「生きた計画」で企業を前に進める――採択率だけでは終わらない伴走型コンサルティングの現場
合同会社SDGs経営サポート 代表社員 鈴木 崇史 氏
銀行員から経営コンサルティングの道へ、さらに独立へ。鈴木崇史氏が一貫して見つめてきたのは、「目の前の企業が本当に前に進むかどうか」という一点でした。補助金の計画書作成や経営改善計画の支援など、数字で示せる成果を出しながらも、重視するのは採択される書類ではなく、「実行される計画」です。社長や現場の人たちが腹落ちし、動ける形に落とし込む。そうした伴走の姿勢は、これまでのキャリアで感じた限界や違和感、そして社会に対する問題意識から形づくられてきました。本記事では、現在の事業の柱、独立に至る背景、組織運営の考え方、今後の挑戦までを伺います。
目次
現在の事業をどう位置づけるか――「経営全般」に向き合う会社の取り組み
——いまの事業内容と、売上の柱を教えてください。
現在の中心は、いわゆる経営全般の支援です。SDGs関連のコンサルティングを主体に提供したいと思っていたのですが、実際にはSDGs主体の仕事は多くなく、経営計画づくりや経営改善を軸に取り組んでいます。
現在、売上の柱は大きく三つあります。
一つ目は、補助金申請に必要な計画書を一緒に作る支援です。補助金には、計画の出来によって採択・不採択が決まるものが一定数あります。結果が比較的早く出る分、「何社支援して何社採択されたか」を実績として示しやすい領域です。
二つ目は、経営改善計画策定支援事業です。これは経営が厳しくなった企業が、金融機関に返済条件の見直しなどを相談する際に必要となる計画づくりを支援するものです。金融機関側から相談・紹介を受けることもあり、計画作成だけでなく、金融機関との調整やその後の改善まで関わります。
三つ目は、保証協会や商工会議所などでの専門家派遣です。公的負担の枠組みで、企業側は無料または低額で助言を受けられるケースが多く、3回~5回程度のスポット支援を担当しています。
加えて、商工会議所などでのセミナーや執筆も行っています。これは収益目的というより、経験の蓄積やブランディングの意味合いが大きいです。
——御社ならではの強みはどこにあると考えていますか。
補助金支援では、入り口として「採択率」がわかりやすい指標になります。最近数えた数字でいうと、国の大型補助金の採択率は約91%です。もちろん、本質は採択の可否だけではなく、企業にとって意味のある計画を作れるかどうかです。
強みとして特に意識しているのは、コミュニケーションを通じて「実行される計画」にすることです。計画書は、どれだけ立派でも、実際に動かなければ意味がありません。社長の性格、社員の雰囲気、会社の社風によって、合う計画の形は変わります。分厚い計画書が有効な企業もあれば、端的で動きやすい計画のほうが機能する企業もあります。
また、金融機関出身という背景もあり、金融機関との会話や調整がしやすい点は実務上の強みです。机上の正しさだけでなく、現場で回る設計を重視しています。
鈴木さんのキャリアと価値観――「日本のためになるか」を判断軸に
——これまでのキャリアの中で、独立に至ったきっかけは何でしたか。
社会に出るときから、日本や社会をよくしたいという思いはありました。最初に選んだのは銀行です。融資先企業の経営をよくする仕事に関わりたいと考えたからです。
ただ、銀行というビジネスモデルの中では、どうしても「お金を貸すこと」が中心になります。もちろん融資は重要ですが、中小企業の課題はそれだけではありません。戦略、人材定着、組織運営など、必要な支援は多岐にわたります。そこに十分関わり切れない限界を感じ、コンサルティング会社へ転職しました。
しかし、そこでまた別の限界も感じました。民間企業である以上、得意領域に寄せて受注する構造が強くなりがちです。マーケティングに強い会社ならマーケティングに、組織に強い会社なら組織に、という形です。
自分が目指したかったのは、こちらの得意分野に引き込むことではなく、顧客に本当に必要な課題に向き合うことでした。自分が得意でない領域なら、より適切な人を紹介する。それができる形を実現するために独立しました。
——経営判断の軸として、何を最も大切にしていますか。
一言で言うと、「日本のためになるか」です。補助金の支援でいえば、目の前のお客様が喜ぶかどうかは当然大事です。ただ、補助金は国の政策意図があって設計されているものです。だから、政策の方向性に沿っているか、その企業が社会にどういう影響を与えるかを見ます。
目先の利得だけを追って、社会的に望ましくないことには関わりません。お客様のためになることと、社会にとってよいことを切り離さないのが基本姿勢です。
「中小企業を助ける」という言い方よりも、社会全体をよくするために企業が元気であることが必要だという感覚に近いです。中小企業がしっかり稼ぎ、雇用を守り、次の世代につながる経済を回していく。その土台づくりに関わりたいと考えています。
——キャリアの転機として特に印象的だった出来事はありますか。
銀行時代、腰のヘルニアで約2週間入院した経験です。人生で初めての入院で、病棟では高齢の方々と医療スタッフのやり取りを間近で見ました。そこで、いつか自分も年を取り、人生には限りがあることを強く意識しました。
そのとき、「このままでいいのか」「残りの時間をどう使うのか」を考えるようになりました。結果として、悔いのない行動を選ぶ方向へ舵を切る契機になりました。独立そのものを直接決めた一因ではないとしても、人生観に大きな影響を与えた出来事だったと思います。
組織運営と人との向き合い方――「答えを与える」より「考える癖をつくる」
——メンバーが自分で動けるように、どんな工夫をしていますか。
基本的に「こうしてください」とは言いません。むしろ「どうしたいですか」と聞くようにしています。「どうすればいいですか」と聞かれたときも、すぐ答えを渡すのではなく、「○○したいんですけど、いいですか」という聞き方に変えてもらうことを意識しています。
理由は単純で、私一人の頭で出せる案には限界があるからです。それぞれが考えたほうが、結果として組織にとってよい選択肢が増えます。もちろん、慣れないうちは大変ですが、考える癖がつくこと自体が組織の力になります。
——コミュニケーションで特に気をつけていることは何ですか。
まず、自分はコミュニケーションが得意ではない、という前提を置いています。過去には、コミュニケーション不足や行き違いで、部下が辞めてしまったことや、同僚とうまくいかなかった経験もありました。
「自分はできる」と思った瞬間に雑になるので、声かけが足りているか、相手にとって心地よい伝え方になっているかを常に確認します。また、質問を受けたときの反応も重視しています。聞かれたら「確認してくれてありがとう」と受け止める。ここで突き放すと、次から相談されなくなるからです。
遠慮せずに話してもらえる関係をつくるには、一度伝えるだけでは不十分です。「気になることは言ってください」を繰り返し伝え、関係として定着させることを意識しています。
——一緒に仕事をしたいと感じる人物像はありますか。
まず、正直であることです。裏表があると、仕事の前提そのものが揺らぎます。
次に、仕事を楽しもうとする姿勢です。条件面だけでなく、取り組みそのものを楽しみながら向き合えるかどうかは、パフォーマンスにも関わります。
そして、必要なことを遠慮しすぎずに言えることです。遠慮が強すぎると、課題の共有が遅れ、結果として双方に負担がかかります。率直に伝え合える関係が、よい仕事につながると考えています。
未来への視点――伴走支援の本流で、さらに価値を高める
——今後、どのような挑戦をしていきたいですか。
第一に、現在のコンサルティング事業を着実に伸ばしていきたいです。同時に、ご縁があれば、コンサルティング以外の実業にも挑戦したいと考えています。
たとえば店舗運営やサイト運営のような、自社で事業を持つ形です。これまでの知見を別の事業形態で検証できる可能性があるため、機会があれば取り組みたいという意向です。
また、書籍の出版にも挑戦したいと考えています。現場で積み重ねた実践知を言語化し、より広く届けることに意味を感じています。
——業界の流れをどう見ていますか。
中小企業支援の現場では、これまで「計画書を作ること」自体が重視される局面が多くありました。もちろん書類は必要ですが、それだけでは企業は変わりません。
現在は「伴走支援」という考え方が強くなってきています。月1回、月2回でも継続的に対話し、実行を後押しする。計画書の品質だけでなく、実行体制や意思決定の納得度まで見ていく流れです。
この方向性は良い変化だと捉えています。だからこそ、その分野で確かな価値を出せる存在を目指していきたいです。作って終わりではなく、実行まで責任を持つ支援をさらに深めていく考えです。
——目下の課題は何ですか。
最も大きい課題は、受注の安定化です。コンサルティング会社は数が多く、業歴が短い立場では差別化が難しい場面もあります。
取り組みとしては、目の前の案件に真摯に向き合い、リピートや紹介につなげることを継続しています。そのうえで、自分の強みをわかりやすく、短時間で伝える力を高め、新規受注につなげることに挑戦しています。地道ですが、ここを磨くことが今後の基盤になると考えています。
個人的な側面――歴史への関心と、意識的に仕事を切る工夫
——尊敬する人物と、影響を受けた点を教えてください。
尊敬する人物は多くいますが、これまでにも名前を挙げてきた一人が山本五十六です。
背景として、組織の中で自分の考えと大方針が完全に一致しない場面でも、決まった以上は最善を尽くす、という姿勢に学ぶところがあります。
独立後も、顧客や金融機関、制度設計側など複数の関係者がいる中で仕事を進めるため、100%自由にできるわけではありません。そうした条件下でどう最善を尽くすか、という観点に通じるものを感じています。
また、人材育成の文脈で知られる言葉にも、実務上の示唆を感じています。人を動かすには、指示だけでなく、理解と実践と承認の積み重ねが必要だという点は、現在のマネジメントにも重なる考え方です。
——日々のリフレッシュはどうしていますか。
仕事柄、パソコンが1台あればどこでも働けるため、つい仕事を続けてしまうのが正直なところです。だからこそ、意識的にオフを作るようにしています。
具体的には、パソコンを持たずに出かけることです。温泉に行くこともありますし、歴史が好きなので城を見に行くこともあります。
完全に切り替えるのは簡単ではありませんが、仕事から離れる時間を意識して確保することが、結果として継続的に働くために必要だと感じています。仕事に向き合う強さと、あえて距離を取る工夫の両方を持ちながら、次の挑戦に向かっていきます。