犬の心と体の負担をゼロへ――ワンズアップ株式会社が目指す“飼いやすい犬”を育てる環境づくり
ワンズアップ株式会社 代表取締役 中島秀輔氏
ワンズアップ株式会社は、犬のトリミングやトレーニング、幼稚園運営を通じて、犬と飼い主がよりよい関係を築けるよう支援している会社です。代表の中島秀輔氏は、犬の仕事に40年以上携わってきた経験をもとに、犬の問題行動を単なる“困りごと”として捉えるのではなく、その背景にある恐怖心や社会性不足に向き合ってきました。現在は新潟で2店舗を展開しながら、犬の心と体の負担を減らす独自の取り組みを進めています。
本記事では、創業の経緯から事業の特徴、組織づくり、今後の展望までを伺いました。
犬の心の土台を整える幼稚園事業
――現在の事業内容や特徴について教えてください。
一般的に犬の幼稚園やしつけ教室というと、「待て」や「お座り」といったマナーを教える場というイメージがあるかもしれません。しかし当社が取り組んでいるのは、その前段階にある心の部分です。
犬の問題行動の背景には、大きく「発散不足」と「社会性不足」の二つがあります。元気があり余っている犬に対して、いきなり落ち着いて行動することを求めても難しいものです。まずはしっかり遊び、エネルギーを発散させることで、落ち着いて周囲の話を聞ける状態をつくります。
また、社会性不足も重要な課題です。人間社会のルールや犬同士のルールを学ぶ機会が少ないと、人や犬に対する恐怖心が強くなり、それがさまざまな問題行動につながります。当社では、犬同士の関わりや人との触れ合いを通じて社会性を育み、恐怖心を減らしていくことを大切にしています。
――犬の幼稚園では、どのようなことを重視されているのでしょうか。
犬は幼い頃ほど好奇心が高く、新しいことを受け入れやすい時期です。一方で成長するにつれて恐怖心が強くなり、新しい経験を受け入れにくくなっていきます。
そのため、小さいうちにさまざまな経験を積ませることが重要です。犬同士で遊びながら距離感を学び、人との関わり方を覚えることで、将来的に落ち着いて暮らせる犬へと成長していきます。
当社では犬の状態を見極めながら、それぞれに合った方法で社会性を身につけられる環境づくりを行っています。
恐怖心から始まった犬との人生
――この業界に入られたきっかけを教えてください。
実は、犬が好きだったからというよりも、犬への恐怖心がきっかけでした。
3歳頃に祖母が飼っていたスピッツに手を噛まれた記憶があり、それ以来犬が怖かったんです。ただ、怖い一方でかわいいという気持ちもありました。どうすれば触れるのか、どうすれば仲良くなれるのかを知りたくて犬について調べるようになり、いつの間にか夢中になっていました。
小学校や中学校の卒業アルバムには将来の夢として「犬屋さん」と書いていました。その後、トリミング専門学校へ進み、ペットショップでトリミングや販売、犬の育成に携わるようになりました。
仕事をする中で強く感じたのが、犬の社会性の重要性です。販売前の子犬たちにトイレや犬同士の関わり方を学ばせる仕組みを取り入れたところ、非常に飼いやすい犬へ育っていきました。この経験が、現在の幼稚園事業の原点になっています。
犬の社会が失われた今、人が教える時代へ
――事業に込めている想いを教えてください。
会社として掲げているのは、「吠える・噛むから飼い主を救うこと」と「犬の心と体の負担をゼロにすること」です。
現在の日本では、犬同士が自然に社会を学ぶ環境がほとんどなくなっています。かつては犬同士で遊びながら噛む力加減や距離感を学んでいましたが、今はその機会が少なくなっています。
本来であれば犬同士の関わりの中で覚えることを、人が教えなければならない時代になりました。遊び方や食事との向き合い方、人との関係づくりなどを適切に教えなければ、犬にも飼い主にも負担が生まれてしまいます。
実際に幼稚園へ通った犬の飼い主からは、「初めて落ち着いて寝てくれた」「初めてゆっくり撫でることができた」といった声をいただくことがあります。犬が落ち着き、飼い主が安心して一緒に過ごせるようになることが何より嬉しい瞬間です。
理念を共有し続けることで判断力を育てる
――社員とのコミュニケーションで大切にしていることは何ですか。
大切にしているのは、理念を日々共有し続けることです。
当社ではスタッフ全員にコーポレートブックを配布し、毎日その内容を読み合わせています。単に読むだけではなく、その日の出来事と結び付けながら意見交換を行い、内容を振り返ります。
犬と向き合う仕事では、日々さまざまな判断が求められます。その都度指示を待つのではなく、理念やミッションを判断軸として自ら考えられる人材になってほしいと考えています。
また、採用においても経験や成績だけを重視しているわけではありません。実際に、専門学校時代は決して優等生ではなかったスタッフが、今では大きく成長し、売上面でも成果を出しています。
その経験から感じたのは、人が成長できないのではなく、教える側にも改善の余地があるということです。理念を共有し、一人ひとりに合った伝え方を工夫することで、人は大きく成長できると考えています。
全国へ広げたい“幼稚園とトリミング”の仕組み
――今後の展望について教えてください。
現在はホームセンター内で店舗を運営していますが、将来的にはもっと身近な場所で犬たちが集まれる環境を増やしていきたいと考えています。
特に幼稚園とトリミングを組み合わせた仕組みを全国へ広げていきたいですね。
子犬にとってシャンプーやトリミングは大きなストレスになることがあります。しかし、幼稚園で遊びながら少しずつ慣れていけば、人に触られることやお手入れそのものを自然に受け入れられるようになります。
犬たちが心身ともに負担なく成長し、人間社会の中で無理なく暮らしていける環境を全国に広げていくことが今後の目標です。
――経営において譲れないことは何でしょうか。
売上や利益だけを追い求める経営はしたくありません。
もちろん会社として利益は必要ですが、それは結果としてついてくるものだと思っています。40年以上積み重ねてきた経験を社会へ広げ、多くの人や犬の役に立つことが先にあるべきだと考えています。
そして何より大切なのは、一緒に働いてくれているスタッフです。理念を共有しながら共に取り組む仲間たちが幸せであること、そして全員が豊かになれる会社であること。この想いだけはこれからも変わることはありません。