五感で創る“行きたくなる店”――消費者視点が導く商業施設設計の本質

株式会社マーヴェラス 代表取締役 クリエイティブディレクター 吉田 享氏

商業施設、とりわけ食品を扱う店舗の設計を主軸に事業を展開する株式会社マーヴェラス。全国各地のこだわりを持つクライアントとともに、「行きたくなる店」を形にしてきました。その根底にあるのは、設計者としてではなく“一人の消費者”としての視点です。本記事では、代表の吉田享氏に、事業の特徴や設計思想、これまでの歩み、そして仕事への向き合い方について伺いました。

消費者視点から生まれた五感に訴える空間づくり

――現在の事業内容について教えてください。

主に商業施設の企画設計・監理を行っています。特に食品に関わる店舗、つまり食品の専門店やスーパーマーケット、レストランなどの設計が中心です。全国にクライアントがいて、こだわりを持った店舗づくりをされている方々の案件を多く手がけています。

――他社にはない強みはどのような点にありますか。

設計者である以前に「一人の消費者の代表である」という考えをベースにしています。自分が買い物をする立場で、「こうだったらいいな」と感じることを形にする。それが出発点です。

多くの店舗は売り手の発想でつくられていますが、買い手の目線で考えられていない部分も少なくありません。業界の常識を一度捨てて、消費者としての感覚から組み立て直し、提案し、形にしていく。それが私たちの仕事です。

また、世界中の店舗を実際に見て回り、トレンドや支持されている理由を自分の目で確かめています。ただし、それをそのまま持ち込むのではなく、地域性や独自性を加えて設計に反映します。どこかで見たような店ではなく、その場所ならではの価値を生み出すことを重視しています。

――設計において意識されていることは何でしょうか。

人間は五感の生き物です。視覚だけでなく、音や触感、空気感など、あらゆる感覚に訴える空間をつくりたいと考えています。例えば、食材を切る音や調理の音、床の質感、ドアノブの手触り、さらには音楽まで含めて設計します。今は無機質で整然とした店舗も多いですが、そうではなく、訪れたときに体験として記憶に残る場をつくることが重要だと考えています。

経営者の想いを形にする――オーナー視点とオリジナリティ

――クライアントとの向き合い方について教えてください。

最も大切にしているのは、クライアントが気に入る店をつくることです。経営者自身がその店に足を運びたくなることが重要で、そうすることで現場を見て改善点を見つけたり、お客様と直接コミュニケーションを取ることができます。そのため、オーナーが何を望んでいるのかを丁寧にヒアリングし、その人の価値観や趣向を反映した設計を行います。

結果として、クライアントのこだわりがそのまま店のオリジナリティになります。単なるデザインではなく、そのクライアントならではの店をつくることが重要です。

――設計の成果が売上にも影響することはありますか。

あります。例えば駅の売店の設計を担当した際、消費者目線で不便に感じる点をすべて洗い出し、それを改善する形で設計しました。販売員と客がやりとりがしやすい様にバックを置けるカウンターを設置したり、商品配置の工夫など細かな部分まで見直した結果、売上が大きく伸びました。声には出されない不満を解消することが、結果につながると実感しています。

建築の道から現在へ

――この仕事を始められたきっかけを教えてください。

もともと建築を学び、その道に進もうと考えていました。最初に入った会社が店舗づくりを行う会社で、そこでこの仕事の面白さを知りました。札幌で9年間勤務し、その後国内はもとより、海外(欧米)の店舗を見て回る中で、さらに刺激を受けました。

その後、東京に拠点を移し、食品関連の商業施設に本格的に関わるようになりました。そこから独立し、現在に至ります。

――東京から北海道に拠点を移されたそうですね。

全国各地で仕事をしていますが、必ずしも東京にいる必要はないと感じます。今はWeb会議やネット環境が整っているので、場所に縛られずに仕事ができるようになりました。もちろん打ち合わせや現場確認のため現地にも足を運びます。仕事を続ける中でもっと環境の良い場所で仕事をしたいという思いがあり、昨年東京から北海道に拠点を移しました。自然が豊かで静かな環境は、仕事にも良い影響を与えていると感じます。

信頼で成り立つ仕事

――仕事を受ける際に大切にしていることは何でしょうか。

クライアントとの信頼関係を築くことが大切だと考えています。設計の仕事は形のない状態から始まるものなので、お互いの信頼関係が無ければ成立しません。仕事を受けた以上、お店が完成したときに「マーヴェラスに依頼して良かった」と言ってもらえるよう全力で取り組みます。

また、営業活動はほとんど行っていませんが、紹介や口コミで仕事が広がっています。目の前の仕事に全力で取り組み、その結果を見てくれた人が次につながることが理想だと考えています。

チームと品質へのこだわり

――組織運営について教えてください。

固定の社員という形ではなく、プロジェクトごとにチームを組んでいます。建築、インテリア、照明、グラフィック、アート、音楽など、各分野の専門家と連携しながら進めます。長年一緒に仕事をしてきたメンバーが多く、設計の意図や方向性を理解してくれていることが大きな強みです。

また、ディスプレイや照明器具なども含めて、オリジナルで制作し納品することが多いです。設計だけでなく、空間全体の完成度を高めるための取り組みです。

――仕事において最も大切にしていることは何ですか。

自分が納得できるかどうかです。最終的な判断基準はそこにあります。納得できない状態で世に出すことはできません。だからこそ、完成するまで徹底的に向き合います。

地域と調和する公共性という視点

――社会にどのような影響を与えたいとお考えですか。

店舗はその地域の景観に影響を与える存在です。だからこそ、周囲の環境を壊さず、むしろ良くするような設計を目指しています。外観は公共性を持つものとして捉え、違和感なく周囲に溶け込むデザインを意識しています。

例えば、ある地域では派手な看板や照明を排除し、落ち着いた外観の店舗を提案しました。その結果、地域の方からも評価をいただき、環境が良くなったと言っていただけました。店舗は単なる商業施設ではなく、その地域の一部として存在するものだと考えています。

日常の中で生まれるアイデア

――リフレッシュ方法について教えてください。

毎朝1時間ほどウォーキングをしています。自然の中を歩くことで、前日までアイデアで悩んでいたことが整理され、考えがまとまることが多いです。私にとって非常に大きな意味を持つ時間になっていると思います。

――最後に、読者へのメッセージをお願いします。

設計という仕事は、形のないところから始まる信頼の仕事です。だからこそ、私たちの設計した空間を見て興味を持っていただけたら、一度お会いしてお話ができればと思っています。

自分が役に立てることがあれば、しっかりと応えていきたい。そうした出会いを大切にしながら、これからも一つひとつの仕事に向き合っていきたいと考えています。

ホームページに美しい写真とともに今まで手掛けたプロジェクトを紹介していますので、是非ご覧ください。

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