世界中の駐在ファミリーに寄り添い、未来の選択肢を広げる――一般社団法人駐在ファミリーサポート協会が目指す社会
一般社団法人駐在ファミリーサポート協会 共同代表理事 髙橋 智恵子氏/伊藤 絵美氏
海外赴任は新たな挑戦である一方、帯同する家族は仕事や子育て、生活環境の変化に直面します。一般社団法人駐在ファミリーサポート協会は、企業向けの研修事業やイベントの開催、「駐在ファミリーカフェ」の運営を通じて、駐在ファミリーを支援する団体です。本記事では、代表理事の髙橋智恵子氏に、協会設立の経緯や活動への想い、今後の展望について伺いました。
目次
駐在ファミリーが安心して挑戦できる居場所を育む
――現在取り組まれている事業について教えてください。
当協会では、企業向けの研修事業やご家族向けのイベントの開催、「駐在ファミリーカフェ」の運営を行っています。もともとは約10年前にボランティア団体として活動を始め、その後、活動の広がりに合わせて2年前に一般社団法人として法人化しました。
なかでも活動の中心となっているのが「駐在ファミリーカフェ」です。駐在帯同による就労ビザの制限から、働きたくても働けない方や、キャリアを一度手放さざるを得なかった方が、記事執筆や情報発信を通じて社会とのつながりを持ち続けられる場になっています。活動の実績を形に残すことで、帰国後のキャリアにもつながるよう支援しています。
――他にはない強みや理念について教えてください。
一番の強みは、世界中にメンバーがいることです。アジアやヨーロッパ、アメリカ、アフリカなど、世界各地で暮らす駐在ファミリーが参加しているため、現地で生活している人だからこそ分かるリアルな情報を届けることができます。
医療事情や教育、生活環境など、SNSだけでは得られない現地の情報を発信し、これから赴任する方の準備を支えています。
活動の多くはボランティアです。駐在帯同者は就労ビザの制限によって働くことが難しい国も多く、安心して社会とつながり続けられる場として、無理なく、でもやりがいをもって参加できるボランティア活動を続けています。
自身の帯同経験が導いた、「働き続けたい」という原点
――この活動に携わることになったきっかけを教えてください。
私自身、夫の海外赴任に伴ってベトナムへ帯同したことが、この取り組みの原点です。私自身も当時会社員として働いていましたが、コロナ禍の中で夫の海外赴任が決まり、約20年勤めた会社を退職することになりました。しかし渡航が延期となり、「仕事を辞めたのに海外にも行けない」という先の見えない状況に、大きな不安を感じていました。
そんな時に出会ったのが「駐在ファミリーカフェ」です。企業で培った営業経験を生かせる場として参加し、少しずつ関わるようになりました。
――共同代表として活動するようになった経緯を教えてください。
活動を続ける中で、企業からの相談や調査依頼が増えてきました。ただ、任意団体では契約を結ぶことができず、できることにも限界がありました。そこで、より多くの企業や社会へ発信し、活動の幅を広げるため、一般社団法人として法人化を決断しました。
駐在ファミリーを取り巻く現状や制度上の課題をもっと社会に知ってもらい、少しずつでも意識や制度を変えていきたい。その想いも、法人化を決断した大きな理由です。
また、株式会社ではなく一般社団法人としたのは利益を追求することが目的ではないからです。一人でも多くの駐在ファミリーが安心して挑戦できる環境を広げ、社会課題の解決につながる活動を続けていきたいです。
「無理なく、楽しく」――世界中の仲間と支え合うコミュニティ
――現在の組織体制やメンバーについて教えてください。
現在は、運営メンバーが約50名、サポートメンバーまで含めると70〜80名ほどが関わっています。これまで参加してくださった方を含めると350名を超え、世界35カ国に広がるコミュニティになりました。
すべてボランティアで運営しているため、毎日のように参加する方もいれば、2カ月に一度のペースで関わる方もいます。世界中にメンバーがいるので、時差や生活環境もさまざまです。だからこそ、一人ひとりのペースを尊重し、「無理なく、楽しく」活動できる環境づくりを心がけています。
――メンバーとのコミュニケーションで大切にしていることを教えてください。
一番大切にしているのは、「無理をしないこと」です。海外では国によって文化も異なり、家族構成や子どもの年齢、パートナーの働き方もそれぞれ違います。まずは自分自身や家族の生活を第一に考えてほしいとメンバーには伝えています。
同じ駐在経験を持つ仲間だからこそ、悩みを共有し、ときには励まし合える関係があります。ただ話を聞くだけではなく、「自分が助けられた情報を、これから海外へ向かう人にも届けたい」という想いを持つ方が多く、その気持ちがコミュニティ全体を支えています。
一人ひとりの経験が、次に海外へ向かう家族の安心につながること。それこそが、このコミュニティの大きな価値です。
駐在経験が正しく評価される社会へ――制度とキャリアの未来を変える挑戦
――今後取り組んでいきたいことを教えてください。
今後は、日本企業の駐在制度がバージョンアップに繋がるきっかけ作りができたらと思っています。セミナーや情報発信を通じて、駐在ファミリーを支えることが企業の成果にもつながるという認識を、少しずつ広げていきたいですね。
特に課題だと感じているのが、帯同によって仕事を辞めた方のキャリアです。海外で得た経験や語学力、異文化への対応力、そして家族を支えてきた経験は、決して「空白期間」ではありません。本来であれば、それらも1つのキャリアとして評価される社会であってほしいと思っています。
そのためにも、帰国後の就職につながる仕組みづくりや、企業がそうした経験を正しく評価できる環境づくりに取り組んでいきたいです。
――将来的に実現したい社会について教えてください。
若い世代が、「結婚したらキャリアを諦めなければならない」「海外赴任にはついて行けない」と考えなくても済む社会を実現したいです。
今も女性がキャリアを中断せざるを得ない場面は少なくありませんが、それは個人ではなく、制度や社会の仕組みの問題でもあります。だからこそ、発信を続け、一歩ずつでも未来を変えていきたい。駐在ファミリーを支えることが、日本のグローバル人材の育成にもつながると信じています。
海外生活で得た学びを、次の駐在ファミリーへの力に
――休日やリフレッシュ方法について教えてください。
ベトナムで暮らしていた頃は、現地の屋台やベトナム料理を楽しんだり、近隣のアジア諸国へ出かけたりすることがリフレッシュになっていました。日本からではなかなか訪れる機会の少ない地域へ足を運び、子どもたちにもさまざまな文化や景色を見せることができたことは、家族にとって貴重な経験でしたね。
現在は帰国したばかりで生活を整えながら、東京で活動を進めています。海外で暮らしたからこそ、日本の便利さや安全性を改めて実感しました。東京にいる今だからこそ、多くの方と直接お会いしながら活動を続けていきたいです。