「無心」で続けられるビジネスこそが最強。元・熱血社長が辿り着いた、感情を排した合理的な組織運営の極意
株式会社日本補助金士協会 代表取締役 黒江 遼氏
補助金支援と聞くと、単発の申請代行を思い浮かべる人も多いかもしれません。株式会社日本補助金士協会は、補助金を「一時的な資金調達」ではなく、「事業を継続的に成長させるための仕組み」として捉え、顧問型のサポートを提供しています。代表の黒江遼氏は、感情に左右されない経営、長期的に続くビジネスモデル、そして働く人の生活設計まで見据えた組織づくりを大切にしてきました。補助金ビジネスの本質と、その裏側にある経営思想について話を伺いました。
目次
「補助金事業をやりたい人」を支援する。独自のポジショニングが生む唯一無二の価値
――現在の事業内容や特徴について教えてください。
私たちのメイン事業は、一言で言えば「補助金事業をやりたい企業様のバックオフィスサポート」です。世の中には補助金の申請を単発で請け負う業者は無数に存在しますが、私たちはそこを主戦場にしていません。私たちのターゲットは、自社のお客さまに対して補助金活用を提案したいけれど、社内に申請や管理のノウハウがない事業者さまです。
つまり、「補助金を使いたい人」を探すのではなく、「補助金事業を自社のビジネスに組み込みたい人」を探すという、ターゲティングの差別化を行っています。提携先企業のパートナーとして、申請実務から管理までを私たちがバックオフィスとして一手に引き受ける。これにより、提携先企業さまは本業の営業活動に集中でき、かつ補助金という強力な武器を使って成約率を高めることができます。
このモデルを始めて約8年になりますが、正直なところ、この形態でバッティングする競合にはまだ出会ったことがありません。補助金を通じて、提携先企業様の事業拡大を長期的にサポートしていくことが、私たちの役割です。
――業界内での強みはどのような点にありますか。
強みは、「差別化の工夫」と「事業拡大へのコミット」です。単なる書類作成の代行屋であれば、価格競争に巻き込まれますし、いずれは淘汰されます。私たちは、補助金導入後の事業拡大までを設計図として描きます。
例えば、ある代理店さんは昨年、経営難で「来月にも潰れそうだ」という状態で相談に来られました。そこで私たちの顧問サービスを導入し、補助金事業にリソースを集中させた結果、現在は2名体制でありながら月商300万〜400万円を安定して稼ぎ出す会社に再生しました。これはスポットの売上ではなく、ストックとして積み上がる収益です。このように、クライアントの通帳に残る現金を具体的に増やし、経営を安定させる仕組みを提供できること。それが、私たちが選ばれる理由だと自負しています。
21歳で背負った数億円の借金。そして「すべてを失った」挫折から得た経営の悟り
――経営者になられた経緯を教えてください。
実は、独立のきっかけは非常に純粋というか、切実なものでした。21歳の時に投資詐欺のようなものに引っかかってしまい、400万〜500万円ほどの借金を背負ってしまったんです。当時は会社員として働きながら夜はバイトをして返済に充てていましたが、それだけでは到底追いつかない。「一発、事業をやって返していくしかない」と思い、独立を決意しました。
最初は営業代行からスタートしました。とにかくお金を稼ぎたいという一心で、売れる商材をかき集めていた。その中にあった一つが「補助金」だったんです。補助金という商材の可能性を感じ、徐々に今の形へとシフトしていきました。
――そこから順調に売上を伸ばされたとのことですが、一度「会社を潰した経験」もあると伺いました。その時、何が起きたのでしょうか。
25、26歳の頃ですね。当時経営していた会社は、売上が2億〜3億円ほどありました。いわゆる「羽振りのいい社長」を演じていた時期です。従業員を集め、「俺についてこい!」と感情任せに引っ張る、Zoff(情熱的)な組織を作っていました。
しかし、結果として何も残りませんでした。会社を畳むことになった時、手元には資産が一切なかったんです。あんなに必死に積み上げた数億円の売上は何だったのか。見栄や感情で経営をすることの虚しさを、身をもって知りました。この時の「何も残らなかった」という記憶が、私の今の経営哲学の原点になっています。
感情で物事を動かすと、調子がいい時はいいですが、下がった時のダメージが大きすぎる。人はモチベーションで成果が変わる生き物ですが、経営者としてそこに依存するのはリスクでしかないと気づいたんです。「安定した精神状態でも、どん底の精神状態でも、ある程度同じ成果が出せる仕組み」を作らなければならないと考えています。
40代の部下を率いる29歳の代表。「介入しない」ことが生む大人の信頼関係
――現在の組織運営についてお伺いします。4名体制で、全員がリモートワークとのことですが、社内のコミュニケーションや雰囲気はいかがでしょうか。
私たちの会社の特徴を一言で言えば「お互いに過度な介入をしない」ということです。現在、私を含めて4名ですが、私以外のメンバーは全員40代以上です。29歳の私が一番若い。彼らはこれまでの長いキャリアの中で、様々な経験を積んで私の会社に来てくれています。
だからこそ、手取り足取り教えるようなことはしません。「大人として自立して仕事をする」ということを前提にしています。ノルマを課したり、根性論で鼓舞したりすることもしません。行うのは、常に「定量的」かつ「定性的」な事実確認だけです。淡々と、堅実に行動する。そんな社風ですね。
――年上の部下をマネジメントする上で、意識されていることはありますか。
「成果を出した分は、実質賃金として最大限還元する」ということです。これは単に給料を上げるという話ではありません。今の日本では、固定給を上げても社会保険料や税金で手取りが大きく目減りしてしまいます。
そこで私たちは、会社が家賃を全額負担する「借り上げ社宅制度」を導入したり、機材や交通費を完全に会社負担にしたりすることで、実質的な可処分所得を最大化する工夫をしています。在宅ワークで縛りを作らず、安心して、かつ気長に働き続けられる環境を作ること。それが、大人同士の信頼関係を築く上での私の責任だと思っています。
――「モチベーション」という言葉を使わない、というのも徹底されていますね。
従業員のモチベーションが急に上がったり下がったりするのは、経営者からすれば「怖い」ことなんです。それによって売上が左右されるようでは、強固な組織とは言えません。モチベーションが低くても高い成果が出せるように、業務を可視化し、手順を固定する。私自身もそうです。感情を捨てて、仕組みを回すことに集中する。それが結果として、社員の生活を守り、家族の計画(家計)を支えることに繋がると考えています。
AIに立ち向かいながらAIを使う。国が求める「自力」とテクノロジーの狭間を埋める
――今後の展望や挑戦したいことを教えてください。
まず、短期的な目標は「当初立てた事業計画を1ミリも狂わせずに遂行すること」です。突拍子もない挑戦をするよりも、決められたルートを通って決められた成果を出し続ける。そうすることで、従業員も「いつボーナスが出るか」「いつ昇給するか」を正確に予測でき、人生の設計が立てやすくなります。会社としての安定が、そのまま社員の家庭の安定に直結する。この「計画通りの遂行」こそが、私にとっての挑戦です。
――中長期的な視点では、業界の未来をどう捉えていますか。
補助金という仕組み自体は、この先もなくなることはないでしょう。中小企業が日本の経済を支えている以上、国からの投資(補助金)がストップすることは物理的に考えにくい。ただ、そのアプローチ方法は変わっていくはずです。
今、注目しているのはAIとの向き合い方です。国は「AIを使って事業を発展させてください」と言う一方で、補助金の計画書作成については「AIを使わずに自力で書きなさい」というスタンスを取っています。AIチェッカーを導入して、安易な作成を防ごうとしている。しかし、膨大な事務作業を人力だけでこなすのは効率が悪すぎます。私たちは「AIに立ち向かいながらAIを使う」という、その絶妙な中間地点を攻めています。国の意図を汲み取りつつ、最新のテクノロジーを駆使して、より質の高い計画書を効率的に作成する。この矛盾を埋める技術を磨き続けることが、今後の生き残り戦略になります。
――課題として感じているポイントはありますか。
常に「集客」ですね。見込み顧客との商談数をいかに安定して確保し続けるか。ここは永遠の課題です。現在は様々な施策を打っていますが、より実績に繋がる、成果に直結するような外部リソースへの投資も検討しています。
私たちのビジネスは、お客さまの売上を伸ばすことが存在意義です。だからこそ、まず自分たちが集客の仕組みを完璧に構築し、その背中を見せ続ける必要がある。3年後、5年後を見据えるというよりは、毎年の計画を確実に、一つずつクリアしていくことの積み重ねが、結果として大きな未来を作ると信じています。
資産運用は「将来の自由」のための戦略。自分と社員の豊かさを追求する
――仕事以外でのリフレッシュ方法を教えてください。
情熱を傾けているのは「資産運用」ですね。これは趣味というより、経営戦略の一部でもあります。私は現在、個人の手元に残すお金を最小限にしています。売上の半分を資産運用に投げている。これは、自分自身の将来的な資産形成はもちろん、ゆくゆくは従業員の資産も作っていけるような土台を築くためです。
――なぜ、そこまで資産形成にこだわるのでしょうか。
かつて会社を潰した際、数億円を売り上げながら何も残らなかったという原体験があるからです。「見栄」のために使うお金がいかに無意味かを知りました。
私は今、40代になった時に計画的にお金が入ってくる仕組みを作っています。それは「リタイアしたい」からではなく、「豊かな生活の土台があった上で、自由に活動したい」からです。経済的な不安がない状態で、無心でビジネスに取り組める環境を自分に与えたい。今のうちに最大限の投資をしておくことが、将来の自分と社員に対する、経営者としての最大の責任だと考えています。
挑戦する経営者へ伝えたいこと
――これから経営に挑む方へメッセージをお願いします。
これから起業や独立を考えている方、あるいは今経営に悩んでいる方に伝えたいのは、「無心でできる仕事を探してください」ということです。
「やるぞ!」「稼ぐぞ!」という気合や根性は、正直どうでもいい。それよりも、淡々と作業ができ、計画的に続けられる領域を見つけることが、長期的な成功の鍵です。一喜一憂せず、今月儲かったか、儲からなかったかの理由を常に可視化する。理由がわかれば、メンタルがぶれることはありません。