「命を守る人の命を守る」――指先から始まる、うつ病予防の新しいかたち

一般社団法人日本疲労メンテナンス協会 代表理事 時任 春江 氏

看護師として25年間、現場に立ち続ける中で見えてきたのは、命を守る立場にある人たち自身が、心身の疲労を抱えながら働いている現実でした。そうした課題意識を原点に、時任氏は個人事業からスタートし、その後、研修事業に対応するため法人を立ち上げました。現在は、指先でストレスを測定し、気づいていない不調を可視化する取り組みを軸に、うつ病予防教育の普及に力を注いでいます。看護の現場で培った実感と経験を土台に、「命を守る人の命を守る」という思いを形にしてきた歩みを伺いました。

気づかない疲れに気づくことから始まる、法人の理念と現在地

——現在の事業には、どのような理念やビジョンが込められているのでしょうか。

私自身、看護師として25年間勤務してきました。その中で、看護師が非常に疲れていても、自分ではそれを自覚できていない場面をたくさん見てきたのです。

私も子育てをしながら働いていた時期に強い疲労を感じており、そのときに自分自身が受けたケアによって体調が良くなった経験がありました。そこで最初は、看護師の疲れを取ることを目的に、個人事業主として病院内で出張マッサージを行う事業を始めることにしたのです。

その後、コロナ禍で外部事業者の出入りが難しくなり、その事業はいったん区切りをつけましたが、同時に研修の依頼を受けるように。個人事業の業態では対応しづらい部分があったため、研修事業に対応する目的で法人を立ち上げたという経緯があります。

——他にはない強みはどのような点にありますか。

大きな特徴は、指先でストレスを測定し、本人も気づいていない状態を数値として見える化していることです。

私は2016年頃からこの取り組みを行ってきましたが、「私は疲れていません」「元気です」と話される方でも、実際に測定すると強いストレス状態が表れていることがあります。

その後、2018年8月に「指先でストレスが測れることが当たり前になったら、世の中はどう変わるか」と問われたことが一つの転機になりました。そのとき、私は「うつ病が予防できる」と答えたのです。

そして、自分が行っていることは、まさにうつ病予防につながっているのだと明確に認識し、以後はうつ病予防教育として発信していくようになりました。

これまでに4000人以上の測定実績があり、その結果を見ていく中で、従業員思いの経営者がいる企業でも、現場では疲労が蓄積していることがあると実感しています。

だからこそ、見えないストレスを見える化し、その先に必要な取り組みにつなげていくことに意味があると考えています。

看護師25年の実感が、経営の原点になった

——経営者になられたきっかけを教えてください。

経営者になろうという発想から始まったわけではありません。私にとって一番大きかったのは、とにかく看護師のためになることを形にしたいという思いでした。個人事業主では受け入れていただきにくい場面があるなら、法人格を取らなければいけない。それが出発点でした。

だから、法人を立ち上げるときも、「これから経営していくぞ」というより、「このサービスを看護師に届けるにはどうしたらよいか」を優先していました。

——これまでのキャリアの中で、特に大切にしてきたことは何ですか。

私は看護師2年目で第一子を出産し、その後24年間は子育てをしながら働いてきました。子どもは4人おりますので、自宅と保育園と病院の3か所が生活の拠点という時期も長くありました。

そうした生活の中で、働く人が自分の疲れに気づけず、限界まで頑張ってしまうことのつらさを、身をもって知っています。

だからこそ、自分がそのとき本当に欲しかったものを事業として立ち上げましたし、現在も、無自覚の疲労やストレスに気づく機会を届けたいと考えています。

つながりを保ち、学びを止めない組織運営

——組織の運営において、コミュニケーションで大切にしていることは何でしょうか。

現在、うつ病にさせないためのアドバイザーは1300人いらっしゃいます。学んで終わりではなく、その方々が実際に周囲の人を守る行動につなげてくださることが大切だと考えています。

そのため、接点がなくなってモチベーションが下がってしまわないように、継続的なコミュニケーションを意識しています。

具体的には、メルマガで協会の活動状況や、アドバイザーの皆様の取り組みをご紹介したり、月に2回は定期的に情報交換や相談の場を設けたりしています。学んだ内容をそれぞれの現場でどう生かしているかを共有し合える機会を持つことが、継続の力になると考えています。

1400万人へ――うつ病予防を社会の当たり前にしたい

——今後の展望や、挑戦していきたいことを教えてください。

大きな展望は、うつ病予防の考え方をもっと広く社会に浸透させることです。現在、うつ病にさせないためのアドバイザーは1300人ですが、まだまだ十分とは思っていません。

私は本来であれば、この内容は厚生労働省が担ってもよいくらい重要なものだと考えていますし、高校3年生までの間に学んで、その知識をお守りのように持って社会に出ていただきたい内容だと思っています。

認知症予防については、90分講座を受けた人が1400万人ほどいると聞いています。そうであれば、うつ病予防についても1400万人に広がっておかしくないはずです。

10歳から39歳までの死因の上位に自殺がある現実を考えると、これからの社会を担う世代を支える学びとして、もっと優先して広めていく必要があると感じています。

——現時点での課題は何でしょうか。

必要性を強く感じている方には届きやすいのですが、まだその切迫感を持っていない方に「これは必要だ」と思っていただくことが難しい点です。

実際に、身近にうつ病になった従業員がいる企業や、人材の離職で困っている病院では関心を持っていただきやすいのですが、そうではない層にどうアプローチするかが課題です。

また、企業研修についても、ここ1、2年で対面型からアーカイブやオンラインへの切り替え、あるいは研修自体の見直しが進んでいるという実感があります。そうした変化も踏まえながら、今後どのように広めていくかを考えていかなければならないと感じています。

睡眠を整えることが、自分を守ることにつながる

——日々のリフレッシュ方法として意識していることはありますか。

自分自身の健康を維持する意味でも、ぐっすり眠れる生活を心がけています。その中で一番大切にしているのは、お風呂の湯船に15分以上浸かることです。

入浴はうつ病予防の一つの方法でもありますが、体の内側の体温をしっかり上げることで、その後に体温が徐々に下がり、良質な睡眠につながっていきます。

最近もシンポジウムで、睡眠によっていかにうつ病を予防するかという話をさせていただきました。お風呂だけでなく、呼吸法なども含めて、難しいことではなくても、日常の中でできることで予防につながることは多いと感じています。

また、子どもが4人、孫も4人おります。家族と関わる時間も大きなリフレッシュになっていると感じますね。

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