出会いが、こどもの「やりたい」と大人の「やりがい」を育てる ―まちとこラボが目指す、育ちあう まちのかたち
まちとこラボ 共同代表 藤井 希美氏
こどもたちが、まちで働く大人と出会い、新しい世界や生き方に触れる。その時間はこどもだけではなく、大人にとっても自分の仕事や価値を見つめ直すきっかけになります。
まちとこラボでは、こどもの「やりたい」と大人の「やりがい」をつなぐ取り組みを通じて、人とまちが育ちあう社会づくりに取り組んでいます。
本記事では、大学時代の児童養護施設でのボランティアや、社会福祉協議会での経験を原点に 、なぜこの事業を立ち上げたのか、そして、どのような未来を目指しているのかを伺いました。
目次
こどもと大人が出会うことで、お互いの可能性が広がっていく
――現在の事業内容について教えてください。
現在は「まちとこラボ」の活動を通じて、こどもの「やりたい」という気持ちと、大人の「やりがい」が、出会いの中で育っていく仕組みづくりに取り組んでいます。
この10年ほどで、こども食堂やフリースクールなど、地域のなかでこどもたちが安心して過ごせる居場所は増えてきました。一方で、そうした現場のなかには、人手や資金が限られ、日々の運営だけでも手いっぱいになっているところもあります。私自身、福祉の現場で、想いはあってもそこまで手が回らない状況を数多く見てきました。
だからこそ、すでに地域にある居場所の力を生かしながら、私たちが一緒に関わることで、こどもたちに届けられる体験をもう少し広げられないかと考えました。
具体的には、こどもの居場所と、そのまちで働く人や企業とをつなぎます。そして仕事の内容だけでなく、その仕事を通して大切にしていることや、社会にどのような価値を届けているのかといった思いを、こどもたちに伝えていただいています。
参加する大人には、事前に自分の仕事やその価値を振り返ってもらいます。当日も一方的に仕事を説明するのではなく、こどもたちと同じ問いを囲みながら対話してもらいます。
私たちが大切にしているのは、職業を紹介するだけの時間ではありません。こどもと大人が同じ目線で話し、一緒に考え、対話する時間です。
こどもたちは、学校や家庭だけでは出会えなかった働き方や生き方を知ることで、「こんな仕事もあるんだ」「こんな大人になりたいな」と、自分の未来を広げるきっかけを得ます。
一方、大人もこどもに自分の仕事を伝え、 率直な質問や反応に触れることで、自分の仕事の意味や価値を改めて見つめ直すきっかけになります。 そうした経験は、社員のエンゲージメント向上や人材育成の機会となり、企業と地域との新たな接点にもなり得ると考えています。
私たちは、こどもの「やりたい」と大人の「やりがい」が出会う場を整え、そこで生まれた気づきやつながりを、次の行動へとつないでいく役割を担っています。
こどもたちの可能性を広げたい――児童養護施設での出会いが原点
――事業を立ち上げたきっかけについて教えてください。
私の原点は、大学時代に児童養護施設でボランティアをしていた経験です。
施設で出会ったこどもたちは、虐待をはじめとするさまざまな事情によって、家庭を離れて生活していました。
そこで感じたのは、こどもが身近で出会う大人や置かれている環境によって、 思い描ける未来の幅が大きく変わるということでした。
自分の置かれた環境から無意識に「自分にはこの道しかない」 と、将来の道を狭めてしまっている子の姿を多く目にしました。
一方で、学習ボランティアとして関わる大学生を見て、「自分も先生になりたい」「勉強を頑張ってみよう」と少しずつ前向きに変わっていくこどももいました。実際に、その施設から初めて大学へ進学した子もいます。
その姿を見て、こどもたちが「こんな道もあるんだ」と思える選択肢を、一つでも多く届けることの大切さを実感しました。
その経験から社会福祉の道へ進み、社会福祉協議会でまちづくりや相談支援、こどもの居場所運営などに携わりました。
仕事には大きなやりがいを感じていましたが、一方で、公的な制度や事業には、公平性を保つための枠組みがあります。そのため、必要性を感じて始めた取り組みであっても、柔軟に形を変えながら継続していくことが難しい場合もありました。
公的な仕組みの大切さを実感すると同時に、その枠組みだけでは届きにくい部分に、民間の立場から取り組みたいと考えるようになりました。
これまで取り組んできたまちづくりと、こどもたちの可能性を広げたいという想い。その二つを掛け合わせた先にあったのが、こどもたちが暮らすまちの中で働く大人との出会いをつくることでした。
こどもたちも、やがてまちや社会を支える一人になります。そして大人も、こどもの率直な問いや自由な発想に触れることで、自分では気づけなかった仕事の価値や新たな視点に出会うことができます。
肩書きや年齢を越えて、一人の人として向き合う。
そんな出会いの積み重ねが、人だけではなく、まち全体を少しずつ豊かにしていくと信じています。
信じて任せる。面白がる余白が、チームを育てる
――組織づくりや、一緒に活動する方との関わりで大切にしていることを教えてください。
現在はもう一人の共同代表と運営し、企画ごとにさまざまな方の協力を得ながら活動しています。
一人ひとりの主体性を引き出すために大切にしているのは、相手を信じて任せることです。私は、自分ができないことは素直に認め、周りに頼るようにしています。
すべてを自分で抱え込むのではなく、「ここはお願い」と任せることで、それぞれが自分の役割に責任を持って動いてくれるようになります。そうして自然に役割分担が生まれ、お互いの強みを生かせる関係ができていると感じています。
一緒に活動する仲間に求めるのは、専門的なスキルよりも「一緒に面白がってくれること」です。
私は、主体性がなければ仕事の質は上がらないと思っています。やらされると感じる仕事では最低限のことしかできません。しかし、「面白い」「もっと良くしたい」と自分ごととして関われたとき、人はより大きな力を発揮できると思っています。そこから、自分なりの工夫や新しいアイデアも生まれます。
だからこそ、同じ方向を向きながら、それぞれの強みや役割を生かし、一緒に試行錯誤できる人と歩んでいきたいです。
実際に、一緒に活動している仲間とは、何気ない会話から自然と事業の話になります。「今の課題はここだよね」「この企業にはこんな提案ができそう」「ワークショップはこう設計したらもっと良くなるかもしれない」。そんな会話を重ねる中で、活動の形や届けたい価値も、少しずつ深まっています。
私たちが目指しているのは、 「人とまちが育ち合う社会」です。
人は出会いによって視野が広がり、自分一人では気づけなかった可能性に出会うことができます。人との出会いには力がある。そのことを、組織としても大切にしていきたいです。
まずは関西から、各地のまちへ仕組みを広げたい
――今後の展望について教えてください。
現在は近畿圏を中心に活動していますが、一つひとつの実践を重ねながら活動を各地へ広げていきたいと考えています。
今後は自治体とも連携しながら、こどもと大人が出会い、育ちあう機会が、まちのなかに当たり前にある状態をつくっていきたいです。
そのためには、私たちがすべてのまちで直接活動するのではなく、それぞれのまちで暮らす人たちと一緒に、そのまちに合った形をつくることが大切だと考えています。
まちのなかに担い手が生まれ、こどもと大人が出会う機会が、無理なく継続していく状態が理想です。
活動を広げていくためには、一緒に取り組む仲間も必要になります。ただ、人数を増やすこと自体が目的ではありません。新しい仲間を迎えるときも、スキルだけで判断するのではなく、私たちが大切にしている価値観に共感し、「人との出会いには力がある」と信じてくれることを大切にしたいと思っています。
また、現在感じている課題の一つは、 この取り組みの価値を端的に伝えることの難しさです。
こどもの体験機会を広げるだけではなく、企業の人材育成や地域づくり、社会貢献にもつながる取り組みであるため、その価値を一言で表すのは簡単ではありません。
ただ、その多面的な価値こそが、まちとこラボの強みでもあります。
実践と検証を積み重ねながら、そこで生まれた変化を丁寧に言葉にし、伝えていきたいです。
急いで規模を広げるのではなく、一つひとつの地域で信頼関係を育て、実績を積み重ねる。その先に、こどもと大人が育ち合う仕組みが、さまざまなまちに広がっていく未来を描いています。
ひとつの出会いで、未来がひろがる。
こどもの「やりたい」も、大人の「やりがい」も、人と人が関わり合うなかで育っていきます。
企業の皆さんにも、この取り組みを通して新しい価値を感じていただき、まちの中に大人とこどもが育ち合う仕組みを広げていきたいです。