感情を可視化し、体験を進化させる――OVOMINDが挑む次世代インタラクション
OVOMIND株式会社 代表取締役 ヤン・フラチ氏
呼吸や鼓動、発汗などの生体シグナルを捉え、感情をリアルタイムで分析して可視化する。OVOMIND株式会社が手掛けるのは、ハードウェアとソフトウェアの両面から提供する“エモーショナル・インテリジェンス”のライセンシング事業です。エンタメ領域、とりわけゲームの体験を変える技術として注目される一方で、自動車業界やウェルネス、メンタルヘルスなどへの応用も見据えています。本記事では代表のヤン・フラチ氏に、事業の核、強み、組織づくり、そして目指す未来について伺いました。
スマートバンドが感情を映す
――現在の事業内容や特徴について教えてください。
当社の主なビジネスはライセンシングでして、ハードウェアとソフトウェアの2つがあります。
ハードウェアでは、特定のセンサーを内蔵したスマートバンドの開発です。スマートバンドに内蔵されたセンサーで、呼吸や鼓動、発汗といった人の生体シグナルを取得し、それらをもとに感情を分析して、視覚的にビジュアル化をしています。自社としてスマートバンドを保有していますが、それを大手企業などにライセンシングし、先方で製品開発を進めていただく形を想定しています。
ソフトウェアは、当社が独自に開発したAIアルゴリズムによって、感情データをリアルタイムで入手し、分析し、アウトプットする技術です。独自のデータセットに基づいた感情分析ができる点が強みで、発生するシグナルをリアルタイムで出力し、機械と人間のインタラクションをより高めていきます。ターゲットとする業界は、ゲームを含むエンタメ業界、自動車業界、ウェルネス業界を想定しています。
これまで視覚的に見れる技術がありませんでしたので、ビジネスとしても多くの用途があると思っています。
――業界内での強みはどのような点にありますか。
一番の強みは、当社が構築してきたデータセットです。データの正確性や、より速く投影される点は他社と異なると考えています。
また、テクノロジーの保護という観点でも、コアテックに関しては特許を14個以上取得しています。デザインや内部を含めて複数の特許を押さえることで、技術を守りながら事業を進められる体制を整えています。
――実際の活用イメージはどのようなものでしょうか?
スマートバンドを腕につけて生体シグナルを取得し、それをクラウドで分析してアウトプットします。たとえば、緊張していたら「緊張」、リラックスしていたら「リラックス」といった形で、リアルタイムに感情が出ます。感情は8つの感情としてリアルタイムに表示されます。
さらに画面上のシステムに入ると、「この行動をしたときにこの感情だった」「この瞬間にアップダウンがどう変化した」といった細かいところも見られます。ゲームにおいては、ユーザーの感情によってゲームが違う反応を返すような設計も可能です。ホラーゲームでドキドキしていたらより襲ってくる、逆に落ち着いてリラックスしないとクリアできない、など“感情がゲーム体験を動かす”形にできます。
開発会社側にとっても、ユーザーの気持ちが可視化されることで「どこを修正すべきか」が分かるようになります。もともとゲームにフォーカスしてきましたが、現在はビジネス領域にも注力しており、これまでリアルタイムで感情を把握して分析できる仕組みがなかった領域に対して、センサーを導入することで新しい価値が生まれると考えています。たとえば自動車では、ドライバーの状態が分かることで、緊張していたらリラックスできる音楽をかけるなど、より快適な体験の提供につながります。
ゲーム体験が導いた経営
――経営者になられた経緯を教えてください。
個人的な原点は、子どもの頃からゲームが好きだったことです。ビデオゲームを通じて、機械と人間のインタラクションを改良していくことに強い関心がありました。特にゲーム領域のヒューマン・コンピュータ・インタラクション(人間とコンピュータがどのように相互作用するかを研究する学問分野)に興味を持ち、研究を進め、博士号(PhD)を取得しました。アフェクティブ・コンピューティング(感情計算論)の領域で学びを深めてきたことも、現在の事業につながっています。
――実現したい夢や目標を教えてください。
今後の目標としては、当社の技術がマスマーケットのデバイス、たとえばPlayStationやWiiのような素晴らしいコンソールに“標準”として組み込まれていくことを目指しています。日本のゲーム業界がコンソールでイノベーションを起こしてきたように、当社もエンタメ業界に限らず、世界規模で新しいイノベーションを起こしていきたいと考えています。
私はファミコン世代ではありますが、それ以前のゲームがなかった世代と比べても反射神経や反応速度は高いと思います。また手元を見ないで操作できるというこれまでにないスキルが身につく体験でした。感情を可視化し、自分がどう感じているかを認知して、それをコントロールする力を身につけることには大きな価値があると思っています。今後、AIが社会により深く入り込んでいく中で、感情の可視化を通じて自分の状態を理解し、より良い方向へ整えていくことは、ポジティブな影響をもたらすはずです。
かつてのゲームが反射神経を鍛えたように、OVOMINDのテクノロジーは感情知能(emotional intelligence)を鍛え、AI主導の世界においてユーザーが自己調整できる力を与えてくれると信じています。
国境を越える一体感
――世界各国にメンバーがいると伺いました。組織運営やコミュニケーションで工夫していることはありますか。
今、当社のチームは、一丸となって働くことができている、その喜びに満ちています。
チームはアドバイザーを含めて全体で20人ほどで、ヨーロッパ、米国、日本にメンバーがいます。本社はスイスのジュネーブにあり、東京にアンテナオフィスがあります。また、米国でも新しい体制を作っているところで、米国には現在1人メンバーがいます。ターゲットとしているマーケットは日本とアメリカが中心で、そこを最優先で注力しています。日本にはワールドクラスの大手ゲーム関係者の方がアドバイザーとして入ってくださっている点も大きいです。
コミュニケーション面では、ディスカッションをオープンに保つことを大事にしています。メンバーが何を必要としているか、どんな意見を持っているかをオープンに聞き、良いアドバイスがあれば導入する。そうした姿勢が、意見を交換し合える環境につながっていると思います。優秀なメンバーが世界中にいるからこそ、社会やテクノロジーに対するグローバルな視点が集まり、その価値を共有できるような環境づくりを意識しています。
モチベーションについては、ビジョンの共有が中心です。全員が当社のビジョンに共感し同意していて、社会に良い影響を与えられる、一緒に夢を追っていけるメンバーであるので、そのモチベーションを絶やさぬよう、ビジョンを共有し続けています。
OVOMINDの20名以上からなるチームは、ヨーロッパ、アメリカ、日本にまたがり、スイスの精密さ、日本の革新性、そしてアメリカの行動力を融合させています。
次世代体験を社会へ
――今後の展望や挑戦したいことを教えてください。
当社の価値である「機械と人間のインタラクションをより良くする」技術が、各業界にどのようなインパクトを与え、どう改善につながるのかをより深く理解し、導入を広げていくことが課題でありチャレンジです。
ゲームについてはすでにデモゲームがあり、新しい世代のゲームを作っていける手応えがあります。一方で、この技術は自動車、メンタルヘルスのアプリケーション、介護など、さまざまな領域で既存の仕組みをより良くする可能性があります。だからこそ「どう良くできるのか」を業界ごとに理解していく必要があります。
そのために、Proof of Concept(POC/概念実証)やProof of Value(POV/価値実証)に積極的に取り組み、さまざまな業界の方とコミュニケーションしながらライセンシングにつなげていきます。新しいクライアントと協議を重ねることで、想定していなかった新しいアイデアが生まれることもあり、それらを一つずつ実現していきたいと考えています。
OVOMINDは2026年に向けてPOCを本格的に拡大しており、感情コンピューティングの未来を共に創るパートナーを募集しています。
ライセンス提供の機会についてのご相談や、「感情の革命」に参加されたい方は、ぜひ contact@ovomind.com までご連絡ください。
――仕事以外でのリフレッシュ方法を教えてください。
自然に触れることが好きです。私はスイスに住んでおり、3大名峰のモンブランが近くにあります。森の中を散歩したり、ハイキングをしたり、自然の中で過ごしたりするのがリラックスにつながっています。
とはいえ、今でもゲームは好きで、PlayStation 5をプレイしています。