キャスティング業界の構造を可視化し、エンタメ領域の非効率を変える――Influencer Techが挑む次の市場
株式会社Influencer Tech 代表取締役CEO 甲斐雄太氏
株式会社Influencer Techは、インフルエンサーや著名人のキャスティング領域における非効率や不透明さに着目し、プラットフォーム「Weeva」を展開しています。広告主とキャスティングの間に存在する多重請負構造や、エンタメ業界に残るアナログな業務フローを、テクノロジーによって変えていこうとしているのが特徴です。本記事では、代表取締役CEOの甲斐雄太氏に、事業の狙い、創業後の転機、組織づくり、今後の展望について伺いました。
不透明なキャスティング領域を変えるプラットフォームへ
――現在の事業内容について教えてください。
当社の事業ドメインは2つありますが、現在の主軸は「Weeva」というプラットフォームの提供です。このサービスは、広告代理店やキャスティング会社の機能をひとつのプラットフォームに落とし込んだツールだと捉えています。
この事業を立ち上げた背景には、キャスティング業界の多重構造に対する問題意識があります。本来は人をキャスティングするだけの領域であっても、複数の事業者が介在することでマージンが重なり、広告主から見ると原価が見えにくくなっています。だからこそ「Weeva」では、インフルエンサーや芸能人の原価を公開し、誰がどれだけ上乗せしているのかがわかる状態をつくりたいと考えました。今の時代、隠すこと自体が難しくなっているので、キャスティング領域をもっとクリーンにしていきたいと思っています。
――サービスの強みはどこにありますか。
強みは大きく2つあります。ひとつは、多重構造による不透明さを壊すこと。もうひとつは、エンタメ業界に残るアナログな業務そのものを、テクノロジーで置き換えていることです。
私はもともとアドテクノロジー領域にいたので、同じ広告でありながら、インフルエンサーマーケティングの現場があまりにもアナログであることに驚きました。インフルエンサーを探す工程、発注後の調整、関係者の多さによる意思決定の遅れ、Excelでのやり取りなど、現場では今も多くの手間が発生しています。そうした工程をSaaSとして整理し、自動化していることが当社の大きな特徴です。
危機を越えて見えた転機と、少数精鋭の組織観
――創業からこれまでで、ターニングポイントになった出来事は何でしょうか。
私にとってのターニングポイントは、事業を続ける中で三度にわたり厳しい資金状況を乗り越えたことです。プロダクト自体は1年半ほど前に完成していましたが、原価を公開するという性質上、単純に市場へ出すのではなく、戦略的に準備を進める必要がありました。その間は営業やマーケティングを本格的に進められず、非常に厳しい局面を何度も経験しました。
それでもそこを乗り越えたことで、ファイナンス面の自信がつき、自社プロダクトに対する確信も深まりました。この三度の壁を越えたことが、今の挑戦につながっていると感じています。
――現在の組織体制について教えてください。
現在は7〜8名ほどで動いており、ほぼエンジニア中心の体制です。契約形態は全員が業務委託ですが、実態としてはフル稼働で関わる仲間として動いてもらっています。今後はストックオプションの配布も予定しています。
私が掲げているのは、「史上最少人数で上場したい」という考え方です。そのため、正社員を増やすこと自体にはこだわっていません。営業も受注率が高い背景もあり、フィールドセールスなどの導入などの部分的な箇所は営業代行会社と連携すれば進められると見ていますし、自社で増やすとすればCS人材が中心です。上場前の計画でも、30名程度の体制を想定しています。
NASDAQを見据えた展開と、その先に描く未来
――上場先としてNASDAQを目指す理由を教えてください。
理由は複数ありますが、まず事業との相性です。インフルエンサー領域は日本よりも海外市場のほうが大きく、今後は複数国へのローカライズも視野に入れています。
また、時価総額のつきやすさや事業シナジーの面でも、NASDAQのほうが適していると考えています。さらに、日本のスタートアップでも世界市場で戦えることを示したいという思いもあります。単なる上場ではなく、その先の勝負まで見据えているのが私の考えです。
――今後取り組みたい挑戦について教えてください。
次に見据えているのは、「ダイナミックプライシング」の実現です。現在のキャスティング市場では、価格の妥当性が十分に整理されておらず、フォロワー数やいいね数などの言い値で取引されています。その結果、費用対効果が見えにくいまま取引が行われている面があると感じています。
そこで当社では、広告主の商品とインフルエンサーの組み合わせから、想定コンバージョン数を出すための実証実験を進めています。すでに一歩手前の機能として、AIによる独自の信用スコアを付与したインフルエンサー提案やも進めており、将来的にはフォロワー分析などをもとに、適切なキャスティング費用を提示できる世界を目指しています。エンタメ領域に残る価格決定の曖昧さまで含めて変えていきたいと思っています。
事業そのものが人生になった
――プライベートでのリフレッシュ方法を教えてください。
会社員時代にはダーツのプロ資格取得や大会出場などに打ち込んでいた時期もありましたが、今はこの事業自体が人生になっています。「Weeva」を拡大していくことが、今の自分にとっては趣味に近い感覚です。朝起きてパソコンを開くこと自体に高揚感があり、事業に向き合うことがそのまま日常の中心になっています。
パートナーと週末に旅行へ行くこともあります。国内では福岡が最も好きな街で、東北や新潟、石川へ海鮮を食べに行くことも多いです。
――読者へのメッセージをお願いします。
中小企業の経営者や、これから起業を目指す方にお伝えしたいのは、AI時代の事業選択についてです。今後は、誰でもできるような代理業務や中間機能は、これまで以上に厳しくなる可能性があると見ています。そのため、既存事業の延長ではなく、自社の立ち位置を見直し、必要であればピボットも考えるべきではないかと思っています。
また、これから起業する方には、「なぜ自分がその事業をやるのか」を考え抜くことが重要だと感じています。私自身、事業の途中で資金繰りに苦しみ、仲間への支払いに向き合う厳しさを経験しました。だからこそ、覚悟のないまま走り出すことの危うさを実感しています。
AIの進化によって、起業環境も大きく変わっていくはずです。だからこそ今は大きな転換点にあると思っています。事業の意味と覚悟を持って挑むことが、これからますます重要になるのではないでしょうか。