“命を救うのは、結局自分自身を救うこと”——譲渡不適切犬専門の保護活動に挑む理由
ー般社団法人わんずふりー 代表 齊藤洋孝氏
静岡県焼津市を拠点に、譲渡が難しい「譲渡不適切犬」を専門に保護する一般社団法人わんずふりー。噛み癖や攻撃性が理由で引き取り先が見つからず、多くの犬が行き場を失っている現実の中、同法人は“24時間完全フリー”という独自の飼育環境を整え、犬たちの心の回復を支えています。代表・齊藤洋孝氏は「犬を救っているように見えて、実は自分が救われている」と静かに語る。齊藤氏のこれまでの歩みと、未来へ向けた想いに迫りました。
譲渡不適切犬に光を当てる、唯一無二の保護スタイル
——まず、現在の事業内容と取り組みについて教えてください。
当法人は、咬傷事故、攻撃性が強いなどの理由で譲渡が難しい殺処分に一番近い犬──いわゆる“譲渡不適切犬”を専門に保護、育成、譲渡へ向けた活動をしています。世界的にも珍しい「24時間完全フリー」の環境づくりをしておりまして、犬たちは食事の時以外はすべて自由行動です。太陽、土、草といった自然の力を借りて犬たちの心をリハビリすることで、攻撃的だった子たちも心が穏やかになっていきます。
現在は500坪の敷地で約50頭を保護できる規模ですが、2027年には1万2000坪の新施設を建設し、200~300頭規模まで拡大する準備を進めています。
——この活動を始められたきっかけはどのような出来事だったのでしょうか。
22歳から本業のビル管理会社経営を続けてきて、リーマンショックの後に倒産しかけたことがありました。社員を守るために自殺を考えてしまった時、飼っていた犬がドアの前に立ちはだかって止めてくれました。その後会社は奇跡の連続で復活、「生かされた」と強烈に感じました。そこから「犬に救われた人生だから、犬たちに恩返しをする」と決め、資産と自由な時間はすべてこの活動に注いでいます。
私にとって犬は家族であり、同時に“学びを与えてくれる存在”。彼らのおかげで毎日がとても楽しく、本当の幸せとは何かを日々教えてもらっています。
“群れ”のような組織づくり
——組織運営や、犬たちと向き合う際に大切にしていることは何ですか。
世話は基本的に家族だけで行っています。犬が慣れるまでは咬傷事故が起きやすいので、それなりの覚悟が必要だからです。怪我も少なくありません。それでも犬たちの社会には“群れ”がある程度できあがっていて、リーダーやサブリーダー、適材適所の担当が存在し、共存するためのルールを新しく入った犬に教育してくれます。そして私がその中のボスとして認められていることで、新しく入った子にも秩序が伝わっていきます。
心通わずして、力でねじ伏せたり、支配で得る群れは形でしかなく機能しません。犬たちに尊敬される人間になる「嘘をつかない」「裏切らない」「信じ続ける」。受け入れた命は「家族」、何があっても愛し続ける——その思いで向き合っています。
次の目標は世界へ。“殺さない文化”を広げていきたい
——今後挑戦していきたいことや、描いている未来を教えてください。
最大の課題は受け入れ頭数です。依頼は後を絶たない、今の施設では限界がある。だからこそ新施設を建て、できる限り多くの命を救える環境をつくりたいと考えています。
最終的な目標は「殺さない文化を世界に広めること」です。動物福祉先進国でさえ攻撃性があり、改善余地がないと判断されれば安楽死となります。咬傷犬を作り出したのは人間、誰かが責任を取らなければいけない。日本から世界へ“生かす”思想を世界に発信したい。BBCが取材に来るような活動に育てたいと思っています。
犬とビール——それが最高のリフレッシュ
——お仕事以外でのリフレッシュ方法はありますか。
天気の良い日に屋外のデッキで自然を感じながら犬たちの中でビールを飲む。そのプライベートな時間が最高の癒しですね。こればかりはお金で買えない空間ですから、あまりにも贅沢すぎるな、とよく思います。