有機栽培で育てる農産物を通じて、人と地域の未来をつなぐ

株式会社ありがとうファーム 代表取締役 雲英 顕一 氏

化学合成農薬や化学肥料を一切使わず、人の健康に役立つ農産物や加工品を栽培・製造している同社。トマト、人参、小松菜、米、大豆、などの農産物に加え、トマトジュース、味噌、甘酒といった加工品も手がけています。法人向けの販売や個人への野菜セットを柱に、スーパーや生協などとの取引を重ねながら、体に優しく、環境にも配慮した農産物づくりを続けてきました。また、NPO法人での活動を通じて、ひきこもりの方の社会復帰を農業の面から支援する取り組みにも関わっています。今回の取材では、農業を始めた背景、これからの展望、そして未来へつなげたい想いについて伺いました。

健康に役立つ農産物を、有機栽培で届ける

――事業内容について教えてください。

化学合成農薬や化学肥料を一切使わずに、健康に役立つ農産物や加工品を栽培・製造して、お客様に喜んでいただくことが事業内容です。農産物としてはトマト、人参、小松菜、米、大豆、などがあります。

加工品では、トマトジュース、味噌、甘酒などがあります。売上ベースでは法人のお客様の方が多く、スーパーさんや生協さん、個人への宅配などにもお届けしています。

――福祉との連携もされているのでしょうか。

NPO法人アースマザー岐阜の理事をさせていただいています。そちらでは、岐阜県内の行政機関から生活困窮者の就労準備支援事業を受託していて、様々な事情のある方の社会復帰を支援しており、その中で農を通じて訓練する為の畑等の整備をお手伝いしています。

また、NPOの指導で会社として岐阜県の就労訓練事業所の認定を受けており、就労の一歩手前の方を受け入れて、仕事に慣れて頂き、社会復帰のお手伝いをする役割があります。

農業はには種まきから植え付け、収穫、袋詰め、箱作り、箱詰めなど一つの仕事しかないわけではないので、その方に応じた作業を見つけやすいところがあります。また、農作業中は一人でできる仕事もあり、気楽に取り組める部分もあります。そういった農業の特徴を生かしながら、社会復帰のお手伝いをしています。

――大切にしている考え方を教えてください。

人様が食べるもので、健康に役立つものを提供していくことです。もちろん環境にも良いものを作っていくという想いがあります。

毎年開催されるオーガニックエコフェスタという有機農業のイベントでは、以前「野菜の栄養価コンテスト」と呼ばれていた「体に優しい農産物コンテスト」があり、小松菜部門で7年連続で最優秀賞をいただいています。

そうした評価もいただきながら、体に良く、質の高い農産物を提供していくことは、今後もぶれずに続けていきたいです。

衝撃を受けた一枚の写真から、農業の道へ

――農業を始めたきっかけを教えてください。

もともと農業に関心はありませんでしたが、20代の頃に地球環境問題や飢餓問題に関する講演を聞き、大きな衝撃を受けました。

特に「ハゲワシと少女」の写真を見て、生まれた場所が違うだけで飢餓に苦しむ現実と、飽食や食品廃棄がある日本との理不尽な差を強く感じたことが、農業を志すきっかけになりました。

――そこから、どのように農業へ進まれたのですか。

自分に何ができるのかを考える中で、まずは自分で食べるものを作り、ゆくゆくはアフリカの地に行って農業を伝えられたらと、若い頃は思っていました。それが農業に向かう最初のきっかけです。

その後、会社に通いながら週末農業を5年ほど続けました。40歳近くになり、これ以上遅くなると体が動かなくなるのではないかという想いもあり、40歳少し前にご縁があって千葉県で3年間研修を受けました。そして2003年に独立し、千葉で就農しました。

――法人化や現在の場所へ移られた経緯も教えてください。

新規就農者として、当時から環境問題に関心があったので、農薬や化学肥料を一切使わない有機農業に取り組んでいました。ただ、新規就農者は何もないところから始めるため、とても大変です。そういう人たちと一緒に有機農業を盛り上げていければと思い、2009年に法人化しました。

その後、2011年3月11日の東日本大震災で福島の原発事故があり、千葉にも放射能の影響が来ました。数値として安全だと発表されても、人様に食べてもらうものを作る立場として「安全ですからどうぞ」という気持ちにはなれませんでした。

農業をやめるのかと自問自答しましたが、それはないと思い、西へ行こうと決断。ご縁があり、岐阜県で畑と住む場所が見つかり、2011年5月頃に移住して、すぐに耕し始めました。

質の高い農産物と冬場の加工で、雇用を維持する

――今後の展望を教えてください。

まずは、より質の高い農産物を生産していくことです。トマトやニンジンなどを含め、栄養価の高い作物をどんどん出していきたいと考えています。

また、当初からあった想いとして、新しく農業を始める人たちをサポートしたいという気持ちがあります。今、都心の大手スーパーさんでオーガニックの売り場を持っているところとのつながりが太くなってきています。夏の有機トマトは産地として多くないため、有機トマトの生産を増やしながら、新規就農者の研修受け入れなどもしていきたいです。

――加工品については、どのように展開していきたいですか。

この地域は12月から3月まで雪に覆われる地域なので、冬場の加工を事業として成り立つ形にしていく必要があります。去年ぐらいから開発しているのがキムチで試作を進めています。

夏場は野菜の生産、秋以降は加工品の製造という形で、雇用を何とか維持できるようにしていきたいです。ひきこもりの方や困難を抱えた方の受け皿として、もっと雇用を増やしていくためにも、売上をつくることが必要だと考えています。

仕事の合間に楽しむ、目の前のスキー場

――お休みの日の過ごし方や、リフレッシュ方法を教えてください。

割と仕事をずっとやっているタイプで、あまり休みを意識して取ることはありません。ただ、ずっとスキーをやっていて、スキー場が目の前にあり、スキースクールのインストラクターでもあるので、年に3回ぐらいですが、レッスンを兼ねて滑りに行っています。

近隣のスキー場は、今はマイナーな場所ではありますが、雪質が良く、お客さんもあまり多くないので、空いていて滑りやすいです。

未来につながるものを、次の世代へ渡していく

――今の事業を通して、社会をどのように変えていきたいですか。

端的に言うと、みんなが幸せになれるような世の中になってほしいと思っています。日本はもともと、そういう国だったのではないかと感じています。

3.11の後、すぐに岐阜県へ来て農業ができたのは、代々農地や自然を守ってくれていた人たちがいたおかげです。そう考えると、私自身も一人の農業者として、みんながつないできてくれたものを未来につなげていくことが、自分の役割なのだと思います。

その中で今できることが、有機栽培と、困難を抱えた人の復帰をお手伝いすることです。そうした取り組みを通じて、みんなが幸せになるような世の中に、少しでも近づいていければと思っています。

――これから起業を目指す方へメッセージをお願いします。

起業には大変なことも多く、私自身もお金の面で苦労してきました。作物ができなかったり、虫の被害で売上が立たなかったりしたこともあります。それでも多くの方に支えていただき、今も続けることができています。

だからこそ、世のため人のために挑戦する方には、何よりも諦めずに頑張ってほしいです。

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