AI PCのハード進化をユーザー価値へ──K-kaleidoが挑むアプリ起点の市場創造
株式会社K-kaleido 代表取締役 安生健一朗氏(工学博士)
株式会社K-kaleidoは、AI PC向けアプリストア「AI Edge Hub」を軸に、新たな市場づくりに挑んでいます。本記事では代表の安生健一朗氏に、長年パソコン業界に身を置く中で感じてきた業界の課題や会社立ち上げの背景、事業の特徴、経営において大切にしている考え方、そして今後の展望について伺いました。
AI PC市場創造への挑戦
――現在の事業内容や特徴について教えてください。
当社では「AI Edge Hub」というAI PC向けアプリストアを立ち上げています。AI PCという新しいPCカテゴリが登場しても、それだけでユーザー価値が自動的に生まれるわけではありません。本来は、ハードとソフトが一体になって初めて価値になります。
ところが現状は、その価値を引き出すソフトウェアや、それを市場に届ける仕組みが十分に整っているとは言えません。そこで当社は、そのギャップに着目し、AI PC向けアプリを企画し、製品として形にし、販売までつなげることに取り組んでいます。
ただ、アプリストアを作れば自然にアプリが集まるわけでもありません。今の日本では、PC向けアプリを企画・開発し、製品として成立させられる人材や機会そのものが減ってきていると感じています。
そのため当社では、アプリを集めるだけでなく、作り手を増やすところから取り組んでいます。市場を待つのではなく、市場が成り立つ条件そのものを整えていくことが、今の事業の大きな特徴です。
――事業の強みや、他社にはない特徴はありますか。
今はフリーランスのエンジニアと組みながら、エンジニアがアプリの開発や作り込みを担い、当社が知財・契約・ライセンス管理・販促などを補完することで、開発したものを製品に仕立て上げています。単にアプリを作るだけではなく、売れる形、継続できる形に整えるところまで支えているのが特徴です。
代表的なアプリが「スピーチコネクト」です。会議や商談、面談などの音声をクラウドに送らず、PC上でリアルタイムに文字起こし・翻訳できるローカルAIアプリで、セキュリティや運用面も含めて企業で実際に使える形に落とし込むことを重視しています。
また、作り手を増やすために、専門学校で授業を持ち、学生にもアプリづくりを経験してもらい、そのまま製品化につなげる取り組みも進めています。作り手を育て、「PC向けソフトウェアを事業として成立させる」という発想そのものを広げていくことも、当社の特徴です。
共創で生み出す新価値
――経営者になられた経緯を教えてください。
私はもともとNECに在籍し、その後はインテルなどで長くPC業界に関わってきました。大企業にいると、技術や市場の大きな流れを見ることはできますが、「こういうビジネスが必要だ」と感じても、自分の意思ですぐに形にできるとは限りません。
一方で、私はこれまでの仕事を通じて、PCメーカーや販売店をはじめ、多くの方と仕事をしてきました。そうした方々が、AI PCという新しい波を前にしながらも、「何を価値として届ければよいのか」に悩んでいる姿を見てきました。
ハードウェアは進化しているのに、その価値をユーザー体験に変えるソフトウェアや提案の仕組みが追いついていない。そこを埋める役割を自分が担えるのではないかと考えました。独立したかったというより、自分でリスクを取り、先頭に立って新しい市場を立ち上げていく必要があると感じた、というほうが近いですね。
――仕事をする上で大切にしている価値観は何でしょうか。
一つは、まず行動してみることです。仮説や検証は大切ですが、机上で考えているだけでは見えてこないことも多くあります。特に新しい市場では、実際に作ってみて、見せてみて、使ってもらうことで初めて得られる知見があります。そうして得た知見をもとに軌道修正を重ねながら完成形を探る。その進め方が、ものづくりとマーケットインの考え方を融合させるうえで大事だと思っています。
もう一つは、パートナーシップです。自分たちだけで完結できる仕事ではありません。販売店、PCメーカー、ソフトウェアを作る人たちなど、さまざまな立場の人と意見を交わしながら、よりよい形を探っていく必要があります。完成形が最初から見えているわけではないからこそ、多くの人と試行錯誤しながら、本当に良いものを探していく。そのプロセス自体が、イノベーションを形にすることだと思っています。
――会社の理念やビジョンには、どのような思いが込められているのでしょうか。
私は、難しいテーマが来たときに、直感的にすぐ理解できるタイプではありません。だからこそ、自分なりに論理立てて理解し、それをどう言葉にすれば、まだ知らない人にも伝わるのかをずっと考えてきました。
新しいテクノロジーは次々に出てきますが、それによって仕事や生活がどう変わるのか、どう使えば人の活動がより良くなるのかを分かりやすく伝えることに価値があると思っています。
K-kaleidoという社名にも、そうした考えを込めています。kaleido=万華鏡は、向ける方向によって見え方が変わるものです。同じテクノロジーでも、切り口や見せ方によって受け取り方は違ってきます。私たちは、さまざまな角度から技術の意味を示し、「こういう見方があったのか」と感じてもらえる存在でありたいと思っています。
――組織運営で意識していることを教えてください。
現在は従業員を多く抱える形ではなく、外部パートナーやフリーランスのエンジニアと連携しながら事業を進めています。
AI Edge Hubでは、エンジニアが開発したアプリを当社が製品として販売し、売上の一定割合を還元する形をとっています。エンジニア側にとっても、単発の時給報酬ではなく、製品として育ったときに、その成果に応じたリターンを得られる点に魅力があると考えています。受託開発で終わらせず、製品として継続的に育てていける点も、このモデルの大きな特徴です。
グローバル展開への布石
――今後の展望や挑戦したいことを教えてください。
大きく3つあります。
一つ目は、グローバル展開です。まずは日本で販売の仕組みを立ち上げ、それを海外にも広げていきたいと考えています。最初は英語圏を中心に展開し、その後、中国語対応なども進めながら、対応できる地域を広げていくイメージです。国や地域によって使い方やニーズは異なるため、ローカライズに加え、販売や導入を支える現地パートナーとの連携も欠かせません。まずは日本で勝ち筋を作り、そのうえで海外展開につなげていくのが現実的だと考えています。
二つ目は、提供できるアプリを増やしていくことです。AI PCの価値は、ハードだけでなく、それを使って何ができるかで決まります。その意味でも、アプリのラインアップを増やし、ユーザー価値の幅を広げていくことは非常に重要です。そのためには、販売機会を広げるだけでなく、新しい開発者との関係づくりも重要になります。開発者と連携しながら、AI PC向けアプリを着実に増やしていきたいです。
三つ目は、K-kaleidoという会社そのものの価値とブランドをしっかり立ち上げていくことです。これまでの経歴や人脈は自分にとっての土台にはなっていますが、それを個人の実績のままで終わらせるのではなく、K-kaleidoの価値へと昇華していくことが重要だと思っています。今はまだ以前の肩書で見られることもありますが、これからはK-kaleidoという会社そのものが信頼され、選ばれる存在になっていきたいです。
――現在、特に課題として感じていることを教えてください。
一番大きいのは、マーケティングと販売戦略です。AI PC向けアプリは、対応するハードウェアがまだ十分に浸透していない中で売っていかなければならないため、AI PCそのものをどう市場に広げていくかというハードウェア側の販売戦略と歩調を合わせる必要があります。PCメーカーや代理店、販売店とどのように連携し、戦略を整合させるかは非常に重要です。
もう一つは、AI PCの価値をどう説明するかです。AI PCはハードウェアだけで価値が決まるものではありません。ハードとソフトが組み合わさることで、どのようなユーザー体験や業務フローの変化が生まれ、企業にとってどのような導入価値があるのかまで伝えられて、初めて導入につながります。ハードとソフトが一体となって生む価値を提案していくことが必要だと考えています。
好きなことに没頭する時間
――仕事以外でのリフレッシュ方法を教えてください。
週末はロックバンドでベースを演奏しています。最初は趣味として始めたのですが、続けているうちに本格的になり、さまざまなイベントにも出演するようになりました。好きなことに没頭している時間は、その瞬間は仕事から頭が離れますし、自分の中で自然な切り替えにもなっています。
ただ、無理にリフレッシュのためにやっているというよりは、単純に自分が本当に好きなことをやっている感覚です。仕事でも趣味でも、心から向き合えるものがあるのは大切なことだと思います。