犬と人がつなぐ学びのコミュニティ――スクールドッグが支える教育の新しい形
日本スクールドッグ協会/Social Animal Bond 代表理事 青木潤一氏
日本スクールドッグ協会は、犬とのふれあいを通じた動物介在活動・動物介在教育の理解と普及を目指す団体です。協会として資格研修や実践報告の共有を進めながら、全国の学校と事業者をつなぐ役割も担っています。本記事では、代表の青木氏に、事業を立ち上げた背景や組織づくり、今後の展望について伺いました。
スクールドッグが生み出す“新しい教育支援”
――現在の事業内容と取り組みの特徴を教えてください。
当協会の活動は、「事業の実践」と「人材育成」の2つが軸です。
もともとはソーシャルアニマルボンドという個人事業から始めましたが、学校で犬と子どもが関わることで教室が和らぎ、不登校や孤立の改善が見られた経験が協会設立の背景にあります。
現在はスクールドッグの導入に加えて、ハンドラーの研修や資格付与を行い、活動を始めた方への広報支援や機会づくりにも取り組んでいます。
――スクールドッグ協会とソーシャルアニマルボンドの関係性はどのようなものですか?
私は当協会と個人事業主の両方を運営しています。
当協会は商標管理と人材育成を担う組織で、加盟した方は「スクールドッグ」という名称を使用できます。安易に「犬を入れれば良い」という導入が進んでしまうと、子どもの安全と犬の健康・福祉が守れなくなるため、専門知識を持つ方だけがスクールドッグを名乗れるよう商標登録を行っています。
私はその加盟者の一人でもあり、同じ立場で活動している状態です。協会は枠組みをつくる役割を担い、ソーシャルアニマルボンドは現場で実践する事業体として動いている、と捉えていただくと分かりやすいと思います。
教員から起業家へ――事業を始めた原点
――事業を始めようと思われたきっかけを教えてください。
教員1年目に不登校の生徒と出会ったことが原点です。時間をかけて関係を築き、その生徒は中学校を卒業できましたが、高校では環境が変わった途端に馴染めず自主退学という結果になってしまいました。
この経験から、「先生との相性」で学校に行けなくなる属人的な構造に強い課題を感じたんです。
そんなとき、東京の小学校が犬を介在させた教育を行っていると知り、私も犬を迎えて勤務校で3年間活動してみました。子どもたちの変化を目の当たりにし、これを“仕組み”として広げたいと考えたことが起業のきっかけです。
――犬を介在させる教育に着目した理由は何でしょうか。
犬と人間の関係には、生物学的な根拠があります。双方が信頼し合うとオキシトシンが分泌されることが確認されており、現時点では、多くの哺乳類の中で犬と人間の組み合わせでしか確認されていません。
犬は家庭ではパートナーとして、学校ではスクールドッグとして役割を切り替えられる点も特徴です。衛生面の課題や飼育負担を抱える他の動物とは違い、教育現場で継続的に活躍できる唯一の存在だと考えています。
――なぜ岡山に移住されたのですか?
岡山には縁もゆかりもありませんでしたが、「百年の森林構想」を掲げる西粟倉村の考え方に強く惹かれました。教育も子育ても、成果が見えるのは長い時間が経ってからです。100年という視点で未来を描く姿勢が、自分の事業の根本と重なり、ここでなら挑戦できると感じました。
また、当時の私は経営の知識も資金も持っていなかったため、地域おこし協力隊として事業づくりに挑戦できる環境が整っていたことも移住の大きな決め手になりました。
広がりを支える仕組みづくりと組織運営
――ハンドラー育成で感じている課題はありますか?
加盟者は40名ほどいますが、実際に現場で活動できている方は限られています。
その理由の一つが「動物取扱業第一種」の取得です。生き物を扱う営利活動は国の登録が必要で、実務経験などハードルが高く、特に一般の個人事業主にとっては負担が大きいものです。
一方で、当協会の資格を持ち、1年間安全に犬を飼育した記録を提出すれば、実務経験と同等に扱う動きも出てきています。活動の門戸が少しずつ広がっており、この流れをさらに整えていきたいと考えています。
未来への展望――100年先を見据えた拠点づくり
――今後の事業展開や新しく取り組みたいことはありますか?
教育現場は予算が限られており、当協会の事業だけで持続的に成長するのは難しい状況です。
そこで今は、西粟倉村にコミュニティスペース兼研修所、ドッグラン、ペットメモリアルを備えた拠点づくりを計画しています。地域の方や高校生にも力を貸していただきながら、犬と人が集まれる場所を整えたいと考えています。
また、企業のCSRと結びつけ、犬のハーネスにスポンサー名を入れるなど、学校の負担を抑えた継続的な仕組みも模索中です。スクールドッグを通じて、子どもたちが自分の存在価値に気づき、安心して過ごせる環境を広げていきたいと思っています。
――最後に、読者の方にメッセージをお願いします。
日本の課題は多様ですが、次世代を育てる環境をどう守るかは共通のテーマです。
学校で過ごす子どもたちが、少しでも前向きに“一歩進んでみよう”と思える場所を増やしていきたいので、皆さんにも温かく見守っていただければ嬉しく思います。