未熟児家族に寄り添い続ける――「つながり」が生む安心と社会への架け橋
一般社団法人未熟児家族支援・がんばりっこ 代表理事 林英美子氏
2004年、自身の出産体験をきっかけに活動をスタートさせた林英美子氏。22週5日、542グラムという極めて早い時期に誕生した息子との経験を原点に、「誰かと話したいのに、誰に聞けばいいかわからない」という親の孤独に向き合い続けてきました。現在は、未熟児(低出生体重児)だけでなく、病児や障害児、亡くなった子どもの家族までを対象としたコミュニティへと広がり、全国・海外にまでつながりを広げています。本記事では、その活動の背景と想い、そして今後の展望について伺いました。
家族と社会をつなぐ支援の全体像
――現在の活動内容について教えてください。
現在は、未熟児だけでなく、病児や障害児、亡くなった子どもの家族までを対象としたコミュニティを運営しています。生まれた時だけでなく、成長の過程で病気や障害を抱えるケースもあるため、医療的ケアや発達、さまざまな背景を持つお子さんのご家庭が参加できる形にしています。応援団と呼んでいる医療従事者や専門職の方々にも250人以上登録いただいています。
家族と応援団お互いにとってより良い環境をつくっていきたいという思いから、2022年に一般社団法人へ移行し、活動の幅を広げました。専門職向けに職種別で対話の場を設けたり、施設の課題や将来の理想像の実現について、家族と共に考えるトークセッションなどを実施しています。また、私自身も施設に出向き、家族の声を医療や支援の現場へつなぐ役割も担っています。21年続いていること、そしてお子さんが生まれたばかりの家族から成人後の親なき後を見据えるご家族まで、幅広いライフステージを一つの団体で支えている点が強みです。
――事業を始めたきっかけを教えてください。
2004年に息子を出産したことがきっかけです。22週5日、542グラムという非常に早い段階での出産で、何が不安なのかもわからないまま、「誰かと話したい」という思いだけが強くありました。
そこで、周りのお母さんたちと話し始め、「あの子も同じ状況だよ」「家が近いよ」とつないでいくうちに、自然と人と人のつながりが生まれていきました。そのうちに、誰にとっても入りやすい場があればいいのにと思うようになり、コミュニティを立ち上げたのが始まりです。
息子は22週という、日本で蘇生が行われる最短の在胎週数で生まれましたが、ありがたいことに現在は病気や障害の診断を受けることなく成長しています。当時としては非常に稀なケースとも言われ、テレビ取材などをきっかけに他県からも問い合わせをいただくようになり、現在では全国・海外にお住まいの方々にも参加いただく形へと発展しています。
「必要とする人がいる限り続ける」――揺るがない原動力
――21年間活動を続けてきた原動力はどこにあるのでしょうか。
福祉系の活動では、「この活動がなくなることが目標」と言われることが多いと思います。ただ、私は少し違う考えを持っています。「この活動がなければいい」と言い続けることで、本当は必要としている人が「自分でどうにかしなければいけないのではないか」と感じてしまうのではないかと思うのです。
だからこそ、必要としてくれる人がいる限りは続けていきたい。自分の心と体が続く限りは、きっと一生続けるのだと思います。いずれ世代交代は必要だと思っていますが、「お節介おばあちゃん」のような存在として、がんばりっこ家族も応援団も応援し続けていきたいです。
理想は、どんな子どもが生まれても「うちの子ってこんな子だよ、よろしくね」と自然に言い合える社会です。かつて左利きや子どものメガネが特別視されていた時代が変わったように、未熟児(低出生体重児)や障害のある子、亡くなったお子さんのことも、当たり前に温かく語れる時代が来ると信じています。「未熟児」や「障害」という言葉の表記をめぐる議論もありますが、大切なのは言葉よりも、どう向き合い、どう支えるかだと考えています。
この活動を知らないことで孤独を感じたり、無理をして心が追い込まれてしまうことが一番悲しい。だからこそ、知るきっかけを届け続けたいと思っています。孤独や不安の中で涙を流している人を、放っておきたくないのです。
本音で語り合える組織づくりと成長の循環
――スタッフとのコミュニティ運営で大切にしていることはありますか。
スタッフは全員、がんばりっこのママたちです。現在は約10名のメインスタッフで運営しています。
大切にしているのは、本音を話しやすい空気感です。ミーティングでは私も含め全員が率直に意見を出し合うため、新しく参加された方が「率直に意見を言い合える場なんですね」と驚かれることもあります。ただし、意見の出し方にはルールがあります。「これはやめた方がいい」と否定だけで終わらせず、「こうした方がうまくいくと思う」という代案とセットで伝えることです。このルールは、Slackでのやりとりやオンラインミーティングでも徹底しています。
もう一つ大切にしているのが、「やれるときに、やれる人が、やれるだけ」という考え方です。担当している集いの直前に子どもが体調を崩したりすることもあります。そうしたときは無理をせず、早めにヘルプを出すことを大事にしています。最初はなかなか言い出せなかったスタッフも、他の人が助けを求める姿を見て少しずつ言えるようになっていきます。そうした変化や成長を感じられる瞬間が嬉しいです。
現場と家族をつなぐ新たな挑戦
――今後取り組みたいことを教えてください。
現在、全国のNICUスタッフとの勉強会が増えてきており、そこで共通して聞こえてくるのが「家族とのコミュニケーションの難しさ」という声です。入院中のご家族は病院と自宅の往復で精いっぱいで、看護師に気を遣って話しかけられなかったり、本当は聞きたいことがあっても、遠慮して聞けない状況があります。
そこで現在、「今、何に不安を感じているのか」「何に困っているのか」「何がどうなったら嬉しいのか」を書き留めるメモ(”いまメモ”)を制作しています。まずは全国のNICUに届けることを目指しており、将来的には医療者とのコミュニケーションツールへの発展を目指しています。
また、亡くなった子(お空っこ)の家族に向けたリーフレットも制作しています。「我が子に触れられなくなる前にあなたができること」というもので、7月の学会での発表を予定しています。死亡証明書があればベビーカーで外出できること、大切な場所に連れて行けること、火葬の際に時間帯によっては骨を残せる可能性があることなど、知られていない情報を伝え、できるだけ後悔なく過ごしていただきたいと考えています。これらの取り組みは、専門職の方々と共に作るからこそ、より早く、確実に家族へ届くと実感しています。
子どもたちの声に触れる日々が原点
――リフレッシュ方法について教えてください。
子どもたちと関わる時間が最高のリフレッシュです。現在は学校で特別非常勤の体育講師や学校の相談室での相談支援活動にも携わり、子どもたちの声を直接聞く機会を大切にしています。家族や医療者だけでなく、「当事者である子どもたちの声」を知ることが、自分の活動の軸になっています。
――読者へのメッセージをお願いします。
子どもたちの将来に理想を持ちながら、一緒にお酒でも飲みませんか。私たち大人が、最近はざっくばらんに話すことが少し苦手になっているように感じますが、本当はもっと気軽に話していいはずです。今の時代、「アルハラになるのかな」と思うこともありますが(笑)、それでも人と人がつながる時間は大切にしたいと思っています。その積み重ねが、子どもたちにとってより良い社会につながっていくのではないでしょうか。