に出社しなければアクセスできない。つまり、安全性と引き換えに、場所や時間の制約が生まれてしまう。その点に疑問を持ったんです。
そこで、セキュリティ環境そのものをブース化し、どこでも再現できるようにすればいいのではないかと考えました。これが現在の事業の原点です。
単に守るための箱を作りたかったわけではありません。高いセキュリティが必要な仕事ほど、場所や人材の制約で機会損失が起きやすい。であれば、安全性を担保しながら働ける場所を柔軟に増やせる仕組みが必要だと考えたんです。
エンジニアから起業へ――環境が変えた意思決定
――経営の道に進まれた背景を教えてください。
もともとは起業志向ではなく、いわゆる「一般的なキャリア」を歩むつもりでした。ただ、2018年に経済産業省の起業家育成プログラムに参加したことで、大きく意識が変わりました。周囲には「世界を変える」と本気で語る人たちがいて、最初は違和感がありましたが、次第に自分も影響を受けていきました。
結果的に、気づけば自分が最も熱量を持っている状態になり、起業に踏み出しました。人や環境が意思決定に与える影響は非常に大きいと感じています。
――独立に至るまでの経緯もユニークだったと伺いました。
実は、前職時代に自ら制度を作り、その制度を使って事業をスピンアウトしました。最初は社内で認められなかった事業でしたが、制度そのものを設計し、そこに自分で応募する形で外に持ち出したんです。
結果として、自分のやりたいことを実現できる環境を、自ら作ることができました。好きなことを軸にキャリアを築けている点は、非常に幸運だったと思います。
ただ同時に、それは単に環境に恵まれただけではなく、やりたいことに対して仕組みから作る覚悟を持てたからこそ実現できたものでもあると感じています。既存の枠組みの中で難しいのであれば、自分で枠組みを設計する。その発想は、今の事業づくりにもつながっています。
「セキュリティの本質は人間」——強みと市場の変化
――御社の強みや、業界における優位性はどこにありますか。
最大の強みは、サイバーと物理の両面からセキュリティを捉えている点です。サイバーセキュリティ対策だけでは、人が関与する限り完全な防御はできません。スマートフォンによる盗撮や内部不正など、人間が関わるリスクは必ず残ります。
そのため、物理的に制御された環境を組み合わせることで、より実効性の高いセキュリティを実現しています。
セキュリティの本質は、人間にあります。どれだけ高度なシステムを導入しても、人が情報を持ち出せてしまえば意味がない。逆に言えば、人が起点となるリスクを抑えられれば、セキュリティの実効性は大きく変わります。当社は、その部分を真正面から扱っている点に特徴があります。
――市場のニーズについてはどのように感じていますか。
近年はランサムウェアや情報漏洩事件の増加により、セキュリティ意識が急速に高まっています。特にサプライチェーン全体での対策が求められるようになり、中小企業にとっても、セキュリティはもはや後回しにできない経営課題となりつつあります。
これまでは「セキュリティは大企業のもの」と捉えられがちでしたが、今後は取引の前提として一定のセキュリティ水準が求められる場面が増えていくでしょう。結果として、セキュリティは単なるコストではなく、取引継続や信頼確保を支える“経営基盤”へと位置づけが変わっていくと感じています。
AI時代の組織づくりと人材戦略
――今後の組織づくりについて教えてください。
現在は組織体制を一度リセットし、「AIネイティブな組織」を構築しようとしています。AIの進化によって、人間が担っていた業務の多くが代替されつつあり、人材の価値も大きく変わっています。
特に重要なのは、「AIを使いこなせる人材」です。知識やノウハウはAIによって補完できるため、それを実行に移す力や、学び続ける姿勢がより重要になります。
これからは、知っている人よりも、試せる人の価値が高くなっていくと思います。AIがあることで知識へのアクセス自体は平準化されるので、差がつくのは問いの立て方と行動の速さです。そういう意味で、組織そのものもAI前提で再設計しなければいけないと感じています。
――どのような人材を求めていますか。
「違和感を持ち、考え、行動し、学ぶ」というサイクルを回せる人材です。これは子どもが自然に行っている行動でもありますが、大人になるにつれて失われがちです。
その意味で、学生起業家のような存在に注目しています。素直さと行動力を持ち、AIを活用して急速に成長できる人材です。インターンとして関わってもらいながら、実際の事業やプロダクト開発に入りながら、思考やスキルを身につけてもらい、その後は社会で活躍していく――そうした循環を作ろうとしています。
学生起業家に限らず、自分で問いを持ち、仮説を立て、試し、学び直せる人は強いです。特にAI時代は、そのサイクルを回す速度がそのまま成長速度になります。だからこそ、年齢や肩書きよりも、そうした姿勢を重視しています。
会社としても、単に人を採用するのではなく、そうした人材が実践を通じて育ち、また次の挑戦へ進んでいくような場にしていきたいと考えています。結果として、そこから新しい事業や価値観が生まれていくことにも期待しています。
100年先を見据えた事業構想
――今後の展望について教えてください。
「令和100年計画」という長期ビジョンを描いています。これは、自分の子どもが生きる100年後まで社会に責任を持つという考えから生まれたものです。
前半では、人口減少や労働力不足といった社会課題に対し、AIやテクノロジーを活用して解決していきます。セキュアブースを通じて安全に働ける環境を広げ、その中で蓄積される業務データや知見をAIに学習させていくことで、最終的には人間の労働そのものを減らしていく構想です。
つまり、目先の効率化にとどまらず、「働き方そのものを変えるための基盤」をつくっていく取り組みでもあります。
――非常に壮大なビジョンですね。
最終的には、人が「働くこと」から解放され、本来の意味で人生を楽しめる社会を目指しています。その実現に向けて、まずは自ら市場を創り、その上で既存の枠組みにとどまらず、次の技術で乗り越えていく——そうした進化を前提とした戦略を取っています。
社会課題に向き合う以上、一つの解決策に固執するのではなく、より本質的な解決へと進み続けることが重要だと考えています。
――現在の課題は何でしょうか。
最大の課題は、人材です。AI時代において価値を発揮できる人材をどう見極め、どう集めるかは、会社の成長だけでなく存続にも関わる重要なテーマです。
テクノロジーそのもの以上に、それをどう扱う人が集まるかが今後の差を生む——そうした前提に立ち、採用や育成のあり方も従来の延長ではなく、AI時代に合わせて再設計していく必要があると考えています。
社会と向き合い続けるために
――最後に、読者へのメッセージをお願いします。
これからの時代は、AIとどう向き合うかで大きく差がつきます。重要なのは、AIに使われる側ではなく、使いこなす側になることです。そのためには、自分で考え、行動し、学び続ける姿勢が欠かせません。
企業経営においても、個人のキャリアにおいても、いまは大きな転換点だと思います。セキュリティもAIも、もはや一部の専門家だけのテーマではありません。だからこそ、自分には関係ないと切り離すのではなく、自分ごととして向き合うことが大切だと感じています。
私自身もまだ挑戦の途中ですが、技術と人間の可能性を信じながら、社会に価値を提供し続けていきたいと考えています。その取り組みの一端は、すでに現在進行形でさまざまな現場に実装され始めています。