地域と人の「コンディション」を整える――農業への恩返しから始まった挑戦
株式会社アグリ・フィットネス 代表取締役 髙橋利広氏
株式会社アグリ・フィットネスは、フィットネス事業を軸に地域の健康づくりとコミュニティ形成に取り組む企業です。一般的なジム運営にとどまらず、高齢者向けの介護予防事業や地域密着型の健康教室を展開し、「日本のコンディションを整える」というビジョンを掲げています。本記事では、代表取締役の髙橋利広氏に、事業の特徴や経営の背景、今後の展望について伺いました。
農業への恩返しから生まれたフィットネス事業
――現在の事業内容について教えてください。
フィットネス事業を中心に展開しています。大きく分けると、通い放題の会員制コースとパーソナルコースの2つがあり、それぞれのニーズに応じた形で提供しています。
特徴としては、通い放題であっても「自分で自由にやってください」というスタイルではなく、一人ひとりに合わせたプログラムを組む点です。利用者は、ダイエット目的の方もいれば、膝や腰、肩に不調を抱えている方もいます。そうした個々の状態を丁寧にカウンセリングし、トレーナーが適切な運動メニューを提案します。最初はできるようになるまでしっかりサポートし、慣れてきたら自立して取り組んでいただく。その後も定期的にフォローを入れるという形です。
また、介護保険事業の委託として「貯筋教室」も実施しており、南島原市と島原市で合計18カ所、65歳以上の方を対象に運動指導を行っています。インストラクターを外部委託しながら、足りない部分は自分自身も現場に出て対応しています。
――「アグリ・フィットネス」という社名の由来を教えてください。
もともと農協に勤務しており、長年農家の方々を支える仕事をしてきました。農業に携わる方々に育ててもらったという想いがあり、その恩返しをしたいという気持ちがあります。
農家の方は長年の肉体労働で膝や腰などに大きな負担がかかり、体がボロボロになっているケースが多いです。もっと早く体のケアをしていれば長く現役でいられたはずだと感じることも多く、そうした方々の支えになりたいという思いが事業の根底にあります。
「アグリ」には農業の意味に加え、達成・成長・改善・維持といった意味も込めています。通うことで体の状態を整え、さらに良くしていく場所でありたいという考えです。
挫折と葛藤が導いた経営への道
――フィットネスの道に進まれたきっかけを教えてください。
学生時代はスポーツに打ち込んでおり、特に陸上競技に力を入れていました。ただ、怪我によって思うように結果を出せなかった経験があります。自分より実力が下だと思っていた選手が活躍する姿を見て悔しい思いをしましたし、「なぜ怪我を防げなかったのか」とずっと考えていました。
社会人になってからもスポーツを続けましたが、やはり怪我の問題はつきまといました。その中で「正しい知識やサポートがあれば違ったのではないか」という思いが強くなりました。
もともとは体育教師を目指していましたが、家庭の事情で地元を離れられず農協に就職しました。仕事はやりがいもありましたが、次第に「自分の人生として何をやるべきか」を考えるようになり、最終的にこの道を選びました。
――経営において大切にしている価値観を教えてください。
まずは「人の話を聞くこと」です。独立当初は、自分で全て決めて突き進むスタイルでしたが、うまくいかず大きく落ち込みました。自分の実力不足を痛感し、そこから考え方が大きく変わりました。
今は、スタッフの意見も含めてしっかり聞いた上で判断するようにしています。最終的な決断は経営者として行いますが、その前提として「聞く姿勢」を大切にしています。
地域を支える組織づくりと人材観
――組織運営で意識されていることは何ですか。
スタッフは業務委託やアルバイトも含めて14名ほどで運営しています。その中で意識しているのは、やはりコミュニケーションです。特に「まず聞く」という姿勢は徹底しています。
過去の経験から、トップダウンだけでは限界があると感じています。現場の声を取り入れることで、より良いサービスにつながると考えています。
――人材採用で重視している点はありますか。
素直な人です。知識や経験も大切ですが、それ以上に人の話を受け止められる姿勢が重要だと思っています。実際に一緒に働いているメンバーの中にも、そうした姿勢を持った方が多く、非常に助けられています。
地域から日本へ広がる「コンディションづくり」
――今後の展望について教えてください。
大きなビジョンとして「日本のコンディションを整える」という目標を掲げています。その第一歩として、まず地元である島原半島を「日本一元気なシニアが多い地域」にしたいと考えています。
高齢化が進む地域ですが、それをネガティブに捉えるのではなく、元気に生活する高齢者が当たり前の風景になる社会を目指しています。
そのための取り組みとして、「サポートトレーナー制度」を構築しています。資格のハードルをあえて低く設定し、多くの人が参加できる形にすることで、地域全体で健康づくりを支える仕組みを作りたいと考えています。
例えば、各自治会の公民館で運動教室を開催すれば、歩いて通える距離で参加できる人が増えます。そこに人が集まることでコミュニティも生まれ、体だけでなく心や脳の活性化にもつながります。
さらに、参加者同士で「最近見かけない人がいる」といった気づきが生まれれば、地域の見守り機能としても機能します。こうした取り組みを通じて、地域全体を支える仕組みを構築したいと考えています。