新たな鋳造技術で業界の常識を覆す――唯一無二の「Hプロセス」が切り拓く未来
株式会社会津工場 代表取締役社長 鈴木 直記氏
自動車産業を支える基盤技術の一つである鋳物。その世界において、独自の技術で新たな価値を創出し続けているのが株式会社会津工場です。約40年にわたり開発を続けてきた「Hプロセス」は、高精度・薄肉・複雑形状を実現し、従来の鋳造の常識を覆す技術として注目されています。本記事では、代表取締役社長・鈴木直記氏に、事業の特徴や技術開発の背景、組織運営の工夫、そして今後の展望について伺いました。
鋳物の常識を覆す独自技術「Hプロセス」
――現在の事業内容について教えてください。
当社は一言で言えば鋳物メーカーです。溶けた鉄を型に流し込み固めたものを鋳物と呼びますが、その中でも当社は自動車関連の鋳物部品を主に製造しています。
全体の約90%が自動車関連で、エンジン内部の部品やターボチャージャー、ミッション部品など幅広い用途に対応しています。完成車メーカーへ直接納めるのではなく、エンジンメーカーや部品メーカーなど、いわゆるティア2の領域に供給しています。
――御社の強みについて教えてください。
最大の特徴は「Hプロセス」という独自の鋳造技術です。これは当社が40年以上かけて開発してきたもので、世界でも当社しか実現していない製法です。一般的な鋳物は精度が低く、最終的には切削加工によって仕上げる必要があります。
しかし当社では、最初から完成品に近い精度で製造することが可能で、寸法のばらつきを従来の約10分の1に抑えられます。これにより後工程の削減が可能となり、コストや工数の削減につながっています。
また、強度を保ちながら薄肉化を実現できる点も特徴です。自動車部品には軽量化が求められるため、この技術は性能や燃費の向上にも寄与します。さらに複雑形状にも対応できるため、設計の自由度も大きく広がります。
設計段階から関与する営業戦略
――どのようにしてその技術を市場に展開しているのでしょうか。
鋳物業界は基本的に価格競争が激しいレッドオーシャンです。一般的には、完成された図面をもとにいかに安く作るかという勝負になります。しかしそれでは当社の技術は活かせません。
そこで当社は、自動車メーカーの設計段階から直接アプローチし、当社の技術を前提とした図面を引いてもらうという戦略を取っています。
その図面は他社では製造できない仕様になるため、結果的に当社にしかできない仕事となり、競争のない領域、いわゆるブルーオーシャンを確立できます。この点が当社の大きな特徴であり、長年苦労して築いてきた取り組みです。
――業界全体の課題についてどのように捉えていますか。
鋳物業界は古くからある産業で、新規参入も少なく、後継者不足などにより事業者数は減少しています。一方で、鋳物自体は紀元前から続く技術であり、簡単になくなるものではありません。だからこそ、従来のやり方にとどまらず、新しい技術で差別化し、生き残りを図る必要があると考えています。
現場経験が生んだ経営スタイル
――経営者になられた経緯を教えてください。
私は福島県只見町で生まれ育ち、高校卒業後に当社へ入社しました。当初は大学進学も考えていましたが、家庭の事情で断念し、そのまま働き始めました。入社後は千葉の関連会社で修行し、非常に忙しい環境の中で仕事に没頭することになり、結果的に進学の道は諦めました。
その後、会津工場に戻り、「Hプロセス」の開発に携わるようになりました。当時は明確な事業計画があったわけではなく、「より良いものを作りたい」という思いから試行錯誤を重ねてきました。
また、実質的に社長不在の状況だったため、銀行対応や顧客との交渉なども担い、自然と経営に関わるようになりました。40代半ばで前任者から引き継ぐ形で社長に就任し、現在に至ります。
――仕事をする上で大切にしていることは何でしょうか。
現場で長く働いてきた経験から、単調な作業が続くと職場の空気が停滞してしまうことを実感しています。そのため、常に新しい刺激を与え、空気がよどまないようにすることを意識しています。
挑戦を生む「勝手に試作」の仕組み
――組織運営で工夫されている点を教えてください。
当社では「勝手に試作」と呼んでいる取り組みがあります。お客様のニーズを想像し、まだ存在しない部品を先に作って提案するというものです。図面ではなく実物を持っていくことで、より強い訴求ができます。
もちろん難易度は高く、現場からは大変だという声もあると思いますが、技術者は挑戦することで成長します。日々の量産業務に加えて新しい課題に取り組むことで、技術力の向上とモチベーションの維持につながっています。
さらに、この試作はあくまで自主的な取り組みのため、失敗しても責任を問われることはありません。そのため、限界に挑戦できる環境が生まれています。成功したものだけを顧客に提案することで、高い評価につながるケースも多くあります。
環境価値を生み出す技術の可能性
――今後の展望について教えてください。
Hプロセスは、高精度であるがゆえに不要な切削加工を減らすことができます。従来は余分に作った素材を削り落としていたため、エネルギーや資源の無駄がありましたが、この技術によってそれを削減できます。また、薄肉化による軽量化も実現できるため、環境負荷の低減にも貢献できます。
こうした点から、SDGsやCO2削減といった現代の課題にも合致する技術だと考えています。将来的には、このHプロセスが鋳物業界のスタンダードとなるよう、広く発信していきたいというのが大きな目標です。簡単ではありませんが、この技術を開発してきた意義はそこにあると感じています。
技術と挑戦で未来を切り拓く
――最後に、リフレッシュ方法について教えてください。
体を動かすことが好きで、冬はスキー、夏はマラソンをしています。ほかにもゴルフを楽しんでいます。そうした時間が気分転換になり、仕事への活力にもつながっています。