介護の先にある「その人らしい人生」を支えたい――第三の家族として寄り添う介護を目指して

株式会社ぶらんち 代表取締役/特定非営利活動法人ユアライト 理事長 佐藤 美鈴氏

「介護は制度の中だけで完結するものではなく、一人ひとりが自分らしく生きるための手段であってほしい」。そんな想いを胸に、株式会社ぶらんちを立ち上げた佐藤美鈴氏。ヤングケアラーとして過ごした幼少期から介護業界で積み重ねてきた経験を糧に、「第三の家族」という独自の理念を掲げ、利用者だけでなく地域全体を支える仕組みづくりに挑戦しています。本記事では、創業の背景や事業への想い、組織づくりについて伺いました。

制度ではなく、その人らしい人生を支える介護を目指して

――株式会社ぶらんちを設立された経緯を教えてください。

私は10歳の頃から母の介護をしていて、ヤングケアラーとして育ちました。一度は介護から離れようと思いましたが、ご縁が重なり、登録ヘルパーとして働き始めたことがきっかけで、この仕事の魅力を知りました。その後、現場だけでなく法人営業や経営企画も経験する中で、「制度ありきではなく、その人らしい人生を支える介護を実現したい」という想いが強くなり、12年前に株式会社ぶらんちを立ち上げました。

――現在の事業内容と、強みを教えてください。

現在は訪問介護を中心に、在宅での看取りや医療的ケアにも力を入れています。地域密着で取り組んできたことで、ご利用者様からの紹介が多いことも特徴です。また、登録ヘルパーではなく全員が社員で、その半数ほどが20代という組織体制も強みの一つです。世代を超えて支え合いながら、一人ひとりに寄り添う介護を大切にしています。

「第三の家族」として寄り添うことが私たちの使命

――会社として大切にしている理念や、経営者としての原点について教えてください。

私たちが何より大切にしているのは、「第三の家族」という存在であることです。

介護というと「相手に尽くす仕事」という印象を持たれがちですが、まずは自分自身を大切にし、自分が満たされていることが大前提だと考えています。自分に余裕があるからこそ、そのあふれた気持ちを利用者さんへ届けられると思うんです。

私たちは家族ではありません。でも、単なるサービス提供者でもありません。「制度だからここまでです」と線を引くだけではなく、「この方法なら実現できますよ」「こういう社会資源を使えば希望に近づけますよ」と一緒に考える存在でありたい。その距離感こそが、第三の家族だと思っています。

会社を立ち上げたきっかけも、実は不思議なご縁でした。介護業界で長年経験を積み、そろそろ新しい挑戦をしようと思っていた時に出会った方から、「自分の理想の介護を形にしてみたら」と背中を押していただきました。その方が出資までしてくださり、会社を立ち上げることができたんです。多くの方とのご縁に支えられながら、自分が理想とする介護を形にする一歩を踏み出しました。 

一人ひとりの声を尊重し、全員で会社をつくる組織へ

――組織づくりや、社員の皆さんとの関わりで大切にしていることを教えてください。

私は、立場や年齢、経験年数で意見の重みが変わる組織にはしたくありません。

もちろん経営者として判断を下す場面はありますが、できる限りスタッフ一人ひとりが「やってみたい」と思うことは吸い上げたいと考えています。「若いからまだ早い」「経験が浅いから難しい」という考え方はありません。経験が少なくても、その人だからこそ思いつくアイデアがありますし、それが働きやすさや業務改善につながることもあります。だからこそ、誰もが遠慮なく発言できる環境を大切にしています。

実際に採用でも、その文化が良い循環を生んでいます。若いスタッフが自らSNSで介護の魅力や仕事の様子を発信し、その投稿を見て「この会社で働きたい」と応募してくださる方も増えてきました。ただ個人任せにするのではなく、「どのような発信が会社の想いを伝えられるのか」を一緒に考えながら進めています。

スタッフ一人ひとりが主体的に発信する文化が、採用だけでなく、会社全体の成長にもつながっていると実感しています。 

現在は30名ほどの組織になりましたが、これから一緒に働きたいのは、介護経験の有無よりも「なぜ介護が社会課題なのか」と疑問を持ち、自分なりの考えを発信できる人です。

介護というと、おむつ交換や車椅子介助だけを思い浮かべる方も多いと思います。でも、それは仕事の一部に過ぎません。実際にはさまざまな役割や専門性があります。まずは現場を知り、その中で自分が興味を持った分野を深めていってほしい。その積み重ねが、介護業界全体をより良くする力になると信じています。

地域全体を支える仕組みをつくり、介護があっても安心して暮らせる社会へ

――今後挑戦していきたいことや、描いている未来について教えてください。

これまで長く介護保険制度の中で仕事をしてきましたが、介護は当事者だけの問題ではありません。家族や友人、職場など、多くの人の暮らしにも影響を与えます。それにもかかわらず、その周囲の人を支える仕組みは、まだ十分とは言えないと感じています。

だから私は、介護が始まっても家族が安心して仕事や生活を続けられる伴走者でありたいと思っています。行政や地域包括支援センターとも連携しながら、介護があっても今までの生活をできるだけ維持できるよう、情報提供や相談支援を充実させていきたいです。100%元通りとはいかなくても、多くの時間を自分らしく過ごせる社会を目指しています。

さらに力を入れたいのが介護予防です。

そこで、2026年5月に特定非営利活動法人ユアライトを設立しました。

そして、今、港区の委託事業として「シニア食堂」にも取り組み、地域のコミュニティづくりを進めています。また、クリニックとも連携し、「外出する」「人と話す」「少し運動する」といった日常の積み重ねが介護予防につながることを、感覚ではなく数値として示せる仕組みづくりにも挑戦しています。この取り組みが形になれば、港区だけでなく、ほかの地域にも広げていきたいと考えています。

自分らしく生きることを大切にしながら、人の痛みに寄り添い続けたい

――休日はどのようにリフレッシュされていますか。

休日は料理をしながら日本酒を楽しむ時間が好きです。また、旅行先では伝統工芸や文化に触れ、職人さんのお話を伺うことも楽しみの一つです。各地で出会った器を自宅で使いながら、日本の文化を身近に感じる時間が、日々の活力になっています。

――最後に、今後目指していきたいことを教えてください。

利用者さんから「マザー・テレサみたい」と言っていただくことがあります。その想いに恥じないよう、一人ひとりが最期まで自分らしく生きられるよう寄り添っていきたいです。また、キングコングの西野亮廣さんのように、人の痛みに目を向けた仕組みづくりにも学びを感じています。

これからも「第三の家族」という理念を大切にしながら、一人ひとりが自分らしく人生を歩める社会の実現に向けて、地域に根差した取り組みを続けていきます。 

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