一人ひとりに向き合い続ける、分けない福祉の実践
株式会社リハビリホーム一歩 代表取締役 阿部 裕一氏
株式会社リハビリホーム一歩は介護保険による高齢者デイサービスを起点に、ケアマネジャー事業所、保育園、児童発達支援事業所を運営し、高齢者と子どもが日常的にふれあいながら、障がいの有無や年齢に関係なく、その人らしく生き生きと過ごせる環境づくりに取り組んでいる法人です。本記事では、代表の阿部裕一氏に現在の取り組みや経営の考え方、今後の展望について伺いました。
子どもと高齢者が共に生きる
――現在の事業内容や特徴について教えてください。
もともとは介護保険における高齢者のデイサービスからスタートした会社です。働く中で、「子どもと高齢者が一緒に過ごす施設ってどうなんだろう」と考えるきっかけがあり、さらに「障がいがあるとかないとかで、なぜ人は分けられてしまうのだろう」という疑問を強く持つようになりました。
そこから、子どもから高齢者まで、障がいの有無に関わらず、一人ひとりがしっかりとイキイキできる施設をつくっていきたいという思いが明確になりました。現在は、介護保険のデイサービス、児童発達支援事業所、そして一般的な保育園を同時に運営しています。
一人ひとりに向き合う選択
――経営者になられた経緯を教えてください。
私はもともと理学療法士として、目の前の患者さんや障がいを持つ高齢者の方々に「もう一度活躍してほしい」という思いでリハビリに関わってきました。その後、介護保険分野に異動し働く中で、介護業界全体に「効率」を優先する空気を強く感じるようになりました。たくさんの高齢者をどう元気にするかを考える一方で、「全体を一気に良くする」という発想には限界があると感じていました。年齢も性格も背景も違う方々に、少ない人数で効率よく対応することには、どうしても無理が出てきます。「なんでもっと個々にスポットを当てていかないのだろう」と疑問に思うようになったのです。
ある時、当時の経営陣から「君のやり方は時間がかかる」と言われました。その言葉をきっかけに、「時間がかかっても、一人ひとりにじっくり向き合える施設を自分でつくれば、本当に求められる場になるのではないか」と考えました。
大手の介護会社が効率重視で動くのであれば、自分のような立場の人間が、逆の発想で挑戦してもうまくいくのではないか。そうした“逆転の発想”が、起業のヒントになりました。
――仕事をする上で大切にしている価値観は何でしょうか。
影響を受けたのが「固定概念を捨てよ」という言葉です。熊本に職員採用で行った際、たまたま入った飲み屋で、おかみさんから渡された経営の家訓の最初に書かれていたのが「固定概念を捨てよ」でした。
それまで「固定概念」という言葉を深く意識したことはありませんでした。改めて考えてみると、世の中は固定概念だらけで「デイサービスとはこうだ」「高齢者はこうあるべき」「男はこう、女はこう」といった前提があまりにも多いのです。そこで、その固定概念から外れて考えてみようと意識し始めました。
現場が主役の組織づくり
――組織運営で意識していることを教えてください。
当社では「管理業務だけやって、現場に出ないというスタッフを一人もつくらない」という方針を最初から決めました。現在、職員はおよそ100名ほどいますが、全員が現場に出ることを前提にしています。みんなが現場を見ているからこそ、目指す方向を共有しながら、同じ目線で話し合うことができます。
以前は大手にいたときに、社長や管理業務の方が現場に出向くことはほとんどありませんでした。現場の人から意見を吸い上げて、聞いた話を基に、それを管理職陣が会議にかけるという感じです。何千人もスタッフを抱え、全国展開しているような会社の社長が実際に現場を観察したり、アイディアを考えたりといったことはほとんどありませんので、現場に経営者の考えが反映されることは難しかったのです。
――社員に求める姿勢はどのようなものですか。
当社ではポジションや働き方、年齢で役割を決めません。パートだからこう、正社員だからこう、パートは正社員の言うことに従うべきというような考え方などは一切ありません。非常勤の方の中には子どもの都合によって、働き方を選択している人もいます。しかしながら、どのような働き方であっても、力があれば上に立って現場を引っ張ってもらいます。その考え方は社内で徹底していて、資格や雇用形態ではなく、みんなが同じ方向を向いて、同じ立場で力を合わせて働くっていうことを意識してもらっています。
場所が変わっても変わらない
――今後の展望や挑戦したいことを教えてください。
現在は、青森県弘前市で新しい施設をオープンする準備を進めています。
当初より「チェーン店化はしない」と決めて、ある一つの市の中で完結させたいと思っていました。
一方で「今のやり方がたまたまうまくいっているのではないか」という気持ちも芽生えてきました。他の地域ではどうなんだろう、という興味はあり、うまくいけば日本全国どこへ行っても通用するという自信になるのではないかと。将来的には海外でも挑戦し、当社のやり方が海外でも受け入れられるのかを確かめてみたいという夢も描いています。
出会いが心を動かす
――仕事以外でのリフレッシュ方法を教えてください。
子どもと遊ぶ時間は好きです。あと、ランニングが好きで、先日は走ることが好きな職員たちと一緒に「上尾シティハーフマラソン」に参加しました。仲間と達成感などを分かち合えるのが楽しいですね。
あとはわくわくする取り組みをやっている施設があるとそこを見学に行きます。新しい考えの人との出会いによって、お互いに認め合えるような関係が生まれ、そういう出会いで世界が少し広がるような気持ちになります。