存在だけで愛される、ありのままの奇跡を信じて。重症心身障害児と歩む「ただいま」の居場所

一般社団法人七彩のはな 理事長 長沼 伊津子氏

「何もしなくていい。ただ、そこにいてくれるだけでいい」。この言葉を掲げ、重症心身障害児や医療的ケア児のための放課後等デイサービスを運営するのが、一般社団法人七彩のはなです。理事長の長沼伊津子氏は、福祉・保育の現場を歩む中で、効率や訓練が優先されがちな障害児支援の在り方に一石を投じました。

設立から4年。大手資本が参入し、入浴や宿泊といった「利便性」が重視される業界において、同法人はあえて「ありのままの命を喜び合う」という本質的なケアを追求しています。重いハンディキャップを背負いながらも懸命に生きる子どもたちが、評価されることなく、ただ存在することを全肯定される場所。そんな「魂の安らぎ」を守り続ける長沼氏の志と、深刻な人手不足に直面しながらも未来を見据える決意に迫りました。

命の輝きをそのままに。効率を超えた「共生」のカタチ

——まずは、一般社団法人七彩のはなの事業内容と、大切にされている理念についてお聞かせください。

私たちは、主に重症心身障害児や医療的ケア児を対象とした放課後等デイサービスを運営しています。現在、ホームページの刷新を進めているのですが、そこで掲げようとしているキャッチフレーズが「何もしなくていい。ただ、そこにいてくれるだけでいい」というものです。

今の福祉現場では、機能訓練や療育といった「何かをプラスする」ことに重きが置かれがちです。しかし、重い障害を持って生まれてきた子どもたちが、日々学校へ行き、さらにデイサービスでもリハビリに追われる……。そんな過密な生活の中で、本当に必要なのは「ありのままの自分で愛される時間」ではないかと感じています。風が吹いたときにその心地よさを一緒に感じ、今この瞬間を共に喜び合える。国が定める固定概念にとらわれず、存在そのものを肯定する施設でありたいと考えています。

——他社との差別化や、強みについてはどのようにお考えですか。

正直なところ、設備や規模では大手には勝てません。近隣には入浴設備やショートステイを備えた立派な施設も増えています。親御さんのレスパイト(休息)を考えれば、そうした機能は確かに重要です。しかし、私たちは「子どもたちにとっての居場所」という原点に立ち返りたい。

何かができるから価値があるのではなく、そこに命があること自体が奇跡である。その強いメッセージを、関わるすべての子どもたちから教えてもらいました。言葉にするのは難しいのですが、触れ合う中で五感を育み、魂が安らげる空間を作ること。それが、私たちが4年間守り続けてきた唯一無二の「核」だと思っています。

流れの中にあった「必然」。困っている誰かのために

——長沼社長が障害児福祉の領域で起業されたきっかけを教えてください。

実は、最初から「経営者になろう」と強く思っていたわけではありませんでした。元々は高齢者福祉や保育の現場に長く携わっていたのですが、ある障害を持つ方との出会いをきっかけに、この分野に深く興味を持ち始めました。その後、重症児施設で働いていたのですが、そこが職員不足などの理由で閉鎖されることになったんです。

「ここがなくなったら、行き場のない子どもたちが困ってしまう」。そんな切実な声が上がる中で、たまたま施設を建てられる場所とのご縁があり、「それなら私が受け入れよう」と。強い野望があったわけではなく、困っている人たちを放っておけなかった、というのが本音です。気がついたら立ち上げていた、という感覚に近いかもしれません。

——実際に経営を始めてから4年。どのような壁にぶつかりましたか。

国が定める支援計画の基準と、現場で向き合っている子どもたちの実態との乖離には常に悩まされています。また、家族支援という名目で親御さんの負担を減らすことが優先され、結果として子ども本人が置き去りにされているのではないかという違和感も感じました。しかし、赤字が続く厳しい経営状況や人手不足の中でも、うちを頼りにしてくれる子どもたちがいる限り、この火を消してはいけないという責任感でここまで歩んできました。

介護者の負担を「心」と「仕組み」で支える

——福祉業界全体の課題でもある「人材確保」について、御社の現状はいかがでしょうか。

まさに今、最大の危機にあります。福祉、特に重症児のケアは非常に重労働です。子どもが大好きで志を持って入ってきてくれた職員でも、腰を痛めたり体力が続かなかったりして、泣く泣く現場を去るケースが後を絶ちません。「できる人に負担が集中し、その人が潰れてしまう」という悪循環をどう断ち切るかが大きな課題です。

国は処遇改善として給与を上げようとしていますが、お金だけで解決できる問題ではないと感じています。どれだけ給与が上がっても、体を壊してしまえば元も子もありません。抱え上げや移乗の負担を減らす設備への補助など、もっと根本的な現場への配慮が必要です。

——職員の方々とのコミュニケーションで大切にされていることはありますか。

「できないことを申し訳ないと思わないで」と伝えています。できない自分を責めて辞めていく方も多いのですが、そうした優しい心を持った人こそが現場には必要です。今後は、無資格の方でも意欲があれば受け入れ、専門的な研修を充実させる仕組みを作っていきたいと考えています。また、現場の負担を少しでも減らすために、事務作業を外部に切り分けるなど、今ある人材が子どもたちとの接点に集中できるような環境づくりを模索しています。

価値観をシフトする。生きている喜びを分かち合う未来

——今後の展望や、長沼理事長が描く「未来の姿」を教えてください。

今の社会は、勉強ができる、スポーツができるといった「生産性」や「一律の基準」で人を評価しすぎているように感じます。それが不登校やニートの増加、そして障害児への過度な療育の押し付けに繋がっているのではないでしょうか。

私が目指すのは、そんな価値観をシフトさせることです。何もできなくても、今日も元気で笑って過ごしてくれた。それだけでお母さんもスタッフも幸せになれる。そんな「存在するだけで愛される」という当たり前のことを、この施設から発信し続けたい。動かなかった手が動くようになったといった小さな変化ももちろん大切ですが、それを目的にするのではなく、触れ合い、笑い合える時間を最大化すること。それが私の使命だと思っています。

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