“100年後も残るものづくりを” 伝統技術を今に継ぐ、株式会社いたがきの革製品づくり
株式会社いたがき 代表取締役会長 板垣 江美氏
北海道赤平市に工房を構える株式会社いたがきは、希少な「タンニンなめし革」を用いた鞄・革小物づくりで知られています。創業者の精神を受け継ぎながら、クラシックでありながら普遍的なデザインと、長年使い続けられる確かな品質で多くのファンに支持されてきました。同社を率いる板垣江美氏に、会社の歩み、ものづくりへの想い、組織づくり、そして未来への展望をうかがいました。
目次
希少なタンニンなめし革にこだわり続ける理由
――現在の事業内容と、ものづくりの理念を教えてください。
こだわり続けている「タンニンなめしの革」は、一般的にはあまり市場に出回っていない希少価値の高いもので、タンニンでなめす革は手間と時間が非常にかかり、厚みのある革が必要なため、年々手に入れることが難しくなっています。それでも私たちがこの革を使い続けている理由は、創業者である父の技術と哲学がそこに根付いているからです。
父は15歳から鞄づくりを始め、昭和20年代の“本物のものづくり”が当たり前だった時代を生きていました。彼が身につけた技術を今も継承し、当時と変わらない作り方を大切にしながら職人が一つひとつ製品を生み出しています。
――主力製品について教えてください。
代表作は「鞍ショルダー」です。馬の鞍(サドル)をモチーフにしたかぶせのデザインが特徴で、父が会社を独立した際に最初に手がけたカバンでもあります。男女問わず使える普遍的なデザインで、ブランドを象徴するシリーズとして多くのお客様に愛されています。
また、貴重な革をすべて使い切るために鞄を作って残る端材で財布や小物なども作っています。「革を無駄にはしない」というのも創業当時からの考え方です。
創業者の想いを受け継ぎ、経営者として立つ決意
――経営の道に進まれた背景には、どんな想いがあったのでしょうか。
父が創業した会社だったので、創業当時から家族みんなが関わってきました。長年積み上げてきた技術や価値観を途絶えさせたくないという思いが一番大きかったです。私は父が亡くなってから会社を引き継ぎましたが、職人たちと向き合いながら「この会社の文化を守りたい」と自然と覚悟が固まりました。
震災やコロナなどさまざまなことがありました。特にコロナは父が亡くなった後だったので、どう乗り切るかというのは大きな課題でしたが、その中で学び得たことも多く、今に生かすことができています。
職人が誇りを持てる環境をつくる組織運営
――社内の雰囲気や、社員とのコミュニケーションで大切にしていることは?
社内には経営陣や社員だけではなく、アルバイトやパートを入れたら100名を超えます。
職人には一人ひとりが自分の仕事に誇りを持てるように意識しています。作業自体は黙々としたものも多いですが、情報共有や相談はいつでもできる環境を整えることを大切にしています。
また、販売の現場でもお客様と直接向き合う機会が多く、素材や製法について丁寧な説明が求められます。全製品の7割近くは赤平で作っていますが、協力工場にもお願いしているため、コミュニケーションはこまめに取り、関わる全員が同じ方向を向ける組織づくりを心がけています。
100%修理を前提にした“育てる革製品”を未来へ
――今後挑戦していきたいことを教えてください。
弊社は北海道が拠点です。展開していくとなると南の方に移っていく感じになりますが、今一番西の方の店舗は京都と中部国際空港の中にお店があります。全国で催事販売も展開しているため、広島や福岡、鹿児島にもお客様がいらっしゃいます。
店頭での製品のお手入れや軽修理、本社の修理部門でお預かりして行う革のメンテナンスや修理まで、丈夫で長持ちするタンニンなめしの革をできるだけ長くご愛用いただけるように、これからも体制を整えて維持していくことも大事な取り組みです。
本州や九州に向かって順次、店舗を展開していく計画はあります。ただ、「次の店舗は?」と考えた場合、東京と北海道のちょうど中間の仙台が候補になります。
また、インバウンドからの需要も非常に高まっていますので、しっかり間違いのないものを作り、それを国内で販売するべきか、外国にも出ていくべきかというのもこれからの大きな課題であると思っています。
100年先も残るようなブランドであるために、ものづくりの技術を未来へ継承していきたいです。
経営者としてのリフレッシュ方法
――お仕事以外の時間で、大切にしている習慣はありますか?
人がいないことにはこの仕事はできません。なので、仕事柄人と関わることも多いのですが、地元に根づいた企業であり続けるためにも働いてくれてる人とその地元、長く安定して素材を供給してくれている会社さんなどとの関係をとても大切にしています。
出張でもプライベートでも移動にかかる時間は、拘束されない自由な時間になるので、その時に目に入る人の動きや風景、ポスターなどを新鮮な気持ちで眺めるようにしています。思いがけない発見や驚きがあり、活字やスマフォからではない今の時代を感じることが、自分自身にいい影響を与えてくれています。