「商品管理部を日本からなくす」——食品表示の現場を支えるアウトソーシングと、“後輩至上主義”の組織づくり
株式会社フードガイドサービス 代表取締役 伊藤 耕一郎 氏
食品表示や規格書の作成・管理は、事業者にとって欠かせない一方で、専門人材の確保が難しく、現場の負担になりやすい領域です。そんな課題に対し、商品管理部のアウトソーシングという形で支援し、法改正にも自動で追随する仕組みを提供しているのが株式会社フードガイドサービスです。組織の根底にあるのは「後輩至上主義」。言論を封じず、改善の声に報いる文化を土台にしながら、次世代に継続できる“ホワイト度”の高い事業モデルを目指す伊藤氏に話を伺いました。
目次
「喜んでいただくために」食品表示の悩みに向き合う事業の現在地
——いまの事業を始めた理由を教えてください。
食品表示や規格書の作成・管理、そしてそれらを担う専門人材の獲得に悩んでいる事業者の方々に、喜んでいただくためです。必要性が高いのに、現場で抱え込むと負担が大きくなりがちな領域なので、そこを支える存在になりたいという想いが出発点になっています。
——取り組まれている事業の特徴や、他社にはない強みはどこですか?
商品管理部のアウトソーシング化ができるところが強みです。商品管理部の業務は膨大であるうえに、管理や運用など複雑なフローも少なくありません。そういった現場の負担を軽減できるよう、現場の業務を私たちが担うといったイメージです。
加えて、日本初として、食品表示法の改正があった際に自動的に最新基準の完成物を納品するなどのサービスも行っています。法改正への対応はタイムリーさと正確性が求められるため、そこを仕組みとして提供できることに価値があると考えています。
——理念やビジョンに込めている想いを聞かせてください。
「後輩至上主義」です。個人的な経験として、「今だけ良ければそれでいい」という価値観に多く触れてきました。
私はそれを批判したいと思っています。だからこそ、組織としては、次の世代や後輩がより良い環境で働けるように、意思決定や制度を積み上げていきたいです。
調理師から経営へ——「正しく絶望した」経験が背中を押した
——経営の道に進まれたきっかけや背景は何だったのでしょうか。
若い頃、私は調理師でした。当時の現場は業務量が多かったり、労働環境が良くなかったり。正直、現場では、多くの「死」を感じることがあったのです。
死にたくないから経営の道に進んだ、といっても過言ではありません。言葉にすると極端に聞こえるかもしれませんが、それくらい、当時の環境から抜け出して生き方を変えたいという切実さがあったのです。
——経営者として実現したい夢・目標を教えてください。
経営者として、私が実現したいのは「ブラック企業の駆逐」と「精神的な奴隷解放」です。某会員制リゾートホテルに就職した際、会社からは「ホスピタリティ重視」と言われるのです。しかし、社員に対してはホスピタリティなんてまったくない体制で、多くの若者が搾取されていました。
その経験から、その会社に対しても、業界構造に対しても強い疑問を感じています。だからこそ、働く人が搾取されない仕組みをつくりたいと思っています。
——これまでのキャリアで、ターニングポイントだった出来事はありますか?
会社内で独自システムを開発・改良し、業務改善したことがあります。当時は、「会社のためになった」と思ったのですが、上司からは「余計なことをするな。お前は調理師だろう」と言われました。
もう何を言っても、何をやっても無駄であることが理解できたのです。「正しく絶望ができた」という感覚がありましたね。その会社への未練や希望を一切断ち切って、独立するしか道はもうないと確信できました。きっと、その経験がターニングポイントになっています。
言論を封じない。改善の声に報いる“自由”な組織運営
——社員さんが自分の考えで動けるように、どんな工夫をされていますか?
アイデアはもちろん、愚痴レベルであってもボーナスを支給するという組織にしています。発言しやすい空気、そして「言うだけでも成果として評価される」空気を意図的につくっているのです。
改善は完成品の提案だけでなく、違和感の共有から始まることも多いので、入口を広くしています。
——社内コミュニケーションで特に大事にしていることは何ですか?
従業員の言論を封じないことです。部下から「言っても無駄」と思われたら、組織として危険だと思っているからです。
部下にとって「声を出しても意味がない、会社に届かない」となれば、その瞬間に組織は硬直します。だから、「言える状態を守ること」そのものを重要な仕事として捉えています。
——社内文化を一言で表すと、どんな雰囲気でしょう。
自由です。自由に発言できること、自由に改善できること、その「自由」が現場の前進につながる状態にすると思っています。
また、裁量権も多いため、自分の判断で自由に働ける環境でもあります。もちろん、ノルマも設けていないので、大切な部下が無理なく働けるような雰囲気です。
ちなみに、キャリアアップとして資格取得を目指す人にはしっかり支援しますし、テレワークにも対応しています。ダブルワークも認めているので、ワークライフバランスや働き方にもこだわれると思います。
「商品管理部を日本からなくす」人手不足に挑む、次の一手
——いま向き合っている課題について教えてください。
現状、最も大きな課題が人手不足です。求人を出してもなかなか応募・採用につながらないため、対策として、食品表示専門の「無料受講可能」かつ「案件確約」のオンラインアカデミーを設立しました。
学びたい人が学べて、実務の機会につながる形にすることで、領域全体の担い手を増やしたいと考えています。
——業界の流れを見ていて、「こう変わっていく」と感じることはありますか?
生産労働者人口が減少していくのは、不可逆的だと思います。今後もどんどん生産労働者は少なくなり、企業の人手不足は深刻になると感じますね。
だからこそ、それに対応する働き方や生産方式が求められると考えています。人が減ることを前提に、業務の組み立てや仕組みの作り方を変えていく必要があります。
——今後、取り組んでいきたい挑戦をあらためて聞かせてください。
商品管理部を日本からなくすことを実現していきたいと思っています。個々の企業が抱え込み続ける構造そのものを変えていくイメージです。必要な業務がきちんと回るのはもちろん、働く人が疲弊しない形へ寄せていきたいです。
譲れないのは「付加価値性」。経営判断の軸にある「数字」への想い
——経営の中で「これだけは譲れない」という想いは何ですか?
経営の中で譲れないのは、「付加価値性」です。どれだけ理想を語っても、付加価値が生まれなければ続きません。
価値があるから選ばれ、価値があるから継続できる。その軸を外すと、結局は誰かの無理で成り立つ構造に戻ってしまうと思っています。
——経営判断の軸になっている価値観や信条を教えてください。
法人格での判断軸は貸借性です。どんな理想も貸借が伴わないものは実現しないと思っています。
判断に迷うことがあったり、分岐点に立たされたときには、一度「貸借が伴うか」と、思考を巡らせるようにしています。