小さな場所に、大きなピース・オブ・マインドを──ケアランドあきたが紡ぐ“人生のクライマックス”

有限会社ケアランドあきた 代表 阿部幸之 氏

高齢化が進む中で、介護のあり方は大きな転換期を迎えています。秋田市に拠点を置く有限会社ケアランドあきたは、小規模なグループホームとして21年にわたり地域に根差したケアを続けてきました。本記事では、事業の特徴や理念、阿部幸之氏の歩み、そしてこれからの展望について伺いました。

小規模だからこそ守れる暮らし──現在の事業と理念

――現在の事業内容について教えてください。

2005年に開設した認知症対応型共同生活介護、いわゆる高齢者グループホームを運営しています。定員9名の最小単位のユニットで、21年続けてきました。効率を考えれば2ユニット(定員18名)が一般的ですが、立地や環境の制約もあり、この規模で続けています。

これまで小さいからこその苦難があり、しかしながら小さいからこそ柔軟に乗り越えられたことも多かった。規模が小さいことは決してマイナスばかりではないと感じています。特に認知症ケア現場は小規模かつ家庭的であることが求められてきました。

――事業の特徴や理念について教えてください。

厚生労働省や自治体が推進する「認知症になっても安心して暮らせる」環境を実現できる閑静ながら利便性に優れた住宅地の中にある点が特徴です。認知症になっても、これまでの暮らしや馴染みの人々と切り離されるのではなく、日常の延長として過ごせることを尊重し、街の景色や息遣いも含めて、その人の人生を支える認知症ケアを構築したいと考えています。

理念として掲げているのは「気ままにゆったりマイペース・人生のクライマックスを共にする」という考え方であり、起床や食事のタイミングを無為に揃えるのではなく、あくまでもそれぞれの生活のペースを尊重しています。夕日が一番美しい瞬間のように、人生の終盤ならではの輝きがあるのです。

経験が導いた道──キャリアと経営者としての原点

――経営の道に進まれたきっかけを教えてください。

父も小さな会社を経営していたこともあり、いつしか経営者になることを意識していました。社会に出た最初こそ大企業に就職しましたが、その会社が在宅医療や民間搬送サービスに進出したことや、勤めながら様々な会社組織を見ることができたのに加え、介護保険制度が始まるタイミングも重なり、新しい仕事に取り組みたいと考えるようになっていました。同じくして早くに父が亡くなり転勤のある会社ではなく、地元で家族と暮らしながら働きたいとも思い始めたのです。

自分が育った周囲には高齢の方が多く、いわゆるバァチャン子でもあった、そうした環境も影響していたのでしょう。介護保険制度が始まったタイミングで訪問介護に関わり、センター長として管理運営に携わりました。必要とされている手応えがあり、ライフワークとして認識していきました。

その後、勤務先の経営状況が大きく変わり、仲間と新たに立ち上げる流れになりました。はじめは当然、訪問介護も検討しましたが規模的に難しく、小規模のグループホームという形にたどり着きました。開業準備を進める中で仲間はそれぞれの道に就職していき、最後に残ったのは自分一人でしたが、それでも自分にはこれしかないと続けました。

判断の軸にあるのは「正しさ」と「まず動くこと」です。迷って止まるより、一歩踏み出すことを優先してきました。その積み重ねが、結果として今の形につながっていると思います。開業まで困難もありましたが、あきらめずに継続できたのは、できるだけ多くの人に自分の考えを伝え続けることでした。

任せることで生まれる信頼──組織運営と人との関係

――組織運営で大切にしていることは何ですか。

認知症ケアには知識や資格や経験も必要ですが、職員どうしがうまくいっていて和やかな雰囲気を醸成できるかが最も重要です。求める人材としては、特別なスキルよりも人の話を聞ける力や共感力を重視しています。バリバリと成果を出すタイプよりも、周囲と調和しながら動ける人の方がこの環境には合っています。何よりその空気感は入居者様にも伝わるものですから。安心できる雰囲気は、人がつくるものだと実感しています。日々の何気ない声かけや表情が、認知症介護現場を彩って事業所のカラーとなっています。

余裕をもった配置も重要です。深刻な人材不足が報じられる介護業界ですが、介護職員に余裕がなくなれば前記のような雰囲気づくりは難しくなります。それには第一に休みやすいこと。例えばシフト勤務に入っていると、本人が体調不良のときでも、休めば他の人が代わりに出勤する必要がある、ということを考えてしまいます。そこを言い出し易くする環境を作っておくことが組織の責任の最たるところと踏まえてやってきました。むしろ体調が悪そうなときはこちらから声をかけて休ませる。それがひいては利用者様と現場を守ることに直結します。

秋田から生まれるモデル──これからの挑戦

――今後の展望について教えてください。

秋田は全国で最も超高齢化・過疎化が進み、社会のあり方そのものが変わりつつあります。これまでのように「見守られながら暮らせる場所」としての役割だけではなく重度化・終末期への向き合い方や地域とのつながりなど課題は増えています。

介護保険制度のスタート前から「認知症介護の切り札」とされてきたグループホームの役割をいま一度見直す必要があると考えます。生活の場としての機能を保ちながらも、地域の相談窓口としての役割や、終末期も対応できる機能、公的機関をはじめ事業者間の連携のさらなる強化も。これが全国で最も、ということは、世界で最も、ということでもあり得るわけで、秋田での取り組みは、いずれ他の地域にとっての参考になる可能性があります。地域全体で「秋田モデル」と呼ばれるような形をつくりたいです。

在宅で生活している高齢独居の方や、老々世帯への見守り・支援についても社会システムとして柔軟性や量的な対応力も求められていきます。当施設としても小さいながら自施設の中だけで完結するのではなく、地域全体の中でどんな役割を担えるのかを模索していきたいです。

今後の事業計画として介護保険だけに依存しない形も模索しています。介護保険事業だけでは厳しい時代になっていますし、その準備も少しずつ進めています。変えない部分と変えていく部分、その両方を見極めながら進めていきたいです。

「隣にいること」から始まるケア──価値観と日常

――大切にしている価値観を教えてください。

仮説として、私たちが眠っている間に見る、夢の中で感じるような不安や焦りを、認知症の方は起きている間に感じているかもしれない。とすれば私たちの想像を超える苦しみの中にその人は居るのかもしれない。そう考えると、その状態に寄り添うことの重みが見えてきます。介助とか介護という前に、まずは隣にいること、その人から見えて、一緒にいて安心してもらえること、が大事だと思っています。

だからこそ私たちは表情や身だしなみや言葉遣いを大切にします。笑顔で一緒にいること、話を聞くこと。そこから信頼が生まれていき、少しずつ安心感につながっていく。技術や介助はその後に続くものだと考えています。

個室と共有空間のバランスも大切にしています。プライバシーが確保され一人で落ち着ける個室がありながら、必要なときにはホールで馴染みの人と関われる。自分のペースでその行き来ができる環境こそが心の安定を支えるグループホームの、建物としての機能としています。

――リフレッシュ方法について教えてください。

リフレッシュの方法はとにかく屋外に出ることでしょうか。ドライブをしたり、海辺でくつろいだり、外の空気に包まれる時間を大切にしています。空と雲の下で風に吹かれることで、ゆるやかに、または鮮烈に、心身が整っていく感覚になります。お酒が飲めないのでぼんやりと喫茶店で過ごす時間も大切で、そうしていると散らかった頭の中で優先順位がついたりして、だったらこうしてみよう。という気持ちにまとまり前進するギアに切り替わります。

こうして自分自身を整えながら、関わる一人ひとりに向き合っていきたいと思います。6月あたりの日本海は冬とは正反対。鏡のように穏やかな海面で、まるで湖のようです。その夕日はサイコーですよ。

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