患者に一日でも早くサービスを届けたい――SONoALSが挑むALS早期診断と治験支援の未来
SONoALS株式会社 CEO 佐伯 千寿氏
SONoALS株式会社は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の早期診断・治験支援サービスを提供する医療機器の社会実装を目指すスタートアップです。ウェアラブル超音波と、筋肉のぴくつきである「ファスキレーション」を解析するAIを組み合わせ、定量化が難しかった現象の可視化に挑んでいます。本記事では、CEOの佐伯千寿氏に、事業の原点や今後の展望などについて詳しく伺いました。
ALSの早期診断と治験効率化を支える新たな仕組みづくり
――現在の事業内容について教えてください。
ALSの早期診断と、薬効バイオマーカーによる治験効率化サービスの実現を目指しています。具体的には、ウェアラブル超音波と、筋肉のぴくつきである「ファスキレーション」を解析するAIを組み合わせ、ファスキレーションを定量化する仕組みを開発しています。
――この事業に取り組む背景には、どのような課題がありますか。
ALSでは、確定診断までに長い時間がかかる点と治療薬が殆ど存在しない点が大きな課題です。筋力低下が現れてから診断に至るまでに複数の医療機関を受診するケースも多く、その間に最適な治療介入のタイミングを逃してしまうことも少なくありません。
一方で、近年は発症早期の投与によって進行抑制が期待される薬剤もわずかながら出てきました。だからこそ、ファスキレーション出現の段階でスクリーニングをかけて異常を捉え、正常か病的変化かを早期に見極められる仕組みが必要だと考えています。
また、ファスキレーションの変化をもし薬効評価へ応用できれば、治験の効率化や新薬開発のスピード向上にもつながっていくと考えています。
原点は、自身がALSの疑いを告げられた経験
――起業のきっかけをお聞かせください。
数奇なことに、4年半前に、神経内科医である私自身が「ALSの疑いが強い」と告げられたことがきっかけです。左足のわずかな筋力低下が出始め、1年かけて握力低下や歩行障害も進行していきました。
絶望の中、文献を徹底的に調べるなかで、3ステップ程のアイデアを組み合わせ、ある薬に出会いました。自身で内服後にファスキレーションが大きく減少し、筋力にも改善が見られたことで、「これはもしかすると薬効バイオマーカーとして活用できるのではないか」と考えるようになったんです。近年承認されたロゼバラミンという新薬がファスキレーションを減らすことも、アイデアの一助となりました。
この経験を個人の体験で終わらせず、早期診断や治験支援につなげたいという思いから、起業に至りました。
――医師・研究者でありながら、会社を立ち上げた理由は何ですか。
もともと起業はまったく考えていませんでした。大学病院の神経内科医局に所属し、一般的な医師のキャリアを重ねていくつもりだったんです。
ただ、自分のアイデアを大学内で共有した際に、大学知財部から「事業化した方がいい」と言われ、特許出願の話が進みました。そこから、研究成果を社会実装するという視点を持つようになりました。
アカデミアを軸に、社会実装へつなげる
――創業時から現在まで、どのように事業を進めてきましたか。
研究アイデアがあっても資金がないと何も始まらないーーその現実を打破するために、少額から研究助成金を獲得し始めました。創業当初はスタートアップに関する知識が無く、知財、薬事、ビジネス戦略、資金調達など、必要なことを一つずつ学びながら進めてきました。
ウェアラブル超音波の研究の存在を知った際、「ALSのファスキレーション解析と組み合わせれば自動定量化できるのではないか」と思いつき、海外の研究者へ連絡を取り、共同開発が始まりました。思い立ったらまず動く――その積み重ねが、現在の事業につながっています。
――現在の組織体制について教えてください。
取締役は私を含めて3名です。CEOである私のほかに、優秀なCTO兼COOと、CFOがいます。現在は臨床試験の準備を進めており、大学病院を含めた医療機関で早期診断や薬効バイオマーカーの検証を行う予定です。
――経営者として大切にしていることは何ですか。
その研究は患者さんを幸せにするのか、何かを変えるのか。一番大切にしているのは、患者さんに還元できるところまでやり抜くことです。課題解決のために、アイデア・研究段階で終わらせず、社会実装して実際に届けるところまで持っていきたいと考えています。
過去に自身がALSの疑いを告げられた経験から、「こんな残酷な気持ちを誰にもさせたくない」という強い想いがあります。だからこそ、スピード感を持って進めることを意識しています。
海外展開も見据え、薬事・知財・資金調達に向き合う
――現在、直面している課題は何ですか。
薬事・知財・ビジネス、それぞれの視点からどのように戦略を練るかがテーマです。知識不足は戦略ミスに繋がり、スタートアップ経営の命取りになりかねないので注意しています。
また継続的な資金調達も重要です。現在も出資や支援の話は進んでいますが、臨床試験や海外展開を見据えると、中長期で研究開発を支えられる体制づくりが必要だと感じています。
――今後の展望について教えてください。
まずは臨床試験を通じて、医療機器による早期診断や薬効バイオマーカーに関するエビデンスを構築していきたいと考えています。
その先は、国内だけでなく海外展開も視野に入れています。すでに数ヶ国から共同研究のお声がけもいただいており、将来的にはFDA承認まで見据えています。
もしファスキレーションを薬効バイオマーカーとして活用できれば、被験者選定や治験設計の効率化にもつながるはずです。新薬開発の進め方そのものに変化を生み出せる可能性があるため、非常に大きな挑戦だと感じています。
――最後に、読者へのメッセージをお願いします。
研究の恩師である海外女性研究者がプレゼントしてくれた本のエピローグの言葉が強く胸に刻まれています。
” あなたの人生に何が起こったとしても。苦難や痛みがどんなに大きかったとしても。いま何をすべきかを選択するあなたの力に比べれば、それらはまったく瑣末なことだ。”
ALSの疑いを告げられたときは、これ程の苦痛がこの世にあるのかと感じました。しかし、この言葉には本当に助けられました。力を振り絞って、私はALSを治る世界にするんだと覚悟を決めました。
それから何度も会社に危機が訪れました。その度にこの言葉を思い出して、あらゆる手を尽くし、行動し続けました。
諦めない限り道は続いていく。道は必ずどこかに到達する。そう信じています。