変わらない「懐かしさ」を、変化する時代へ。伏見稲荷の参道から発信する、京都の伝統とモダンが織りなす味

株式会社SANDOW 専務 渡邊 龍一郎氏

京都を代表する名刹、伏見稲荷大社。その参道に店を構え、参拝客や観光客に長く愛され続けているのが株式会社SANDOWです。同社は、祖母の代から続く甘味処の営業をルーツに持ち、現在は「甘酒」や「冷やしあめ」を中心とした製造業、そして京都の甘味文化を発信する飲食店の経営、さらには観光客向けの不動産テナント事業までを手掛け、伏見の街の活気と伝統を支えています。

今回は専務の渡邊龍一郎氏に、事業を引き継いだきっかけや経営における確固たる軸、次世代へ技術を繋ぐ組織運営、そしてこれからの展望について、じっくりとお話を伺いました。

京都の歴史が育んだ甘味文化と、人々の記憶に寄り添う「甘酒・冷やしあめ」の製造

――現在の事業内容や特徴について教えてください。

私たちは、伏見稲荷の参道を中心に、飲食店経営と合わせて「甘酒」や「冷やしあめ」を中心とした伝統的な飲料の製造業を行っています。これらに加え、観光客向けの不動産テナント事業として、地域の店舗様に入っていただく事業も展開しています。

私たちの強みは変化し続けるインバウンドの状況や時代のニーズに合わせ、流動的にアップデートしていく柔軟性です。製造業に関しては観光地への販路が多く、伏見を拠点としながら、清水寺周辺の市場、さらには銭湯や温泉施設など、京都の文化や癒やしが息づく場所へ広く商品を卸させていただいています。

近年は、お越しになるお客様の層が大きく変わりました。以前はご年配の方が中心でしたが、最近では若い大学生の方や修学旅行生、海外からの観光客の皆様が非常に増えています。

海外基準ではなく「日本のお客様の満足」を軸に置く

――経営者の道へ進まれた、具体的なきっかけや背景をお聞かせください。

ある「味の途絶」への危機感でした。うちの会社は、私の祖母の代からこの場所で甘味の営業をさせていただいているのですが、当時、私たちが仕入れていた甘酒や冷やしあめを作っていた製造会社(マルキ商店様)がありました。

しかし、そちらの会社が設備の経年劣化に直面し、さらに職人様がご高齢になられて「もうそろそろ、事業をやめようか」とおっしゃったんです。

小さい頃からその会社の味に親しんで育ちましたし、地域に深く根ざした懐かしい味がなくなってしまうのは、あまりにも寂しい、絶対に絶やしてはならないと思い、私がその製造事業を引き継がせていただいたのがすべての始まりです。

――「これだけは譲れない」というこだわりはありますか?

やはり、商品の「味」そのものです。お客様に安心して美味しいものを召し上がっていただくための衛生管理はもちろんですが、商品のクオリティを均一に保ち、落とさないための努力は惜しみません。従業員たちにも「ここだけは我が社のプライドとして、絶対に妥協してはならない」と日々、口酸っぱく伝えています。

そして日本国内の旅行者の方や、地元の方々が当店に足を運んでいただけた際に、心から満足して、気分良くなっていただけるような価格設定、サービスの質を絶対に崩さないこと。国内のお客様を大切にし続けることこそが、私たちが一番譲れない経営の軸となっています

季節感を共有し、若い世代へ文化を紡ぐ。生き物である「麹」と向き合う物作りの姿勢

――組織の運営や、一緒に働くスタッフの皆様とのコミュニケーションにおいて、特に意識されていることは何でしょうか。また、職場の雰囲気についても教えてください。

彼らとのコミュニケーションを円滑にするため、月に1度は食事会や集まりを開いて、ざっくばらんに話せる機会を作っています。また、京都は四季の移り変わりによる季節感が非常に色濃く反映される街です。若いスタッフたちには、京都ならではの伝統行事や季節のイベントに積極的に参加させてあげたい、ここで働くことで京都の文化を好きになって喜んでくれたらいいな、という思いで日々接しています。

――今後、新しくスタッフを採用したり、お弟子さんのような形で技術を育成したりする際、どのような方と一緒に働きたいと思われますか?

特に甘酒の製造に関して言えば、非常に神経を使う繊細な仕事になります。原料となる「麹(こうじ)」は、まさに生き物です。季節やその日の気温、湿度によって発酵の度合いは全く変わってきますし、それによって引き出されるお米の甘みの強さや風味も変化します。

ですから、ただの「作業」としてこなすのではなく、麹に対して深い興味と愛情を持てる方、物作りのプロセスそのものを面白いと感じてくれるような方と一緒に働けたら、これほど嬉しいことはないですね。

伝統をモダンに昇華する未来の挑戦

――今後の展望や挑戦したいことを教えてください。

現在、甘酒は「飲む点滴」などとも言われ、夏場の熱中症対策や健康飲料としての認知も少しずつ広がってきました。しかし、市場全体としては、やはりお正月や七五三といった冬の限られた時期がメインの商材であるというイメージが根強く残っています。

今後は、これを一歩進め、お取り寄せやギフトの形で一年を通してお客様の手元へ直接お届けできる仕組みを整えたいと考えています。京都伏見の伝統の味を、全国のご家庭でも手軽に楽しんでいただき、自宅にいながらにして「まるでお正月にお参りに来たかのような特別な気分」を味わっていただけるような商品展開を、現在まさに準備しているところです。

ゴールデンウィークなどの大型連休には、本当に多くの国内のお客様にお越しいただき、ありがたい限りです。一方で、地域全体で解決すべき問題も度々話し合われています。ゴミ問題などは昔に比べてかなり改善されてきましたが、まだまだ残された課題は多いです。

――今後のブランディングにおいて渡邊社長が描いている「イメージ」があれば教えてください。

京都の文化というと、「侘び寂び(わびさび)」に代表されるような、落ち着いた世界観をイメージされることも多いかもしれません。しかし私たちが大切にしたいのは、明治・大正期のような、いわゆる文明開化の足音が聞こえてきた頃の、華やかでエネルギッシュな「モダン」が融合した時代背景です。

お寺の静けさというよりは、神社のような鮮やかさや活気。あの時代の少しハイカラで華やかな印象を、商品のパッケージや店舗のブランディングのイメージに、うまく落とし込んでいきたいという強い思いがあります。

休日も愛する「食」の探求へ。生き物と向き合う日々の合間のリフレッシュ法

――仕事以外でのリフレッシュ方法を教えてください。

普段から自分で料理をするのが好きで、キッチンに立って色々な料理を作っています。

また、休日には全国の観光地へ足を伸ばし、以前より気になっていた料理屋さんや、趣のある喫茶店などを巡るのも大きな楽しみです。

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