「正しい支援」を軸に、個別最適な心理支援を広げていく――全ての人の幸せのために

株式会社水戸心理・療育センター 代表取締役 富田 賢史 氏

心理カウンセリングから障害児通所支援事業まで、支援の形を限定せず「その人・そのケースに合ったやり方」を組み立てていく。富田さんが掲げる理念は「全ての人の幸せのために」。自分だけの解決ではなく、家族や周囲、社会全体が「この形でよかった」と思える解決を目指すと言います。独立の背景、専門性へのこだわり、組織づくり、そしてこれからの挑戦について伺いました。

理念は「全ての人の幸せのために」——支援を“狭くしない”会社の現在地

——いまの会社は、どんな理念・考え方を大切にしていますか。

「全ての人の幸せのために」という理念を大切にしています。

カウンセリングは医療機関などでは個人への支援に限定されることも多いです。ただ、本人が「こうしたい」と思っても、ご家族や周りの方、社会がそれで納得できるかという問題が起こり得ます。

ある人の幸せだけを目指すと、別のところにひずみが出ることがあるからです。

本人の問題解決はもちろん大事ですが、その形で周囲も「よかったよね」と思える解決を目指したいと考えています。

時間的にも広さ的にも、全体として納得できる形にしていきたいという思いです。

——事業としては、どんな領域に取り組まれていますか。

大きくは一般の心理カウンセリングが一つあります。もう一つが、お子さんの支援で、発達に関わる支援の領域です。

制度としては、児童発達支援や放課後等デイサービスにあたるもので、まとめると障害児通所支援事業になります。加えて、セミナーや講演などの講師業務もあります。支援の必要性に応じて、形を限定しないことを意識しています。

独立の原点は「正しく支援したい」——富田さんのキャリアと転機

——経営者になられたきっかけを教えてください。

大学院を卒業後、最初に所属した現場で多くの経験を積みました。実務を通じて幅広い領域に関わる中で、支援の手応えを感じる一方、よりよい支援の在り方について自分なりに考える機会も増えていきました。

その中で、ケースごとに最適な支援を組み立てること、そして支援する側も納得感を持って働ける環境をつくることの大切さを強く意識するようになりました。

そうした思いが重なり、自分が目指す「正しい支援」を実践するために、独立開業という道を選びました。

——その経験を経て、いま大事にしていることは何ですか。

いま大切にしているのは、正しいと思える支援を、無理なく継続できる形で実現することです。経営においてお金は重要ですが、目的は規模の拡大そのものではなく、支援の質を守りながら社会に貢献し続けることだと考えています。

まずは正しい形で支援を積み重ね、人が育ち、その結果として活動の幅が広がっていく。そうした順番を大切にしています。

専門性の根っこは「本家にのっとった学び」——強みとしての心理支援

——他社にはない強みはどこにあると感じますか。

心理の専門家としての専門性の高さが強みだと思っています。カウンセリングは『心』という目に見えないものを扱っているので、一見すると専門性が見えにくいと思います。現に、資格を有していない人が行うカウンセリング事業所や、資格を有していても何年も同じような問題を扱い続けるカウンセラーも多く目にします。

それは、この業界は教育システムが十分に整っていないことが原因だと思います。

医師であれば、医療研修制度があり、働き始めた時から現場で体系的に経験を積み、指導されながら学べる仕組みが整っています。

しかし、私たち心理カウンセラーにはそのような制度はありません。大学院を出たあと、カウンセリングができるものとして早々に働かなくてはなりません。幸運にも先輩に学ぶことができた人であったとしても、この業界自体に教育システムが整っていませんから、その先輩に教わることも経験則に則ったものになってしまいがちです。

それらの結果、現場で「慣れる」ことが起きやすいとも感じています。人と1時間話すこと自体は、慣れようと思えば慣れます。

さらに厄介なのは、関係性だけで良くなるケースもあり得ることです。十分に教育や経験を積まないままでも「このやり方で良くなった」という経験が少しずつ積み上がり、本人の意識では正しさの検証が難しくなることがあります。その循環が起きやすいことが、この業界の厄介さだと思っています。

——富田さんが「正しい学び」として重視している軸は何でしょうか。

私は、アメリカの精神科医で催眠療法家でもあるミルトン・エリクソンの考え方を大切にしています。クライアント一人ひとりを見立て、接し方も合わせていく、いわばオーダーメイドの心理療法の考え方です。

エリクソンは、20世紀最高の心理療法家と言われることもある人物で、他の人が難しいと感じたケースの最後の受け皿のように語られることもあります。

エリクソン本人は亡くなられていますが、直に学んだお弟子さんたちはご存命の方がいるんです。幸運にも私にはその中で学べる環境があり、主にジェフリー・ザイグ博士から学んでいます。

本家のやり方をどう構造化し、何が「魔法のように見える」技術なのかを、きちんと伝えてくれる方です。科学的にも適切と言われるやり方を受け入れつつ、発展させていく姿勢を、会社の土台に置いています。

社長室は置かない——「チームの一員」としての組織運営

——社内コミュニケーションで大切にしていることは何ですか。

気軽に相談できる状況をつくることです。私自身、社長室を持たず、社員と同じオフィスで働いています。いまでも臨床の現場に普通に出ていて、社員とペアを組んでチームとしてケースを動かしています。

トップだから現場から離れるのではなく、チームの中の一員として一緒に動いている感覚が強いです。だからこそ、ケースの相談やレクチャーを求めてもらえる状態が、社内で作れていると思います。

——採用や育成では、どんな点を重視されていますか。

まず、クライアントを支えたい、ケアしたいという気持ちがしっかりあることです。その上で、その人自身のプランを意識できているかも重要です。「全ての人の幸せのために」の“全て”には、私自身も、社員も含まれます。

会社で何をしたいかだけでなく、どんな生き方をしたいか、どんな支援者になりたいか、社会とどう関わりたいか。そうしたイメージを持てている方と一緒に働きたいです。

また、ライフプランも応援したいと思っています。家庭をどう作るかも含めて、その人の人生の設計は大切ですから、そこを尊重しながら働ける形を目指しています。

業界の流れとAIの時代——「できること・できないこと」を見極めて前へ

——業界の今後について、どのように見ていますか。

福祉の領域は、あまり良い流れだとは感じていません。国の単位の付け方などを見ていると、専門性を深めることよりも「長時間預かること」を重視する方向が、ここ数年あるように感じています。

共働きが増え、発達に課題のあるお子さんを預かる場が必要だというニーズがあるのは理解できます。ただ一方で、預かりが中心になり、定義としての「療育」になっていない状況もあると感じています。

療育は、『治療的な教育』のことです。必要な学びを、お子さんそれぞれに合わせて見立て、狙って身につくように提供することが本筋です。

だからこそ、正しいことをやり続け、それを広げていくことが、結果として世の中を正しい方向に導く力の一つになればと思っています。

——今後、会社として挑戦していきたいことは何ですか。

前提として「正しい形で」世の中に貢献しながら、できれば広げていきたいです。そのために、私自身が専門性を高め続けることを怠らないようにしたいと思っています。

新しいことを習得し続け、それをスタッフに伝え、みんなの専門性が高まっていく。その積み重ねの先に、より広い範囲を幸せにできる形が作れると考えています。

また、AIの存在も大きくなっています。ChatGPTなどのAIに相談する人は増えていて、AIは否定せずに聞いてくれたり、提案してくれたりする点で優れたツールだと感じます。

一方で、言語化されない感情の扱いは、現状AIには難しい部分があります。表面的な言語的な相談や「とりあえず聞いてほしい」にはAIが力を発揮し、そこで行き詰まる方は実際のカウンセリングにつながる。そういう使い分けが進んでいくのではないかと思っています。

学びから少し離れる日——「今、ここ」を感じるリフレッシュ

——日々忙しい中で、リフレッシュはどうされていますか。

もともと仕事への意識が強く、休みの日でも学びに気持ちが向きやすいタイプでした。だからこそ、オンとオフの切り替えは自分にとって大切なテーマでした。

会社を立ち上げてから年月を重ねる中で、最近は休日に心理の学習から少し離れ、心身を整える時間を意識的に持てるようになってきたと感じています。

——具体的には、どんな過ごし方が多いですか。

犬を飼っているので、犬と素直に横になるような時間が増えました。あとは、自分が行きたい場所を選ぶというより、家族が行きたい場所についていくことが多いです。

自分で考えて選ぶというより、その日の流れに逆らわずに過ごす感覚ですね。カウンセリング用語で「今、ここ」と言ったりもしますが、特別な意味付けをするというより、今日の風景や感覚をそのまま感じるような過ごし方が、休日にできるようになってきています。

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