地元で完結する経営という選択――“やめない組織”をつくる株式会社ランチェスターの在り方
株式会社ランチェスター 代表取締役 市田 氏
軽貨物運送業を軸に、ハウスクリーニング、内装業、車関連事業、さらにはリラクゼーションサロンまで幅広く展開する株式会社ランチェスター。事業は多角化しているものの、その根底にあるのは「地元で完結させる」という一貫した姿勢です。本記事では代表取締役・市田氏に、現在の事業内容や経営方針、組織づくり、そして今後の展望について伺いました。
地元に根差し、持続する事業をつくる
――現在の事業内容について教えてください。
うちは軽貨物運送業を中心に、ハウスクリーニング、内装業、車販売など車関係の事業、それからリラクゼーションサロンもやっています。スタートは軽貨物です。自分がドライバーをやっていて、「自分にできたなら誰でもできる」と思ったのがきっかけですね。特別な資格がなくても、覚えればできる。やった分だけ結果が出る。その分かりやすさが、この事業の魅力だと思いました。
今、一番売上の割合が大きいのも軽貨物です。全体の7〜8割くらいはそこになります。ドライバーだけで40人以上、全体では50人以上はいると思います。ありがたいことに、長く続けてくれている人も多いです。軽貨物を軸にしながら、ハウスクリーニングや内装、車関係と、仕事の幅を広げてきましたが、どれも「人がいてこそ成り立つ仕事」だと思っています。
――エリアはどのあたりですか。
広げすぎないようにしています。草加市とその周辺、隣の市や足立区あたりまで。それ以上は広げません。広げすぎると見きれなくなるので。変に拡大して質が落ちるより、見られる範囲で確実にやる方がいい。仕事を増やすことよりも、きちんと回る状態を保つことのほうが大事だと考えています。
うちの強みは「やめない」ことです。軽貨物業界は入れ替わりが激しいのが普通なんですが、うちは10年続けているドライバーもいます。休みの希望もなるべく聞くし、居心地を良くする。給料も他よりいいと思っています。無理に縛らないし、できるだけ働きやすい環境を整える。そうするとやめないんですよ。
地元の人を雇って、地元で働いて、家から近い場所で仕事をする。通勤が短いだけでも負担は減りますし、家族との時間も確保できる。それが結果的に長く続く理由になる。派手さはないかもしれませんが、持続する形をつくることが一番大切だと思っています。
急激に大きくするよりも、目の届く範囲で確実に積み上げていく。その積み重ねが、今の会社の形をつくっていると感じています。
無理に広げない。満足しているという経営観
――経営者としての目標や夢はありますか。
大きな夢っていうのは特にないですね。もう満足はしています。やりきったというより、今の形に納得しているという感覚です。無理に背伸びをしていないし、今いる人たちとちゃんと回っている。それで十分だと思っています。
無理やり仕事を取りに行くつもりもないし、ガンガン拡大するつもりもない。同じ業界で、どんどん仕事を取って人を増やして、結局どこかで崩れてしまう会社も見てきました。仕事だけ増えても人が足りない、人だけ増えても仕事がない。バランスが崩れると信用も落ちる。信用が落ちたら、立て直すのは本当に大変です。
うちは、仕事と人をバランスよく、少しずつ増やしていく。急がない。ずつでいいんです。目の届く範囲で、確実に積み重ねる。その方が結果的に長く続くと思っています。
――地元への思いも強いですね。
地元で全部まとめたいという思いはあります。通勤時間が短い方がいいじゃないですか。朝も早く出なくていいし、家に早く帰れる。それだけで働く人の負担はかなり違う。家族との時間も取れるし、無理が減る。それが働く人の満足度につながると思っています。
うちは全部「やればやった分稼げる仕事」です。学歴がなくても関係ない。小学校しか出ていなくても50万、60万稼いでいる人もいます。読み書きが得意じゃなくても、動けば結果が出る。逆に、頭がいいだけでは続かないこともある。
学歴じゃなくて、やるかどうか。どれだけ本気で取り組むか。そこを一番大事にしています。
結局、会社というのは人で成り立っています。人が続かなければ、どんなに立派な理念があっても意味がない。だからこそ、地元で、無理なく、長く働ける環境を整える。それが自分なりの経営の形であり、今後も変わらない軸だと思っています。
言いやすい関係が、やめない組織をつくる
――社員との関係で大事にしていることは何ですか。
言いやすい雰囲気をつくることですね。文句でも愚痴でも言ってもらった方がいい。いきなり「今月でやめます」と言われるより、前から不満を言ってくれた方が分かるじゃないですか。この人は何に引っかかっているのか、どこに負担を感じているのか。それが分かれば、直せるところは直せる。何も言わずに突然いなくなるのが一番困ります。
僕は偉そうにはしません。配達が間に合わなければ「手伝ってください」と電話が来るし、ATMって呼ばれたりもします(笑)。上下関係というより、横並びに近い感覚です。役職があるから偉い、という空気はつくらないようにしています。距離が遠いと、本音は出てこないですから。
年に2回くらいは集まりもありますが、行きたい人だけ。僕からはあまり誘いません。「誰々だけ誘ってる」となると面倒ですし、変に気を遣わせたくもない。自然体でいられる距離感を大事にしています。
――採用で重視することはありますか。
やってみないと分かりませんが、やる気がある人がいいですね。それだけです。頭がいいとか、経験があるとかよりも、動く人。まずはやってみようとする人。結局そこが一番大事だと思っています。
正直に言えば、社員育成は僕の苦手なところです。社員になると固定給になるから、業務委託とは違う難しさがある。自分の代わりがなかなか育たない。だからこそ、どう任せるかはずっと課題でした。
今月から、自分の代わりになる人を立てました。10年この業界にいる人で、信頼もある。給料を大きく上げて、「その代わり全部やってくれ」と任せました。責任を持ってもらうためには、それに見合う対価も必要です。
お金を払う以上、責任も持ってもらう。甘くはないけれど、信じて任せる。今はまだ始まったばかりですが、少しずつ任せる範囲を広げながら、組織として回る形をつくっていきたいと思っています。
最終的には、僕がいなくても現場が回る状態にしたい。そのためにも、任せて、見守って、必要なときだけ支える。そうやって本当の意味で強い組織をつくっていきたいと考えています。
バランスを崩さず、地元で積み上げる未来
――今後の展望について教えてください。
地元の中でできることを増やしていく可能性はあります。不動産の資格も取っていますし、ドライバーの中にエアコン工事ができる人がいるので、それを事業にするかもしれない。内装業もやっていますから、不動産を持てば管理もできる。入居前後のクリーニング、修繕、配送、設備対応まで一通りつながる。そうやって一つひとつの事業が線でつながっていく形が理想ですね。
――事業拡大についてはどう考えていますか。
ただ、無理には広げません。仕事と人のバランスを見ながらやります。全部伸ばそうと思えば伸びます。でも、取れない仕事を受けて信用を落とすのは一番ダメです。仕事だけ増えて人が足りない、人だけ増えて仕事がない、そのどちらも危険です。バランスが崩れると現場にしわ寄せがいきますし、結果的に辞める人も出てくる。それでは意味がありません。
採用はIndeedや紹介が中心です。紹介が多いのは、うちで働いている人が「ここならいい」と思ってくれているからだと思っています。やめないことが次につながる。満足している人がいるから、その人がまた人を呼んでくれる。そうやって自然に広がっていく形が理想です。
――これから目指す組織像はありますか。
経営で譲れないのは、働く人の満足度を上げることです。他社より「うちの方がいい」と思ってくれればいい。給料ももちろんですが、家から近い、通勤が短い、無理なく働ける。それだけでも十分価値があります。
規模よりも持続。派手さよりも安定。地元の中で信頼を積み重ねながら、できることを一つずつ増やしていく。それがうちの未来のつくり方だと思っています。
急激な成長よりも、確実な積み上げ。無理に外へ出るのではなく、足元を固める。そうやって地元で必要とされ続ける会社であることが、結果的に一番強い形だと考えています。
休まない経営者と、育てる覚悟
――休日やリフレッシュについて教えてください。
正直に言うと、休みはほとんどありません。携帯を離すのが不安なんです。いつ事故の電話が来るか分からないし、「車が壊れました」とか「トラブルが起きました」とか、何があるか分からない。だから基本的に携帯は常に身につけています。
マッサージに1時間行くだけでも、その間に何か起きていないかと落ち着かないんですよ。ブーブーと着信音が鳴っているんじゃないかと思ってしまう。旅行も行きたい気持ちはありますが、なるべく車で帰れる距離にします。新幹線や飛行機は、すぐ戻れないから不安になる。
経営者って、そういうものだと思っています。現場で働いている人がいる以上、自分が最後の砦でいなければならない。何かあったときにすぐ対応できる状態でいることが、自分の役割です。
――それでも続けてこられた理由は何ですか。
やっぱり責任ですね。みんなが動いてくれているから会社は回る。その裏側で何かあったときに動くのが自分の仕事だと思っています。
だからこそ、今は「代わり」を育てています。自分がいなくても回る体制をつくる。前から社員に任せようとしたこともありましたが、うまくいかなかった。今はこの業界で10年やっている人に任せています。信頼もあるし、覚悟もある。給料も大きく上げて、「その代わり全部やってくれ」と伝えました。
お金を払う以上、責任も持ってもらう。任せるなら本気で任せる。まだ始まったばかりですが、少しずつ自分の仕事を渡しています。
最終的には、自分がいなくても自然に回る会社にしたい。大きな夢があるわけではありませんが、地元で続いていく会社であること。それが今の自分の一番の目標なのかもしれません。