派遣支援と“個性”に寄り添う労務戦略――AI時代に社労士が担う価値

社会保険労務士法人ナデック 代表社員 小岩 広宣氏

社会保険労務士法人ナデックは、2002年に三重県鈴鹿市でスタートしました。「人の成長を通じて、会社を成長させたい」という思いを軸に、地元企業の労務を支え続け、2009年には鈴鹿市で初となる社会保険労務士法人化を実現しています。人材派遣支援を強みとしながら、近年はジェンダーや多様性といった視点も労務管理に取り込み、時代の変化と真正面から向き合ってきました。本記事では、代表社員の小岩氏に、開業から24年にわたり積み重ねてきた専門性と、AI時代における社労士の役割について伺います。

人材派遣に特化して築いた“支援の三本柱”

――現在の事業内容を教えてください。

事業は、大きく三本柱で考えています。

1つ目は、人材派遣会社の支援です。社労士法人としての手続き業務を基本としながら、業界でもかなり早い段階から派遣業の許可申請に取り組み、さまざまなノウハウを蓄積してきました。三重県を拠点としつつ、東京・大阪・名古屋といった都市部でも特化した支援ができていると感じています。

2つ目は、時代の潮流でもある、多様性やジェンダーを切り口にした労務管理です。書籍の出版をきっかけに、行政や企業向けの研修にも積極的に携わるようになり、現在は研修ツールの開発や一般社団法人を通じた事業も進めています。

3つ目は、開業以来の地元に重点を置いた支援で、三重県を中心に労務管理をベースとした、経営者のビジョン明確化と理念共有、労務管理や人材育成を丸ごと支援する、「伴走型」のサポートを続けています。

――派遣支援に特化した理由は何でしょうか?

前職が派遣会社だったことは大きいです。管理部門や人事部門を経験しましたが、派遣社員として現場を経験したこともあり、このような幅広い経験が、間違いなく今日に至るまでの仕事のバックボーンになっています。

かつての〝派遣切り〟に象徴されるように、派遣という働き方はネガティブに語られることも多いですが、私は以前からそうは思っていませんでした。銀行や自動車メーカー、医療機器、建設業の経理など、さまざまな職場を経験できたのは派遣ならではだったと思います。

その実体験があるからこそ、経営層か現場かを問わず、派遣会社の立場や悩みに、誰よりもリアルに向き合うことができていると感じています。

開業24年の原点――「サラリーマン向きではない」から始まった独立

――独立を意識した背景を教えてください。

小学生の頃に父が脱サラして、自営業をしていた影響は大きいと思います。苦労している姿も見てきましたが、そんな中でゼロからの出発でも、めげることなく個性を武器に攻めの姿勢で地元から事業を成長させてきた姿は、今でもずっと脳裏に焼き付いています。

一方で、私も父と似た部分があって、とにかく「みんなと同じことをやる」ことが苦手でした。最初の頃の派遣社員という働き方は、そんな気質に合っていたと思いますし、最終的にサラリーマンではなく独立を選んだのも、今思えば自然な流れだったと感じています。

――創業初期はどのように乗り越えましたか?

最初の3年間は正直厳しかったです。なかなか結果が出ない状況の中で、ふとご縁があった人材派遣会社が顧問先となり、「そうか、自分は派遣なんだ」と目覚めてこの分野に特化することができたことが、その後の大きな推進力になりました。

もともと営業経験がなかったどころか、人前で話すことすらできない性質だったので、この仕事は向いてないかもと思ったこともありましたが、新しいものが好きで好奇心だけは人一倍強かったことが、幸いしたかもしれません。

独立した当時は、まだこの業界でホームページが普及し始めた時期で、そんなタイミングにも救われたと思います。派遣を始めとする分野特化のサイトを横展開したり、SNSや地方媒体も含めた情報発信を徹底したことが、じわじわと仕事につながっていきました。

その後は、思いきっていろんな団体の講師をしたり、著書の執筆やメディア取材に挑戦したら、勝手に宣伝してくれる人が増えて、同業者を含めた紹介の連鎖が生まれました。資格は〝ありのままの自分〟と掛け算されて、初めて命を宿るのだと痛感します。

“いなくても回る組織”と、挑戦を生む採用・育成の考え方

――組織づくりで意識していることは何ですか?

私は、かなり早い段階から、社内に自分がいなくても業務が回る体制を意識してきました。10年以上前から良い意味で実務とは一定の距離を置き、責任者に任せてほぼすべての案件をコントロールできる仕組みを整えています。

コロナ禍を挟んだ今では、わりと普通になりつつありますが、当時は士業事務所としてはかなり異色でした。かつて大学で歴史を専攻しましたが、日本の歴史を振り返っても、トップが一元的に管理する組織がうまくいかないことを、肌感覚で感じていたのだと思います。

経営者が常に現場にいると、臨機応変に判断できる反面、どうしても目線が短視眼になってしまい、また現場はどうしても上司の空気を読むようになってしまいます。この点、まとめ役がいて、任せることで組織は安定し、それぞれの個性が発揮され、結果的に強くなると考えています。

――採用で重視しているポイントを教えてください。

士業事務所だからといって、資格にはこだわっていませんし、事務職の経験などもまったく不問です。むしろ、畑違いの業界や職種出身の方がしがらみなく活躍できていますし、「士業だからこう!」というイメージを変えたい思いもあります。実務能力もさることながら、一緒に企画やアイデアを出しながら、新しいことにチャレンジできる人を求めています。

柔軟な発想は、経験を積むほど失われがちです。現在取り組んでいる新たなコンテンツやサービス、研修ツールなども含めて、事務作業だけではない役割を担える人材と一緒に、次のフェーズに進みたいと考えています。

AI時代に社労士が磨くべき価値――個性を見抜き、余白を提案する

――労務の仕事は今後どう変わると見ていますか?

私は、独立した20年以上前から、いずれ確実にAIの時代が来ると考えていました。

10年ほど前からは、周囲にも「必ずAIが入ってくる」と話していましたが、当時はあまり実感を持って受け取られなかった印象があります。それでも、コロナ禍前後を境に、一気に現実のものになり、今は予測通りの流れになっていると感じています。

今年からのAIの進化はさらに加速していき、いわゆる定型業務については、間違いなくAIに置き換わっていくでしょう。ただ、それで社労士が不要になるとはまったく思っておらず、むしろ「情報の迷子」になる人へのアドバイザーとして頼られる場面が増えると見ています。

AIとは、いうなれば高速道路のような存在で、整備された領域については一気に駆け抜けることができます。一方で、高速道路が通らない部分、つまり経営者の悩みや意思決定の背景に寄り添う領域こそ、われわれ専門家が今後担う役割だと考えています。

AIの目覚ましい勢いで、労務相談や法律相談の質が変わる中で、本当の「個性」を見抜き、「余白」をどう埋めるかが、これからの社労士の価値になると思っています。

――中小企業の経営者・起業家へ、今伝えたいメッセージをお願いします。

経営者は、成長意欲や行動意欲が高い反面、苦手なことを避けがちです。ただ、その「苦手」だと思っている部分こそ、武器になることがあると考えています。かつては「長所伸長」が経営の常道でしたが、テクノロジーの進化によって伸びしろの最大化が容易になると、むしろ状況は一変する可能性が高いと見ています。

私自身、子どもの頃は自分の声を聞いたことがないクラスメイトがいたほど、引っ込み思案な性格でしたが、逆にそんな気質を「強み」に転換しようと決めたことが、今につながっています。AIができない部分、人にしかできない「余白」に目を向け、自分の「個性」をどう生かすかを考えてほしいですね。

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