お金の悩みを成長の力へ――財務の伴走から広げる三つのライフワーク

アナタの財務部長合同会社 代表社員 伊藤 一彦氏

融資とエクイティファイナンスの双方に長く携わってきた経験を生かし、経営者の財務や事業成長を支援するアナタの財務部長合同会社。代表の伊藤氏は、事業計画・資本政策・資金計画を三位一体で捉え、資金調達だけにとどまらない支援を行っています。

現在は自身の知見に加え、中小企業診断士協会のスタートアップ研究会やスモールM&A研究会などで築いたネットワークも活用しながら活動の幅を広げています。経営で大切にするのは「誠実かどうか」というシンプルな軸です。

本記事では、これまでのキャリアや独立の背景、組織づくり、今後実現したいことについて伺いました。

経営者に寄り添う財務支援

――現在の事業内容と、強みについて教えてください。

大学卒業後、現在のみずほ銀行につながる日本興業銀行に入り、法人融資に携わりました。その後はみずほキャピタルに移り、約19年間、スタートアップ向けのエクイティファイナンスなどに関わってきました。融資のようなデットファイナンスと、株式発行によって資金を調達するエクイティファイナンスの両方を現場で経験してきたことが、一番の強みだと思っています。

どちらか一方を勧めるのではなく、経営者の置かれている状況を見ながら、融資がいいのか、エクイティがいいのかを検討します。また、資金調達だけを切り取るのではなく、事業計画、資本政策、資金計画の三つは一体になっているので、その三本柱をつくるところから支援するのが、私のスタイルです。

――「アナタの財務部長」という名前には、どのような思いが込められていますか。

中心にあるのは、私ではなく「アナタ」、つまり経営者の皆さんです。経営者がお金の問題に悩まされることなく事業に専念し、成長のアクセルを踏めるようにしたい。その後ろ側の心配は私に任せてもらいたい、という思いがあります。

資金繰りが厳しい会社を助けることだけが仕事ではありません。会社を大きくするためには、人材採用やシステム投資、場合によっては会社の買収など、成長のためのお金が必要になります。そうした成長資金をどう用意するのかを一緒に考え、会社の成長を支えることが私の真の仕事だと考えています。

現場への思いが導いた独立

――独立を考えるようになった背景を教えてください。

みずほキャピタルには19年ほど在籍し、投資だけでなく、ファンド設立や投資先の管理、リスク管理など、VCに関する一通りの仕事を経験しました。後半は社内のマネジメントに関わることが増え、投資先やお客様と直接接する機会が少なくなっていきました。その中で、私はやはり現場でプレイヤーとして仕事をする方が好きだと感じるようになりました。

もう一つ大きかったのが、2011年の東日本大震災後に胃がんを経験したことです。入院と手術を経て仕事に復帰しましたが、その経験を通じて、残りの人生をどのように使うのかを考えるようになりました。すぐに独立したわけではなく、中小企業診断士の資格を取ったり、ネットワークをつくったりしながら準備を重ねました。

――経営や仕事で大切にしている判断軸はありますか。

一言で言えば「誠実かどうか」です。自分自身もお客さまや仕事に対して誠実でありたいですし、ご支援する経営者や一緒に仕事をする人についても、そこを大切にしています。

財務の仕事では、会社の経営状況を深く知る必要があります。専門知識がなく、悪意なく間違ってしまうことはあると思います。それは不誠実だとは思いません。ただ、分かっていて意図的に隠したり、事実と違うことをしたりする場合は、お手伝いするのが難しい。長く一緒に仕事をするためにも、信頼できる関係であることを何より大切にしています。

AIと専門性で広げる可能性

――現在の組織体制について教えてください。

現在、社員はいません。中小企業診断士など、案件ごとにお願いできる業務委託のパートナーがいます。専門性の高い人に必要な案件ごとに入ってもらう形は、能力面でもコスト管理の面でもメリットがあると感じています。

また、自分一人の知見だけでは限界があります。そのため、スタートアップ研究会やスモールM&A研究会などを通じて、さまざまな専門家とのネットワークをつくってきました。スタートアップ支援でも、資金調達だけでなく、オープンイノベーション、ビジネスマッチング、人材、補助金など、私一人ではできない支援をネットワークの力で実現できる体制を構築しています。

――今、組織運営で課題に感じていることは何ですか。

組織面と営業面です。私は管理職の経験はありますが、何十人もの組織を経営者としてマネジメントしてきたわけではありません。ですから、単純に社員を増やして会社を大きくすることが、自分に合った方法なのかは考えています。

そこで今注目しているのが、業務委託とAIエージェントを組み合わせた組織づくりです。AIを単なる秘書や右腕として使うのではなく、部長やCOOのような役割を持つエージェントとして組織に見立て、人とAIが一緒に働く形をつくりたいと思っています。実際、AIを活用することで以前より仕事のキャパシティが広がり、これまで見送っていたような案件にも対応できるようになってきました。

事業を広げる三つの挑戦

――仕事以外で、リフレッシュにつながっていることはありますか。

一番は運動ですね。筋トレは長く続けていて、仕事が終わった後にジムへ行ったり、公園でを走ったりしています。重いものを持ち上げる時に仕事の失敗などを考えていたら持ち上がらないので、その瞬間は目の前のことだけに集中できます。無心になれる時間が、自分にとって良いリフレッシュになっています。

――これから、どのようなことに挑戦していきたいですか。

会社そのものを大きくするというより、「事業を大きくしていきたい」と考えています。私が残りの半生で取り組みたいテーマとして決めているのが、1.スタートアップ支援、2.Well-Being(健康と美容)の増進、3.地域振興の三つです。

スタートアップ支援は、アナタの財務部長や研究会の活動を通じて広げていきます。健康や美容については、その領域の会社を支援することなどを通じて関わっています。地域振興では、地元の高校生への起業に関する講座やプロジェクトへの参加、地域企業とスタートアップの交流、地域からIPOを目指す企業の支援など、草の根の活動と企業支援の両面から取り組んでいます。まず自分の思い入れのある地域でモデルをつくり、その先につなげていきたいと思っています。

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