板橋生まれのウニを世界へ――卵から育てる養殖技術で若者が夢を持てる社会をつくる
株式会社いたばしトゲトゲ 代表 伊東 修平氏
東京都板橋区を拠点に、ウニを卵から育てる養殖技術の確立を目指す伊東氏。国内のウニ養殖では、海から採取したウニに餌を与え、太らせて出荷する「蓄養」が主流ななか、当社が挑んでいるのは、卵からウニを育てる技術の確立です。今回の取材では、特許の取得や施設整備を見据えながら、前例のない技術の実用化に取り組む伊東氏に、事業内容や創業のきっかけ、事業の課題などについて伺いました。
テレビ番組で知った海の課題がウニ養殖への挑戦につながった
――現在の事業内容について教えてください。
当社は東京都板橋区で、ウニを卵から育てる養殖技術を研究しています。一般的なウニ養殖では、海から採ってきたウニに3か月ほど餌を与え、太らせて出荷する蓄養が主流です。当社は、卵から育てる工程を1つの技術として確立しようとしています。
同じ方法に取り組んでいる企業は、日本ではおそらくほとんどありません。現在はまだ出荷の段階ではなく、特許取得に向けた研究を進めています。
――創業のきっかけを教えてください。
きっかけは、テレビ番組で磯焼けの問題を知ったことです。磯焼けとは、海藻が生えなくなり、海が砂漠化したような状態になる現象です。
その原因の1つとしてウニが挙げられており、番組では、駆除したウニにキャベツを与えて、おいしいウニに育てる企画が紹介されていました。非常に面白い取り組みだと感じ、すぐに島にある水産技術センターを見学しました。
私はもともと海が好きで、釣りやダイビングなどを通じて海に関わってきました。いつか海に関わる仕事をしたいという思いもあり、面白そうだからやってみようと考え、創業しました。
――現在はどのような体制で研究を進めていますか。
現在の組織は、役員3人と学生インターン1人です。研究用の水槽を使い、ウニを育てながら実験を重ねています。
まだ本格的な施設はありませんが、ウニ自体は食べられる状態まで成長しているところです。現在育てているウニのなかには、後ほど紹介する「UNI1グランプリ」で使用しているものもあります。
実用化と出荷については、5年後を1つの目安としています。まずは特許を取得し、より大きな施設を整えていきたいです。
税理士やIT企業の経営にも共通する「若者が夢を持てる社会」という軸
――これまでのキャリアについて教えてください。
私は税理士で、税理士事務所とシステム開発企業も経営していて、さらに、役員として経営に関わっている企業があります。
複数の事業に携わっていますが、何の事業を行うか自体がもっとも重要だとは考えていません。私たちが実現したいのは、若い人が夢を持って暮らせる社会をつくることです。
その目的を実現するための手段として、ウニの養殖や税理士事務所、IT事業などがあります。それぞれの事業には個別の目標がありますが、根本にある考え方は共通しています。
――経営で大切にしていることは何ですか。
楽しいことをすることです。子どもたちに夢を持ってもらうためには、まず私自身が楽しんでいる必要があります。私が楽しんでいなければ、子どもたちに夢を与えることはできません。
子どもたちが「やってみたい」「面白そう」と感じられる事業を行うべきだと考えています。私自身が楽しみながら挑戦し、若い人や子どもたちにとって1つのロールモデルになることを大切にしています。
――子どもや学生とはどのように関わっていますか。
小学校でウニに関する授業をしたり、中学生と一緒に実験をしたりしています。「子ども研究員」として、小学生が実験を手伝う機会も設けています。実現できるかはまだわかりませんが、子どもたちが研究内容をまとめ、学会に論文を出すことにも取り組もうとしています。
大学生と進めている「UNI1グランプリ」も、研究と人材育成を結び付けた活動です。ウニは与える餌によって味が変わるため、大学生が餌を企画し、水槽を管理しています。3か月後にウニを実際に食べ、もっともおいしいウニを決めるイベントです。4大学から6人が参加し、3チームに分かれて研究しています。
大学の先生もチームに加わっており、上場企業2社がスポンサーとして参加しています。決勝では、寿司チェーンにウニを寿司にしてもらう予定です。
環境に左右されない養殖技術を確立し板橋産ウニを世界へ届ける
――現在、どのような課題を抱えていますか。
もっとも大きいのは、技術面の課題です。前例のない取り組みのため、研究が行き詰まることは何度もあります。しかし、その課題をすぐに解決できる人がいるわけではありません。実験を重ねながら、1つずつ答えを見つけていくしかないと考えています。
――今後の事業計画について教えてください。
現在あるのは実験用の水槽で、本格的な養殖施設はまだありません。今後5年ほどをかけて、より大きな規模の施設をつくることが目標です。
そのために、総額1億円ほどの資金を集め、設備の整備につなげたいと考えています。特許の取得やビジネスコンテストでの受賞、スポンサーの獲得、SNSを通じた認知度向上にも取り組んでいます。
ただし、資金調達を焦って進めるつもりはありません。条件が良く、考え方の合う相手であれば組みますが、条件が合わなければ無理に組む必要はないと考えています。
――卵から育てる技術には、どのような可能性がありますか。
卵から育てる技術を確立できれば、海からウニを採取できるかどうかに左右されずに養殖できます。
現在の蓄養は、自然環境に依存しています。台風などで天然のウニが採れなければ、育てるためのウニを確保できず、出荷も止まってしまいます。
当社の技術が実用化すれば、蓄養を行う事業者に対して、育てるためのウニを供給できる可能性があります。さらに、極端に言えば砂漠地帯でもウニを育てられるようになり、市場は世界へ広がります。
ウニの流通を変え、「板橋産のウニ」を世のなかで当たり前のブランドにしたいと考えています。障害のある人にもウニ養殖に関わってもらい、それなりの収入を得られる仕組みをつくることも目標です。
――仕事のなかで楽しみにしていることを教えてください。
生き物を扱っているため、決まった休みがあるわけではありません。月に1度ほど海へ行き、海でしかできない実験を行っています。
フィールドワークは見学できる形にしており、小学生が参加して、一緒に実験することもあります。海で研究し、子どもたちと同じ時間を過ごすことは、仕事であると同時に私にとって大きな楽しみです。
これからも私自身が楽しみながら、子どもたちが「面白そう」「自分も挑戦してみたい」と思える事業を形にしていきます。