音楽を通して、子どもたちに“本物の体験”を届ける――L’Atelier de MIKIが描く教育のかたち
株式会社L’Atelier de MIKI 代表取締役 マルタン 美樹氏
株式会社L’Atelier de MIKIは、音楽教室の運営を中心に、インターナショナルスクールでの音楽レッスン、教材制作、音楽教室運営のコンサルティング、講師育成、演奏イベントなどを展開しています。0歳から大人まで幅広い世代に音楽を届けながら、海外とのつながりを活かしたサマーキャンプにも取り組んでいます。本記事では、代表のマルタン美樹氏に、事業への想いや今後の展望、経営で大切にしている考え方について伺いました。
目次
0歳から大人まで、音楽を届ける教室として
――現在の事業内容について教えてください。
事業の中心は音楽教室の経営です。ピアノ、フルート、バイオリン、チェロ、ソルフェージュなど、さまざまなクラスがあり、現在は0歳から72歳までの方が通っています。
そのほか、インターナショナルスクールへの講師派遣、音楽教材や書籍の制作、音楽教室を運営したい方へのコンサルティングも行っています。若い音楽家の先生たちに、子どもや大人へどう音楽を届けるかを指導する部門もあります。
演奏部門では、イベントや子どもたちのコンサート、先生たちのコンサートも開催しています。さらに、生徒さんを海外へ連れて行き、現地で音楽に触れるアカデミーやサマーキャンプのような活動も始めています。
――現在のメイン事業と、今後力を入れたい事業は何でしょうか。
メイン事業は、やはり音楽レッスンです。これから力を入れていきたいのは、海外とのつながりです。音楽を通して海外で学ぶ、海外の文化に触れる、そうした体験を広げていきたいと考えています。
教室にはインターナショナルな生徒さんも多く、先生たちも英語やフランス語、ドイツ語などを話せます。だからこそ、海外に向けた発信やつながりをさらに強めていきたいですね。
個人教室から法人へ、子育てを経て生まれた仕組み
――経営の道に進まれたきっかけを教えてください。
もともとは個人の音楽教室でした。最初はフランス大使館の官舎でレッスンを始めたのですが、生徒さんが増え、100人以上が出入りするようになりました。セキュリティの問題もあり、その場所では続けられなくなったため、今の教室を探したんです。
その時期に、私自身も出産と子育てを経験しました。100人もの生徒さんがいる中で、一度仕事を止めることはできないと感じました。そこで他の先生たちを雇い、私がいなくても音楽教室として成り立つ形をつくったことが、今のビジネスモデルにつながっています。
法人化してからは15年ほど、教室としては21年目になります。所属講師は、全体で13名います。
海外との架け橋と、女性が働き続けられる環境づくり
――今後取り組んでいきたい挑戦について教えてください。
海外とのパイプづくりは、今後も力を入れていきたいです。最初に取り組んだのは、ウィーン大学の夏休み期間に校舎を借り、現地のオーケストラの方と10日間のプログラムを行うものでした。当時は、大人の方やプロを目指す方が対象でしたが、その後コロナで行き来が難しくなりました。
3年ほど前からは、子どもを対象にしたサマーキャンプを始めています。音楽だけに限らず、いろいろな経験をするプログラムです。現在は教室の生徒さんに限定し、6歳から13歳ぐらいの子どもたちが中心です。少人数で、1人に対して大人2人でケアできる形を大切にしています。
――今後の展開で考えていることはありますか。
右腕として頑張ってくれているスタッフが、まさに出産を迎えています。彼女が一段落したら、第2教室や出版の分野もさらに進めていきたいと思っています。
女性にとって出産や育児は、キャリアを止めてしまう大きな問題になりがちです。担当していた生徒さんを一度離れても、また戻ってきて仕事に復帰できる形は、日本の音楽教室ではほとんどないのではないでしょうか。
子どもを連れてきても働ける、保育施設が隣にある環境があれば、働くお母さん先生にとって大きな支えになります。社会と家庭、子育てがうまく共存できる形を、自分たちでもつくっていきたいです。
教材づくりと法人とのつながりに向き合う
――現在、会社として向き合っている課題は何でしょうか。
出版や教材づくりには、大量のデータや分析が必要です。日本にも世界にもさまざまな教材がありますが、その中から良いものを取り入れ、オリジナリティをつくるには時間がかかります。
音楽の楽譜を一つ作るにも、今は打ち込みで進めています。もっとスムーズに、書面として楽譜ができるものがあればいいという現場の声もあります。AIをうまく活用できたらと思っていますが、まだなかなかスムーズにはいっていません。
――法人とのつながりについては、どのように考えていますか。
法人さんとのつながりにも期待しています。ただ、音楽教室という事業は少し特殊で、音楽が好きな人は音楽をするけれど、そうでない人はしないという面もあります。
それでも、社員さんのメンタルケアや私生活の充実に音楽レッスンを結びつけることはできると思っています。フランスにいた頃は、企業や大使館のパーティーで演奏する機会もありました。日本でも、もっと企業のコミュニティに音楽が入っていけたらいいですね。
――事業を通して、社会をどのように変えていきたいですか。
海外での経験や子育てを通して、日本と海外では人や子どもに対する考え方が大きく違うと感じてきました。どちらが良い悪いではなく、両方の良いところを取り入れたハイブリッドな形ができないかと思っています。
これからAIの時代になり、コンピューターでできることは増えていくでしょう。でも、音楽は絶対にコンピューターにはできない世界です。生のピアノは電子ピアノとは違い、音の響きが一つひとつ異なります。生きている木の楽器に触れることには、大切な意味があります。
サマーキャンプでも、裸足で土に触れるような体験を大切にしています。川の中で遊ぶ、泥んこになる、壊れたものを自分でもう一度組み立てる。そうした経験を大切にしないと、人間として大変なことになるのではないかと感じています。
ただの音楽教室ではなく、人が本来持っている感覚や創造性を育てる場所でありたいです。
ピラミッドではなく、みんなで一つのアンサンブルをつくる
――経営上、譲れないポリシーを一つ挙げるとしたら何でしょうか。
ピラミッドのような組織はつくりたくありません。私が始めた音楽教室ですし、「マルタン先生に」と言ってくださる生徒さんもいます。でも、そうではなくて、講師一人ひとりが、ぶどうの一粒のように、それぞれ充実した大きな実に育つことを大切にしたいんです。そして、充実した一粒一粒がつながって、やがて大きな一房の立派なぶどうになる。そんな組織にしたいと思っています。
音楽で言えば、オーケストラですね。40人のオーケストラは、一人ではつくれません。一人が欠けても成り立たない。全員の力が必要なんです。誰が上で誰が下という考え方ではなく、みんなで一つの曲を演奏するような、そんな共同体をつくりたい、そしてみんなが笑顔で力を発揮できる場所でありたい。私の経営の中心にあるのは、そういう考え方です。
だから、当社にはマニュアルも規則もありません。でも、自然とみんなが助け合い、育て合う環境ができています。マニュアルや規則ではなく、愛と思いやりのなかで、自分で考え、自分で動く。そのうえで、私も一緒に考え、必要なときには手伝う。音楽と同じように、一つのアンサンブルとして、みんなで教室を育てていきたいです。