未来のAIと高度な暗号技術で社会課題に挑む――Moonlight Technologiesが描く次世代テクノロジーの可能性
Moonlight Technologies株式会社 代表取締役 青木 雅裕氏
Moonlight Technologies株式会社は、独自の暗号化技術と革新的なAI開発を軸に、これからの社会に必要とされる技術の創出へ挑戦している企業です。既存技術の延長線上で競争するのではなく、世の中が本当に困っている課題に対して、新しい仕組みそのものを生み出そうとしている点に大きな特徴があります。本記事では、長年ソフトウェア開発の現場で培ってきた経験をもとに、自らの技術を社会に還元する場として会社を立ち上げた代表の青木雅裕氏に、現在の事業内容や、経営に対する考え方、組織づくり、今後の展望などについて詳しく伺いました。
独自の暗号技術と新世代AIを柱に事業を展開
――現在の事業内容や特徴について教えてください。
当社では、自社プロダクトの開発とOEM(他社ブランドの製品を自社工場で製造すること)開発の両方を手がけています。お客様のニーズに応じて技術提供を行う一方で、自社独自の研究開発にも注力している点が当社の特徴です。
現在、当社が主力事業として掲げている事業領域は、大きく分けて2つあります。1つ目は、独自の暗号化ソリューションです。すでに特許を保有しており、日本、アメリカ、中国、シンガポールでPCT(特許協力条約)出願して特許の取得が完了しています。これは、一般的な暗号化とは異なり、データを複数に分割し、安全性を高めながら効率的に管理できる仕組みです。さらに、「誰が」「いつ」「どこで」「どの期間の」ファイルを復元できるかまで制御できるため、情報漏えい対策や機密情報管理の分野で高い有用性があると考えています。
2つ目は、新しいAIの研究開発です。「EvoSpikeNet ( www.evospikenet.org)」は、生物の脳の仕組みを高度に模倣したスパイキングニューラルネットワーク(SNN)を基盤とする分散脳シミュレーションフレームワークです。従来の中央集権型クラウドAIとは異なり、以下のような革新的な特徴を持ちます。
- 圧倒的な省電力とエッジ動作: 必要な時にだけ計算を行うイベント駆動型のスパイク計算と、Int16整数・スパース行列設計を採用しています。これにより、従来の深層学習(CNN等)と比較して消費電力を60〜70%削減し、スマートフォンなどのエッジデバイスでも軽量に動作します。
- 生物学的な構造と高速な継続学習: 実在の神経回路地図(コネクトーム)を構造的制約として組み込み、破滅的忘却を防ぎます。また、脳の報酬系を模倣したMeta-STDP(メタ学習)により、未知の環境変化に対しても従来のAIより75%高速に適応します
- 機能特化型の分散脳アーキテクチャ: 前頭前野(PFC)、視覚認知、空間処理、記憶、運動などに対応する最大33の専用ノードが、インターネット不要の超低遅延通信(Zenoh)を通じて連携し、一つの巨大な脳として協調動作します
- 自律的なメタ認知と創造性:システムの中枢である「Q-PFC」が自身の判断の迷い(認知エントロピー)をリアルタイムで計測して動作モードを切り替えます。さらにDMN(デフォルトモードネットワーク)を用いて、前例のない斬新な解決策を自律的に提案する創造性を備えています
- 究極のプライバシー保護:個人や現場の生データを外部に一切出さず、スパイクのタイミングを利用した独自の暗号化(Spike Encryption)と非同期フェデレーテッド学習を組み合わせることで、クラウドに依存しない完全なデータ主権とセキュリティを実現します
一言でまとめると、「超省電力かつ高セキュリティで、個人のプライバシーを守りながら自律的に考え、環境に適応し続ける生きたAIインフラ」です。
――こうした事業を始められた背景には、どのような想いがあったのでしょうか。
世の中には、まだ解決されていない課題が数多くあります。たとえば企業の情報管理では、ランサムウェア被害や内部からの情報流出、誤送信による事故など、日々さまざまなリスクが発生しています。そうした現実に対して、机上の理論ではなく、本当に使える解決策を技術で提供したいという想いがありました。
AI分野についても同様です。現在のAIは膨大な計算資源や電力を必要とするものが多く、大規模な計算資源や電力を必要とするケースもあります。だからこそ、もっと小さな端末でも動き、誰でも使いやすく、しかも信頼できるAIをつくりたいと考えています。
経営者としての原点になったのは、技術者としての経験
――経営の道に進まれたきっかけを教えてください。
私は、もともと経営者を目指していたわけではありません。長く、開発者としてコンピュータ言語やソフトウェア開発に携わってきており、技術そのものに向き合い、新しいものをつくることが仕事の中心でした。
しかし、所属していた企業が海外事情によって日本法人閉鎖となる経験をし、外部環境によって自分の仕事の場が左右される現実も知りました。その経験を通じて、自分で価値ある技術をつくり、自分の意思で社会へ届けられる場所を持つ必要性を感じたのです。
その結果として、会社経営に至りました。そのため、経営者になりたかったというより、自分が信じる技術を世の中へ届けるための手段として「経営」という選択肢があったという感覚です。
――経営判断の軸や理念として大切にしていることはありますか。
当社が理念として大切にしているのは、「自分の価値と他人の価値を比べないこと」です。人には、それぞれに得意分野があり、異なる考え方があります。当社では、その違いに優劣をつけるのではなく、「どのように融合させて一つの価値に変えていくか」を重視しています。
技術開発の現場では、異なる視点があるからこそ新しい発想が生まれます。経営においても同じで、同質的な組織より、多様な価値観が共存する組織のほうが強いでしょう。だからこそ、相手を否定せず、まず受け入れる姿勢を大切にしています。
少数精鋭だからこそ実現できる、風通しのよい組織運営
――組織運営や社内コミュニケーションで意識していることを教えてください。
現在は少人数体制で事業を進めており、人数が少ないからこそ、日常的な会話量も多く、意思決定のスピードも速い環境を実現できていると自負しています。何か課題があればその場で話し合い、改善に移していくようなスタイルです。
以前には、より大きな組織を運営していた時期もありました。そのときから一貫していたのは、上下関係を強く意識しすぎないことです。役職や立場よりも、よい意見かどうか、現実的かどうかを重視してきました。
プロダクトの方向性についても、一人の判断だけで決めるのではなく、話し合いながら合意形成して進めています。技術開発は変化が速いため、柔軟に意見交換できる環境が重要です。
――今後採用するとしたら、どのような人材と働きたいですか。
まず大切なのは、自分で手を動かせる人です。考えることは重要ですが、実際に形にして試せる人は非常に貴重です。アイデアを持つだけでなく、試作し、動かし、結果を見て改善できる人材を求めています。
さらに、それがなぜよいのか、何を変えられるのかを自分の言葉で説明できることも重要です。技術はつくるだけでなく、価値として伝える力も必要であるためです。
当社が現在取り組んでいる領域は、AI、数学、情報工学、脳神経科学など専門性の高い分野が交差しています。そのため、深い専門知識を持ちながら、新しい領域にも好奇心を持って学べる人と一緒に挑戦したいと考えています。
次世代AIの社会実装へ向けた挑戦
――今後の展望についてお聞かせください。
現在、当社では全く新しいAIの社会実装に向けた取り組みを進めています。特許出願も多数進めており、技術基盤の整備と知財戦略を同時に進めている段階です。
目指しているのは、クラウド依存型ではなく、端末側で学習・判断・進化できるAIです。たとえば通信環境が不安定な場所でも機能し、自律的に判断できる仕組みが実現すれば、自動運転、ロボティクス、産業機器など幅広い分野への展開が期待できます。
現在は資金調達や外部企業との連携も進めながら、実証と改善を重ねているフェーズです。新しい技術は完成するまでに時間がかかりますが、その分、世の中に与えるインパクトも大きいと考えています。このAIを、より便利で、より公平に使えるものとして世の中に広げていきたいです。