森とともに生きる別荘地の未来――小さな管理会社が描く奥蓼科の可能性
株式会社ヴィラ奥蓼科 代表取締役社長 志村 双葉氏
株式会社ヴィラ奥蓼科は、長野県の奥蓼科に位置する別荘地を管理する企業です。標高の高い自然環境のなかで、別荘地の維持管理や地域との関わりを担いながら、その価値を守り続けています。本記事では、幼い頃から親しんできた奥蓼科の土地との縁をきっかけに父親から経営を引き継いだ代表の志村双葉氏に、別荘地を取り巻く時代の変化や、地域とともに歩む未来などについて伺いました。
医師たちの想いから始まった奥蓼科の別荘地
――別荘地が誕生した背景についてお聞かせください。
当社が管理している別荘地は、長野県茅野市の奥蓼科という場所にあります。現在はこぢんまりとした別荘地ですが、もともとは約65年前に医師団体が開発したものです。
当時、その医師たちは「心身の健康には自然が重要である」という考えを持っており、そこからこの土地を見つけました。まだ何もない山林の状態だったため、木の伐採や整地から始め、さらに治水の整備、水道の確保までを行いながら別荘地を作り上げていったそうです。山の奥から水源を確保し、そこから水道管を引いて供給するなど、当時としては大変な事業だったと思います。
小さな組織だからこそできる別荘地運営
――現在の運営体制について教えてください。
当社は非常に小さな組織です。社員という形ではなく、役員3名ほどで運営しており、夏の繁忙期には清掃業務や施設管理業務などが増えるため、地域の方々に協力していただきながら対応しています。また、森林の管理については専門的な知識が必要になるため、木材関連の業務を行っている方にも協力をお願いしています。
――志村社長が経営を引き継いだ経緯を教えてください。
私の父は銀行員だったのですが、銀行のお客様としてこの別荘地の管理会社があり、そのご縁から関わるようになりました。父自身もこの別荘地に別荘を建てており、私は子どもの頃からここに通っていました。
ただ、私自身はもともと東京で働いてきており、別荘管理の仕事に関わる予定はありませんでした。しかし父が銀行を辞めるタイミングでこの管理会社を引き継ぐことになり、その流れで私に話が回ってきました。
正直に言うと、当時は別荘管理会社の知識があったわけではありませんし、積極的にやりたいと思っていたわけでもありません。ただ、幼い頃から慣れ親しんできた土地でもあり、父から託されたこともあって、引き受けることになりました。今ではこの場所の価値を守ることが、自分の役割だと感じています。
――別荘地の管理で特に大変なことは何でしょうか。
森林管理は特に大変な仕事です。木は年々成長しますし、景観の問題などで「この木を切ってほしい」という相談を受けることもありますが、この地域は国定公園内にあるため、自由に伐採することはできません。
直径が一定以上の木は簡単には切れませんし、伐採する際には申請などの手続きが必要です。個人の敷地内であっても、景観だけの理由で自由に木を切れるわけではありません。そのため、専門家と相談しながら少しずつ管理していく必要があります。
また、この別荘地では山の奥に専用の水源を持っており、そこから水道管を引いて各別荘に水を供給しています。水道事業としての管理が必要になるため、毎年の報告や定期的な更新手続きなども行わなければなりません。「別荘管理」と聞くと楽そうに思われることもありますが、実際には、維持のための多くの作業がある仕事です。
奥蓼科の魅力と別荘の新しい使い方
――奥蓼科の魅力について教えてください。
最大の魅力は、やはり気候です。標高が高いため、夏でも気温は20度前後で湿度も低く、とても快適です。夜はクーラーを使わなくても眠れるほど涼しく、朝は肌寒いくらいの爽やかな空気を感じられます。
都市部では夏の暑さが年々厳しくなっていますが、この地域では自然の涼しさを感じながら過ごすことが可能です。実際に一泊していただくと、その違いを体感していただけると思います。
――近年のニーズの変化についてはどのように感じていますか。
最近は、「別荘」という言葉よりも「二拠点生活」という形で興味を持つ方が増えているように感じます。仕事の拠点と生活の拠点を分けて、夏のあいだはこちらで仕事をするといったスタイルです。
そのため、私が社長になってからは、インターネット環境の整備にも取り組みました。標高の高い場所ですので簡単ではありませんでしたが、現在では通信環境が整い、仕事をしながら滞在できる環境が整っています。
別荘というと年に数回しか使わないというイメージがありますが、二拠点生活の場合は長期間滞在することもあるでしょう。そうしたライフスタイルに対応できる環境を整備していくことも、当社の重要な役割だと考えています。
地域とともに別荘地の未来を考える
――経営者としての課題感はありますか。
私にとっての大きな課題は、後継者問題です。次の社長が決まっているわけではないため、この別荘地の価値をどのように維持していくのかを考えなければなりません。
理想は大きな別荘地を運営する会社に引き継いでもらうことですが、さまざまな事情もあり、簡単ではありません。そのため、同じような規模の別荘地を運営している方々と連携しながら、新しい可能性を模索しています。
――今後の取り組みについて教えてください。
一つは、この場所の認知を高めていくことです。奥蓼科はとても良い環境の地域なのですが、軽井沢などと比べると知名度はまだ高くありません。そのため、SNSなどを活用して情報発信をしていくことにも取り組み始めています。
また、最近の若い世代は家をもう一つ所有することにあまり魅力を感じない方も多いように感じています。そのため、所有だけでなく、レンタルや短期利用など時代に合わせた形で別荘を活用する方法も考えていく必要があります。
私は小さな別荘管理会社の経営者ではありますが、この地域の活性化のために何か役割を果たせればと思っています。そしてなにより、多くの方に奥蓼科の魅力を知っていただきたいんです。ですので、夏の奥蓼科の快適さを、ぜひ一度、多くの方にご自身の身体で実感していただければと思います。