地方のつながりを力に変える――中小企業の働き方支援で新たな業界づくりに挑む
一般社団法人中小企業働き方支援協会 代表理事 石井聖博氏
一般社団法人中小企業働き方支援協会は、地域に根ざした企業同士のネットワークを活かしながら、中小企業の働き方改革やDXの推進を支援する活動を行っています。その背景には、地方における情報格差への強い問題意識と、地域密着企業だからこそ果たせる役割への確信がありました。今回は石井聖博氏に、協会設立の経緯や事業の特徴、今後の展望について伺いました。
目次
地方の中小企業に、必要な情報と支援を届けるために
――現在の事業内容について教えてください。
もともと私は、4代目として家業に戻りました。創業から115年になる会社で、始まりは文房具店です。私が戻った20年前は「石井事務機センター」という社名で、地域の企業に事務機やオフィス用品を販売する会社でした。
ただ、当時の事務機業界はかなり厳しい状況にありました。ネット通販の台頭や官公庁需要の減少もあって、売上はどんどん下がっていました。このまま事務機を売るだけでは厳しいと感じ、そこから「働き方そのものを支援する会社」に変えていこうと考えたんです。そこで社名も変え、良いツールやサービスを自社で実際に使い、自分たちで活用事例をつくったうえで、お客様に提案するスタイルへと業態を変えていきました。
そして、この取り組みを岡山だけで終わらせるのではなく、全国に広げたいという思いが強くなりました。ただ、自分たちがそのまま全国展開するのではなく、それぞれの地域でお客様との関係性を築いている企業と連携した方が、もっとスピード感を持って広げられるのではないかと考えたんです。そうして立ち上げたのが、この中小企業働き方支援協会です。
地域密着の信頼関係こそ、私たちの一番の強み
――事業の特徴や強みはどのような点にありますか。
この協会の一番の強みは、各地域でしっかり顧客基盤を持っている企業が集まっていることです。現在、会員企業は50数社ありますが、その半数以上が100年企業です。平均社歴も80年以上あります。つまり、それぞれの会社が長い時間をかけて地域のお客様と信頼関係を築いてきたわけです。
各社が持っている顧客基盤を合わせると、全部で20万社ほどになります。これは非常に大きな価値だと思っています。地方で良い商品やサービスを広げようとしても、内容が良いだけではなかなか進みません。特にベンチャー企業や新しいサービスを持つ会社は、地方展開にかなり苦労されています。結局、関係性がないと話を聞いてもらえないんです。
でも、地域に根ざした企業が「これは良いサービスだから一度聞いてみてください」と橋渡しをすれば、話を聞いてもらえる場をつくることができます。私は、自分たちの業態変革を通じて、地域で築いてきたつながりにはものすごく価値があると実感しました。
だからこそこの協会は、地方で信頼関係を持っている企業と、良い商品やサービスを持ちながら地方展開に課題を抱えている企業をつなぐプラットフォームなんです。そこに私たちの役割があると思っています。
情報格差を埋め、働き方を支援する業界をつくりたい
――理念やビジョンについて教えてください。
私は、地方の中小企業ほど良い情報やサービスが届きにくいと強く感じています。DXもそうですが、都市部と地方ではどうしても情報格差が広がりやすいんです。そのときに、誰がそれを支援していくのかと考えたら、やはり地域に根ざして事業をしてきた会社が、その役割を担うべきではないかと思いました。
地域密着のBtoB企業が、一社でも多く働き方を支援する立場になり、良い情報やサービスを地域に届けていく。そういう動きが広がれば、地方の情報格差は少しずつでも埋まっていくはずです。それだけではなく、そうした企業自身にとっても新しい収益や付加価値につながりますし、その先には地域全体の活性化もあると思っています。
この活動は、誰かを困らせるものではありません。どこかの業界をつぶすわけでもないし、競合を生むわけでもない。みんなが良くなっていく活動だと私は思っています。だからこそ、良い商品やサービスを見つけてきて、それを正会員の皆さんに届け、その先のお客様に一社でも多く活用していただくことが、私たちの役割だと考えています。
それに、私は「働き方を支援する業界」そのものをつくりたいと思っているんです。福利厚生、人材育成、採用、DXといった個別の領域はありますが、「働き方全体を支援する業界」としては、まだ確立されていないと感じています。特に地方の中小企業に対して、その支援を担う新しい業界をつくっていくことに、大きな使命感を持っています。
少人数だからこそ、事業の意義を共有することを大事にしている
――組織運営について教えてください。
協会の運営自体は、私と社員2人で行っています。ただ、実際にはそれだけではなく、フリーランスの方々にも関わっていただきながら体制を広げています。扱っている商品やサービスは多いですし、それを広げていくために営業パートナーや営業フリーランスの方々とも連携しています。
――社内やメンバーとのコミュニケーションで大切にしていることは何でしょうか。
日々の業務だけを見ると、連絡調整やアポイント、イベントや交流会の企画など、どうしても細かい仕事が多くなります。でも私は、その一つひとつの業務の先に、どんな意味があるのかをしっかり共有することを大事にしています。
つまり、この活動がどう広がっていくのか、どう世の中に貢献していくのかという事業の意義です。目の前の作業だけではなく、自分たちがやっていることが社会にどうつながっているのかを理解してもらうことが大切だと思っています。私はそこを、できるだけ伝えるようにしています。
仲間を増やし、活動の認知を広げていきたい
――今後の展望や現在の課題について教えてください。
今後やっていきたいことはとてもシンプルで、良いコンテンツを一社でも多く世の中に広めていくことです。そのためには、もっとこの協会の認知度を上げて、会員企業や仲間を増やしていきたいと思っています。今の一番の課題も、まさにそこです。
今、会員企業は事務機業界だけではなく、保険代理店や広告代理店、税理士法人などにも広がっています。何をきっかけにお客様とつながっているかはそれぞれ違いますが、その先で「働き方」というテーマの付加価値を提供できるようになることは、これからますます重要になると思っています。
既存事業だけでは厳しくなっていく会社も多い中で、働き方支援という新しい価値を持てるようになることは、自社にとっても、お客様にとっても、地域にとってもプラスです。今後さらに求められる分野だと思っていますので、そこをもっと訴えていきたいです。