“働ける”を諦めない社会へ──HEサポートが目指す、自立を支える福祉のかたち
合同会社HEサポート 代表 林 裕章 氏
精神的な不調や働くことへの不安を抱え、「社会に出たいのに自信が持てない」と悩む人は少なくありません。そんな方々に寄り添いながら、“一般就労”という未来を見据えた支援を行っているのが合同会社HEサポートです。本記事では、医療・介護・福祉を横断しながら地域に根差した支援を続ける林裕章氏に、事業への想いや立ち上げの背景、組織づくり、そして今後の展望について伺いました。
目次
“働く自信”を取り戻す──HEサポートの現在地
――現在の事業内容について教えてください。
当社では、障害者就労支援事業を行っています。対象としているのは、主に精神的な不調を抱えている方です。たとえば、うつ病などが原因で働くことに不安を感じていたり、仕事が長続きしなかったり、学校に馴染めずスキルを身につける機会が少なかった方ですね。
そうした方々に対して、社会に出るための準備を支援しています。働きながら自信をつけてもらったり、勉強を通してスキルを身につけてもらったりしながら、最終的には一般企業への就職を目指していく形です。
うちでは「移行型(就労移行支援)」と「A型(就労継続支援A型) 」の2つを運営しています。移行型は、いわば職業訓練校のような位置づけで、WordやExcelなどの資格取得を目指しながら学んでいただきます。一方のA型は会社として運営しており、最低賃金を支払いながら実際の仕事に取り組んでもらっています。
訓練内容としては、ブラインドタッチやOfficeソフトの習得から始まり、人によってはホームページ制作や漫画制作、将来的にはメタバース関連の技術に触れている方もいます。A型では、外部から受けた仕事をみんなで進めており、会議の文字起こしや資料整理、広告用漫画の制作なども行っています。
ただ、最近はAIの進化が本当に速く、文字起こしのような“誰でもできるけれど時間がかかる仕事”が減ってきました。そこは大きな変化ですね。だからこそ、新しい仕事をどう作っていくかを考える必要があり、人材紹介事業も別法人で立ち上げました。現在は、その事業で受けた仕事をHEサポート側で担う形も増えています。また、後述する本業の介護事業を生かし、介護職への道筋をつける試みもはじめました。
医療・介護・福祉をつなぎたい──立ち上げの背景
――経営者になられたきっかけを教えてください。
もともと私は、父が開業したクリニックを継ぎました。父の背中を見て育ち、医師を志しました。外科医として経験を積み、その後、子どもが生まれたタイミングも重なって地元に戻ってきました。
戻ってからは、クリニックだけでなく老人ホームも立ち上げ、医療と介護の両方に関わるようになりました。その中で地域活動にも参加するようになり、PTAなどを通じて、地域はいろんな人に支えられているんだと実感したんです。
横断歩道で子どもを見守っている高齢者の方、市役所の方、会社員の方など、みんなが少しずつ地域を支えている。自分もこの町で生きていく以上、何か役に立てることをしたいと思うようになりました。
その時に強く感じたのが、医療・介護・福祉はもっと連携できるはずだということでした。実際、医療や介護の現場でも、福祉の支援が必要な方はたくさんいます。
私は、障害者として働くことを否定したいわけではありません。ただ、できるなら一般枠で、自分の力で働けるようになってほしい。その人の“できること”を社会の中で活かしてほしいんです。
A型事業所の中には、長く通い続けることを前提にしているケースもあります。でも私は、「ここを卒業して次に進む」という道も作りたい。簡単ではありませんが、自立を支える福祉でありたいという気持ちは強いですね。
崩れかけた組織を立て直して気づいたこと
――組織づくりで大切にしていることを教えてください。
正直に言うと、立ち上げ当初はかなり苦労しました。スタッフ6人でスタートしたんですが、人間関係が本当にうまくいかなかったんです。
半年ほど経った頃には、お互いが険悪な雰囲気になり、全員が辞めたいと言い出す状況でした。今振り返ると、私自身がクリニック中心になっていて、HEサポートに十分関われていなかったことが大きかったと思います。
医療従事者の離職率は高い中で、幸い経営するクリニックは離職率が非常に低く、長年働いてくれるスタッフばかりだったので、“人の問題”にここまで悩む経験がなかったんです。その感覚のまま始めてしまった部分がありました。
そこからは、私自身がHEサポートにできるだけ顔を出すようにしました。妻も医師なので、クリニックを一部任せながら、利用者さんやスタッフと何度も話を重ねました。
もちろん、「うちとは合わないかもしれない」と判断した方もいました。結果としてスタッフは半分以上入れ替わりましたが、その過程を経て少しずつ雰囲気が良くなっていきました。
今では、サービス管理責任者が3人も在籍していて、他にはなかなかない、かなり安定した体制になっています。目標に共感してくれる人が集まってくれたことは本当にありがたいですね。
結局、どんな事業でも最後は“人”だと強く思います。制度や仕組みも大切ですが、それだけでは回らない。だからこそ、しっかり話をすること、人と向き合うことを大切にしています。
AI時代だからこそ、“人が必要な支援”を磨く
――今後の展望について教えてください。
HEサポートがオープンしたのは一昨年8月で、まだ定員も満員には達していません。まずは利用者さんを増やしながら、卒業して一般就労に進む方をもっと増やしていきたいですね。
今後は、介護分野との連携もさらに強めていきたいと思っています。実際、利用者さんの中には介護に興味を持つ方も多いんです。PCスキルに馴染めなくても、介護の道で力を発揮できる方もいます。
うちには関連法人として老人ホームもあるので、実習のような形で経験を積むこともできます。また人材紹介事業所で多くの介護事業所をご提案出来ます。そういう“別の選択肢”を提示できるのは強みかもしれません。
一方で、仕事づくりについてはまだまだ模索中です。AIが進化する中で、従来型の仕事だけでは厳しくなる。だからこそ、AIを学びながら、新しい形の支援も考えていかなければいけません。
本当は、将来的に移行型をもう1拠点作りたい気持ちもあります。ただ、今はまず足元を固める時期だと思っています。ようやく組織として落ち着き始めたところなので、まずは今の事業をしっかり安定させたいですね。
“人とのご縁”を大切にしたい
――最後に、ご自身のリフレッシュ方法について教えてください。
今は、福岡県保険医協会と言う、開業医を中心とする医師の団体で会長もしていて、休日も含め東京出張や福岡市内での会議がかなり多く、正直ほとんど休みがない状態です。
そんな中でも、一番癒されるのは子どもと過ごす時間ですね。高校生の子どもたちもいますが、小学2年生の息子が特に可愛くて、時間ができた時は公園に連れて行ったりしています。特別な場所じゃなくても、一緒に過ごす時間そのものが大切なんです。
また、この事業を通じて改めて感じたのが、人との縁のありがたさでした。PTAで知り合った方に後から助けてもらったこともあり、本当に多くのご縁に支えられてきたと感じています。
だからこそ、相手によって態度を変えたり、人を選んで接したりすることはしたくありません。どんな相手にも誠実に向き合うことを、これからも大切にしていきたいですね。