宇宙医療の最前線を切り拓く――Space Medical Acceleratorが描く“人類の宇宙進出”の未来

一般社団法人Space Medical Accelerator 代表理事 後藤 正幸氏

一般社団法人Space Medical Acceleratorは、宇宙医療やヘルスケア分野に特化した支援を行う組織です。宇宙空間における医学的課題に対し、企業や研究者へ専門的な知見提供を行い、新たな宇宙事業の創出を支援しています。本記事では、代表の後藤正幸氏に、現在の取り組みや宇宙医療の可能性、今後の展望などについて詳しく伺いました。

宇宙医療の知見で企業の新規事業を支援

――現在の事業内容について教えてください。

当法人は、「人の宇宙進出に医療分野で貢献する」というミッションのもと、宇宙医療・ヘルスケア領域における事業開発支援を手がけており、主に、宇宙分野への参入を目指す企業や研究者に対して、医学的な知見提供や事業化支援を行っています。

具体的には、宇宙空間における医学課題や市場ニーズを整理し、企業が持つ技術を宇宙医療分野でどのように活用できるかを提案しています。技術面だけでなく、ビジネスモデルの提案まで含めて伴走支援している点が特徴です。

また、近年増加している研究開発支援制度への応募支援や、開発パートナー、ベンチャーキャピタルとのマッチング支援も行っています。

――どのような領域に注力されていますか。

大きく2つの領域に注力しています。

1つは、宇宙空間における医学課題の解決です。今後は民間宇宙飛行士の増加や宇宙旅行市場の拡大が見込まれており、それに伴ってヘルスケア、検査機器、医薬品、保険など、宇宙向けサービスの需要も高まっていくと考えていますが、当法人では、そうした分野へ参入する企業に対して、医学的観点から事業開発支援を行っています。

また、安全な宇宙滞在を実現するための居住空間や宇宙服など、人が宇宙で生活するための環境整備に関するプロジェクトにも関わっています。

もう1つは、微小重力環境を活用した医学研究分野です。創薬や再生医療、宇宙用自動実験システムなど、今後成長が期待される領域において、国内外企業の研究開発や市場参入を支援しています。

宇宙ならではの医学課題と研究の可能性

――宇宙空間では、どのような医学課題があるのでしょうか。

宇宙には大きく3つの特徴があります。微小重力と宇宙放射線、そして閉鎖環境です。

微小重力では、宇宙酔いと呼ばれる強いめまいが起こるほか、筋肉や骨に負荷がかからないため、骨密度の低下や筋萎縮が急速に進行します。さらに近年では、視覚や脳神経への影響も分かってきており、認知機能の低下やバランス能力の低下なども課題として認識されています。

認知機能の低下については、微小重力だけではなく宇宙放射線の影響も少なくありません。宇宙飛行士が長期間にわたって高い放射線環境にさらされることで、脳細胞への影響が指摘されており、帰還後のMRI検査では変化が見られるケースもあります。

また、宇宙放射線はDNA損傷による発がんリスクや循環器疾患のリスクにもつながります。加えて、閉鎖環境によるストレスや睡眠障害、免疫力低下なども大きな課題です。

――一方で、宇宙環境を活かした研究も進んでいるそうですね。

はい。微小重力環境は、地上ではできない研究を可能にします。なかでもタンパク質結晶生成は、代表的な研究領域の一つです。地上よりも高品質な結晶を生成できることから、新薬開発や病態解明への応用が進められています。

また、微小重力環境を活用した再生医療研究も注目分野の一つです。宇宙では細胞や組織を三次元的に成長させることができるため、人工臓器開発などへの応用が期待されています。

さらに、宇宙では老化に似た身体変化が短期間で現れるため、加齢性疾患の研究や治療薬開発にも活用が広がっている状況です。こうした宇宙医学の研究成果は、地上の医療にも大きく貢献していると考えています。

国内外の企業・研究機関との連携を推進

――実際にはどのような支援事例がありますか。

例えば、日本企業が開発した指先サイズの血流量センサーについて、宇宙飛行士向け健康管理技術としての活用支援を行いました。船外活動時のストレス状態を把握する自律神経モニタリングや、地球帰還時の脳血流モニタリングなど、宇宙医療分野における活用方法を提案し、宇宙医学関連の全国学会で共同発表も行っています。

また、海外企業との連携支援も手掛けています。アメリカのベンチャー企業が開発した小型血漿分析装置については、日本市場参入に向け、開発パートナー企業とのマッチングを支援しました。

さらに、インドのベンチャー企業が開発した局所麻酔型の腹腔内視鏡技術についても、宇宙医療分野への応用可能性を検討し、グローバルな宇宙ビジネスコンペティションへの参加支援を行っています。

――国際的なネットワーク構築にも力を入れているそうですね。

宇宙産業では、技術開発や市場形成においてグローバル連携が欠かせません。当法人でも、海外の宇宙企業や研究機関とのネットワーク構築を積極的に進めています。

例えば、米国の宇宙企業「Axiom Space」とは、新たな宇宙ステーションにおける医学研究や創薬ビジネスをテーマに協議を行いました。また、台湾のスタートアップアクセラレータープログラムや、ドイツの宇宙医学研究チームとの連携も進めています。オーストラリアの大学では、宇宙向けバイオセンサー活用をテーマとしたワークショップにも参加しました。

さらに、グローバルな宇宙ビジネスコンペティション「Humans In Space Challenge」にも関わり、宇宙医療分野に取り組むスタートアップの支援を行っています。私自身もイタリアで開催された本コンペションの決勝ピッチで審査員を務めるなど、海外の先進技術や研究動向に触れながら、国際的な事業連携を推進しています。

宇宙医療を“遠い世界”で終わらせない

――宇宙医療市場の今後について、どのように見ていますか。

2020年代後半から2030年代にかけては、国際宇宙ステーションの後継となる民間宇宙ステーションの建設が進むとされています。そこでは創薬や再生医療、加齢医学などの研究が本格化し、新たなビジネスが生まれていくでしょう。

さらに2030年代以降には、宇宙旅行市場の拡大も予想されています。一般の人々が宇宙へ行く時代になれば、飛行前後のメディカルケアや宇宙用医療機器、健康管理サービスなどの需要も高まっていくはずです。

――そういったなかで、御法人の今後の展望についてはどのようにお考えでしょうか。

2040年代には、人が月面に滞在する時代の到来も見据えられています。そうした環境では、放射線被曝への対応に加え、月面の粉塵「レゴリス」による呼吸器・角膜への影響、重力環境下での外傷対応など、新たな医療ニーズが生まれてくるでしょう。

宇宙医療は特別な領域と思われがちですが、実際には地上医療にも応用可能な研究が数多く存在します。私たちは、医師・研究者としての専門性を活かしながら、企業の事業開発や市場参入を支援し、新たな宇宙医療ビジネスの創出につなげていく方針です。

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