限界集落に夢を取り戻す――土佐ジローを軸に、畑山で挑み続ける経営

有限会社はたやま夢楽 代表 小松圭子氏

有限会社はたやま夢楽は、高知県の地鶏・土佐ジローを生産し、食肉加工から販売、さらに宿での提供までを一貫して手がける会社です。舞台となるのは、かつて一つの自治体だった畑山地区。人口減少が進む地域でありながら、この地に根を下ろし、事業を通じて暮らしとにぎわいをつないでいます。今回は代表の小松圭子氏に、事業の成り立ちや経営の軸、限界集落で挑戦を続ける理由、そしてこれからの展望について伺いました。

土佐ジローを育て、届け、味わってもらうまでを担う

――現在の事業内容について教えてください。

有限会社はたやま夢楽は、会長である夫が37年前に立ち上げた事業が始まりです。高知県の地鶏である土佐ジローを飼育する個人事業としてスタートし、その後、平成16年に私たちが住む地域で運営されていた温泉宿を指定管理者として引き受けることになったタイミングで法人化しました。

現在は、土佐ジローを生まれて0日から150日まで肉用として飼育し、自社で食肉加工を行ったうえで全国へお届けしています。また、畑山地区に設けた宿では、炭火焼きやフルコースなどで土佐ジローを味わっていただく事業も展開しています。年間の生産量は1万羽弱で、宿には年間700人から900人ほど、国内外からお客様にお越しいただいています。

――御社ならではの強みはどこにありますか。

土佐ジローそのものの希少性に加えて、肉用として専門にこの品質で出荷できるのが弊社だけである点が大きな強みです。卵用としては高知県内に60軒ほどの生産者がいますが、肉用として独自の品質を確立し、他にはない価値を打ち出せていると思っています。

また、単に商品を販売するだけではなく、実際に畑山へ来て味わっていただく場を持っていることも特徴です。取り寄せだけでは伝わりにくい本来のおいしさを、宿での体験を通じてお伝えしたいと考えています。

地域の未来を考え続けた先にあった、畑山との出会い

――この仕事を選ばれた理由を教えてください。

私は愛媛県の漁村で生まれ育ちました。生まれ育った地域への思いが強く、学んだことを地域に生かしたいとずっと考えていました。一方で、地域がどんどん衰退していく現実も見てきました。一次産業は生きる基本であり、その産業がある農山漁村が継続して暮らせる場所であってほしい。そうした思いから大学へ進学し、農業や漁業など各地の現場を回りました。

その中で出会ったのが、高知県安芸市の畑山地区でした。国の事業で1週間、安芸市に滞在したことをきっかけに、この地域で土佐ジローを軸に新しい地場産業を起こそうとしていた夫と出会いました。私自身も同じようなことを故郷でやりたいと思いながら、卒業後はいったん新聞社に就職し、新聞記者として一次産業に関わっていました。ただ、やはり自分自身が農山漁村に身を置きたいという思いは消えませんでした。

そして2010年に新聞記者を辞め、畑山へ来ました。結婚を経て、2017年に社長となり、今は会長とともに経営に携わっています。

――会社名や理念にはどのような思いが込められているのでしょうか。

社名の「はたやま夢楽」には、畑山で暮らし続けたいという思いを込めています。もともと畑山は独立した自治体でしたが、今では人口が20人まで減っています。そうした現実を悲観するのではなく、夢を持ち、楽しみながら、かつての村のようなにぎわいを取り戻していきたい。そういう願いを社名に込めました。

経済性だけでは決めない――「畑山で暮らす」が経営の軸

――経営判断の軸になっている価値観を教えてください。

経営にはもちろん経済性も必要です。ただ、その前に「なぜ私たちは畑山で暮らしたいのか」という原点に立ち戻って判断するようにしています。近年では加工場の建設や宿の建設といった大きな投資もありましたが、もし投資回収のスピードだけを考えるなら、畑山を離れて市街地に拠点を構えたほうが合理的です。

それでも私たちは、畑山で暮らすことを大前提に選択を重ねてきました。その考えを理解してくださるお客様や金融機関、仲間とつながり、思いを共有しながら進めていくことを大切にしています。数字だけでなく、自分たちが目指す暮らしと地域のあり方に沿って判断することが、私たちの経営の軸です。

――土佐ジローの魅力はどこにあるのでしょうか。

土佐ジローには、今の日本の鶏肉が忘れてしまった味を表現できる力があるのではないかと思っています。一般的な鶏肉が短期間で大きく育てられるのに対して、土佐ジローは150日かけて成鶏になるまで育てます。その分、鶏本来のうまみが引き出され、部位ごとの個性も際立ちます。

実際に召し上がった方からは、これまでの鶏の概念が変わった、人生観が変わったといった声をいただくこともあります。歯ごたえはありながら、硬いわけではない。そうした独自の食感と味わいが、土佐ジローならではの魅力だと感じています。

人を集めるのは、専門性よりも自然へのまなざし

――組織づくりや社内コミュニケーションで大切にしていることは何ですか。

現在、会社は役員を含めて11人で運営しています。夫婦に加え、夫の弟たちも経営に関わっており、社員やパートスタッフとともに事業を支えています。

社内には個性的な人が多く集まっていて、日常的な会話も盛んです。仕事の話だけではなく、趣味の話が自然に交わされる関係性があり、田舎や自然が好きな人たちが集まっているからこその空気があると思います。山に入って山菜を採ってくる人もいれば、川釣りを覚えようとしている人もいて、それぞれが畑山での暮らしそのものを楽しんでいます。

限界集落から価値を発信し、未来へつなぐ

――今後の展望や取り組みたいことを教えてください。

近年は加工場や宿を建てたことで、経営的にはとても大変な時期にあります。それでも移住者を含めた雇用を維持しながら、田舎で暮らしたい人を受け入れ、仕事と余暇が地続きになったような生き方を支えていきたいと考えています。

宿には県外からも多くの方にお越しいただいており、そこで畑山の価値や田舎の価値をきちんと伝えていくことが、地域の維持にもつながっていくと思っています。私たちの事業がすべての受け皿になる必要はないと思っていますが、まずは事業を諦めずに続けることで、この地域の存在を知っていただく機会をつくりたい。その積み重ねが、ほかの限界集落にも広がる価値観の創造につながればと考えています。

――読者へ伝えたいメッセージをお願いします。

田舎の価値を高めたいという思いは、ずっと変わっていません。人が離れていった場所だからといって諦めるのではなく、自分たちの思いを伝え、共感してくださる方と組むことで、限界集落でも起業し、継続していくことはできるのではないかと思っています。

東京一極集中になりがちな時代ですが、東京以外の地域にも、それぞれに輝く企業があります。その土地ならではの良さを発揮しながら、各地で挑戦する企業が少しでも増えていけば、それは私たちの励みにもなります。私たち自身も、そうした励みになれるような企業経営をしていきたいと思っています。

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