職人が“店を持つ”という選択──江戸切子の価値を、自らの手で伝える
株式会社キヨヒデガラス工房 代表取締役 清水 秀高氏
江戸切子の製造販売を手がける株式会社キヨヒデガラス工房。代表の清水秀高氏は、職人でありながら実店舗を構え、自ら顧客と向き合う道を選んできました。下請け中心だった時代から店舗販売へと舵を切り、事業の在り方を大きく変えてきた同社。本記事では、その歩みと現在地、そして未来への考えについて話を伺いました。
江戸切子を「作って売る」までを一貫して担う工房
――現在の事業内容と、会社の特徴について教えてください。
基本的には江戸切子の製造販売を行っています。店舗での販売と卸があり、最近は体験も一部で行っています。売上構成としては、個人のお客様と法人がだいたい半々くらいですね。
うちの特徴としては、職人自身が実店舗を持っている点だと思います。江戸切子の職人で、きちんとした店舗を構えて販売しているところは多くありません。また、江戸切子の職人が直接教える体験も少ないので、その点も特徴の一つだと思います。
――価格帯や顧客層についてはいかがでしょうか。
商品は安いもので1万円台から、高いものだと10万円を超えるものもあります。贈答用として購入される方が多いですね。個人利用もありますが、ある程度「江戸切子はこれくらいの価格帯」という認識を持って来られる方が多い印象です。
独立と店舗開設がもたらした大きな転換点
――これまでどのような道のりを歩み、現在の形に至ったのでしょうか。
最初は個人事業主として独立し、その後、父の会社に入った時期もありましたが、最終的には再び個人に戻り、自分の事業を法人化しました。
師匠から「この仕事は独立しないと旨みがない」と言われていたこともあり、いずれは独立したいと考えていました。30代前半で踏み切らなければ、ずるずると社員で終わってしまうと思い、決断しました。
――事業を続ける中で、特に大きな転機になった出来事は何だったと感じていますか。
一番大きいのは、2020年に店舗を持ったことです。それまでは工房のみで、下請けが中心でした。店舗を構えてからは、下請けの割合が1~2割程度まで減り、店舗販売と卸がそれぞれ4割ほどを占める形に変わりました。売上面での変化は非常に大きかったですね。
少人数だからこその距離感と役割分担
――現在の組織体制について教えてください。
取締役として妻が入っており、店舗の接客を任せています。ほかに業務委託の職人が1名います。基本的には少人数でやっていますね。
――組織運営で意識していることはありますか。
今は規模が小さいので、コミュニケーションというより役割分担を明確にすることを意識しています。生産量には限界があるので、人を増やすかどうかも含めて慎重に考えています。
生産量の限界と、次の収益モデルへの模索
――今後の展望や課題について教えてください。
このまま同じことを続けていけば、3年後で売上は1.5倍くらいが限界だと思っています。生産量がすでにギリギリなので、これ以上伸ばすには人を増やす必要があります。ただ、店舗売上は月によって波があり、安定しないのが課題です。
そのため、卸やレンタルなど、一度作ったものが継続的に収益を生む仕組みを模索しています。オンライン販売も強化したいですが、在庫管理まで手が回っていないのが現状です。
――業界全体の変化についてはどう見ていますか。
昔は「作れば売れる」時代でしたが、今はそれだけでは厳しいと思います。需要がないものは残らない。国内で難しければ海外も視野に入れる必要がありますが、簡単ではありません。いかに需要を掘り起こすかが重要だと思います。
仕事の外にある“走る時間”が心を整える
――お仕事以外の時間はどのようにリフレッシュされていますか。
定休日には妻とドライブや外食に出かけることが多いですね。個人的な趣味としては、夏はビーチバレーやバイクでサーキットを走ることもあります。冬はスノーボードですが、最近は年に1回行ければいい方です。
――将来的に目指している姿はありますか。
上場したいという考えはありませんが、事業としては少しずつでも広げていきたいと思っています。稼ぐこと自体が目的というより、使うために稼いでいる感覚に近いですね。自分が面白いと思えることや、納得できる形でお金を使える状態をつくりたい。そのためにも、年商や事業規模は現実的に伸ばしていきたいと考えています。
最終的には、どんな仕事でも大切なのは「人」だと思っています。この人から買いたい、この人と仕事をしたいと思ってもらえるかどうか。商品や技術だけでなく、向き合い方そのものが価値になる。これからも、人との関係を大切にしながら、自分なりのやり方で江戸切子と向き合い続けていきたいと考えています。