学校の外から教育を問い直す──「あなたは間違っていない」と伝え続ける理由
一般社団法人アナザーステージ 代表 渡部正嗣氏
学校教育の現場で35年にわたり教員として歩み、校長職にまで就いた渡部氏。安定した立場を自ら手放し、一般社団法人アナザーステージを立ち上げた背景には、娘の不登校と、その成長を通じて得た大きな気づきがありました。学校の中だけでは変えられない教育のあり方を、あえて「外側」から問い直す。本記事では、その挑戦の原点と現在、そして未来への思いを伺いました。
目次
「あなたは間違っていない」と伝える、不登校の子どもと家族を応援する法人
――現在の法人の活動内容と、根底にある考え方を教えてください。
私たちは支援型の一般社団法人で、就業活動や収益事業を目的にはしていません。中心にあるのは、不登校の子どもたちと、その保護者を「応援する」という姿勢です。あえて「支援」という言葉を使わず、「あなたはあなたでいい」「何も間違っていない」というメッセージを伝えることを大切にしています。
――具体的にはどのような活動を行っているのでしょうか。
主な活動は、年に一度、離島で実施しているキャンプです。不登校の子どもたちを対象に、隠岐の島という島で2泊3日を過ごします。プログラム自体はとてもシンプルで、自然の中で遊び、地元の方々と触れ合う。それだけです。ゲームをしたければしてもいいし、無理に何かをさせることはありません。
――その活動に込めた思いを教えてください。
今の学校教育は、例えるなら汚れてしまった水槽のようなものだと感じています。子どもも先生も苦しんでいるのに、水を変えようとはせず、酸素ボンベを与えるような対処ばかりが続いている。私たちは、教育という「水」そのものを変えていく必要があると考えています。
娘の不登校が問い直した、35年の教員人生と教育観の転換
――これまでのご経歴と、転機について教えてください。
私はもともと中学校の教員で、生徒指導や部活動指導を得意とするタイプでした。いわゆる厳しい指導をする教員だったと思います。その私の娘が、不登校になったことが大きな転機でした。当初は受け入れることができず、恥ずかしいという感情すらありました。
――そこからどのような変化があったのでしょうか。
娘は中学にも高校にも通いませんでしたが、自分で選び、自分で動き、結果的に大学へ進学し、就職し、幸せに生きています。その姿を見て、自分が「正しい」と信じて教えてきたことが、本当に正しかったのか疑問を持つようになりました。
――校長を辞める決断に至った理由は何だったのでしょうか。
学校の中で改革を進めても、異動があれば元に戻ってしまう現実や、大人の意識がなかなか変わらないことに限界を感じました。さらに、孫が生まれたことで、「この子に同じ思いをさせてはいけない」という気持ちが強くなり、学校の外から伝えていく決断をしました。
子どもを特別視しない関係性が育む、安心できる居場所づくり
――一緒に活動しているメンバーについて教えてください
法人は、同じ思いを持つ仲間と立ち上げました。教育に強い関心を持つ経営者や、自身が不登校を経験した兄弟など、背景はさまざまですが、子どもをそのまま受け入れるという価値観は共通しています。
――活動を支えている存在は他にもありますか。
キャンプでは、地元のボランティアの方々の存在が欠かせません。子どもたちを特別視せず、フラットに接してくれる。その自然な関わりが、子どもたちの自己肯定感を大きく高めています。
離島キャンプを軸に、教育の“外側”から広げていく挑戦
――今後、特に力を入れていきたいことは何でしょうか。
まずは、このキャンプを毎年続けていくことです。加えて、将来的には海外体験にも挑戦したいと考えています。学校に行けない子どもたちは、海外体験との親和性が高いと感じています。
――法人としての課題はありますか。
収益活動を行っていないため、継続性の確保が課題です。私自身も個人事業を立ち上げましたが、簡単ではありません。活動に共感してくださる方々と、どう連携していけるかを模索しています。
愛犬と旅の時間が支える、「子どものために動く」覚悟
――日常のリフレッシュ方法を教えてください。
長年、ミニチュアダックスフンドと暮らしていて、犬と過ごす時間が癒やしです。また、車での一人旅も好きで、知らない土地を歩くことで気持ちを整えています。
――大切にしている価値観は何でしょうか。
すべての判断基準は「子どものためになるかどうか」です。困っている子どもがいるなら動く。それだけは譲れない思いとして、これからも活動を続けていきたいと考えています。