面白さを追い続けた45年――六覺燈が貫く“人と商売”の哲学
株式会社六覺燈 代表取締役 水野 幾郎氏
1980年の創業以来、株式会社六覺燈は串カツとワインという独自のスタイルで歩み続けてきました。45年以上にわたり店を続けられた背景には、「儲けるため」ではなく「面白いからやる」という水野幾郎氏の揺るがない価値観があります。お客様との関係、人とのつながり、そして若い世代の育成。数字だけでは測れない商売の本質について、水野氏に伺いました。
お客様との関係が育ててくれた店
――長年事業を続けてこられた中で、大切にしている考え方を教えてください。
飲食業はお客様のお口をお預かりする仕事です。だからこそ、お金を目的にするのか、面白さを追求するのかということを常に考えてきました。
私は世の中がお金に走りすぎているように感じています。もちろん商売ですから利益は必要ですが、それだけを追いかけても面白くありません。六覺燈は「面白いからやる」が基本です。人の真似をするのも好きではありません。うちはうちの世界をつくればいいと思っています。
ありがたいことに、お客様とのご縁に恵まれてきました。92歳のお客様と74歳のお客様が「どちらが長生きするか」と冗談を言い合いながら大笑いしている光景を見ると、本当にうれしくなります。年に2回、ボーナスが出た時だけ来てくださるお客様もいらっしゃいます。結婚前から通ってくださり、お子さんが大学を卒業するまでのお付き合いになった方もいます。
そういう関係はお金では買えません。経済合理性だけを考えれば効率の悪い部分かもしれませんが、そうした人間関係こそが店を支えてくれているのだと思います。
――45年以上続く理由はどこにあるとお考えですか。
常に新しいことを考えているからでしょうね。ただし、それはお金のためではありません。
「老舗」という言葉がありますが、私はどこか年老いた店のような響きを感じてしまうんです。だから現状維持ではなく、常に新しい挑戦を意識してきました。その一方で、お客様との距離感は変えない。うちに来られたら、その方は六覺燈のお客様です。その考え方を大切にしてきた結果が今につながっているのだと思います。
串カツとワインで切り開いた独自の道
――事業の特徴について教えてください。
六覺燈は1980年11月1日に創業し、串カツとワインを軸に商売を続けてきました。
創業当時はワインを飲む人がほとんどいませんでしたが、私はワインの魅力を信じていました。ある商社の方から「年間40ケース売れたら大阪で一番になれる」と聞いた時、「そんなものか」と思ったんです。
そこで考えたのが、ビールで利益を取るのではなく、ワインを適正価格で提供することでした。大量に仕入れることで仕入れ価格を抑え、お客様にはできるだけ良いワインを手頃な価格で楽しんでもらう。その結果、多くの方がワインを飲み始めてくださいました。
一番印象に残っているのはボジョレー・ヌーボーの時期です。一晩で240本近いワインが動いたこともありました。当時としては驚くような数字でしたね。
――長年商売を続ける中で見えてきたことはありますか。
商売の一番の敵は「欲」だと思っています。
良い商品を適正価格で提供し、お客様に喜んでいただく。それ以上に利益を求めすぎると、だんだん商売がおかしくなっていくんです。
「これだけあれば食べていける」「これだけあれば新しい挑戦ができる」というラインを知ることが大切です。足ることを知れば、無理な経営をする必要もありません。
私は見栄を張ることも好きではありません。人のためにお金を使うほうが、結果として大きなご褒美が返ってくる。若い頃から市場の親父さんたちにそう教えられてきました。今でもその教えは変わっていません。
面白さを追いかけた先にあった経営者の道
――独立のきっかけを教えてください。
修業時代に「婿養子に来てほしい」と何度も声をかけていただきました。ただ、それをお断りしているうちに居場所がなくなってしまったんです。
なぜ声をかけてもらえたかというと、誰よりも仕事をしていたからだと思います。朝から深夜まで働き、休みの日も勉強や出仕事に出ていました。寝る時間は3~4時間ほどでしたね。
独立してからも考え方は同じです。私にとってはお金よりも面白さが先にありました。若い頃にたくさん稼いだこともありましたが、お金だけで人は集まらないということも学びました。
人との縁や信頼関係があるからこそ、店は続いていくんです。そうした経験が今日まで店を続けてこられた理由だと思っています。
――経営判断の軸になっている価値観は何でしょうか。
お金を追いかけると逃げていくものだと思っています。反対に、面白いことや人のためになることを一生懸命やっていると、不思議とお金は後からついてくる。
だから私は、まず誰かの役に立つことを考えます。企業同士をつないだり、相談に乗ったりすることも少なくありません。損得抜きで話をしていると、そこから新しい仕事やご縁が生まれることがあります。
結局、商売は人なんです。人とのつながりがあれば、新しい可能性はいくらでも広がると思っています。
若い世代を育て、次の時代へつなぐ
――現在力を入れている取り組みを教えてください。
一番力を入れているのは人を育てることです。特に若い人たちの成長には大きな期待を持っています。
私は社員に細かい指示を出すタイプではありません。それぞれが工夫しながら仕事をしてほしいと思っています。時代が変わり、働く人たちの価値観も変わりました。だから昔と同じやり方を押し付けるつもりはありません。
ただ、人を大切にすることや商売の本質は変わらないと思っています。その部分だけはしっかり伝えていきたいですね。
――最後に、これから事業を始める方へメッセージをお願いします。
独立したいという相談を受けることがありますが、借金をして無理に始めようとしている人には「もう少し待ちなさい」と話します。
まずはお金を貯める。その過程で無駄遣いをしない習慣や我慢する力が身につきます。その姿勢がある人は簡単には潰れません。
そして何より、面白いと思えることを見つけることです。お金だけを目的にすると苦しくなります。誰かの役に立つこと、人に喜んでもらうこと、自分が面白いと思えることを続けていれば、道は必ず開けると思っています。
私自身も年齢を重ねましたが、まだ新しい会社を立ち上げようと考えています。面白いことがある限り、挑戦は終わりません。