子どもをだまさない。遊びの場から「好き」と未来をひらく
株式会社知育ラボ 代表取締役社長 植村 瑞江 氏
商業施設や住宅展示場、自治体などで行われる子ども向けイベント。その企画を支えているのが株式会社知育ラボです。子ども向けでも妥協しない姿勢はどこから来たのか。さらに伝統工芸の危機に挑む新事業の構想まで、植村氏に伺いました。
地域に眠る学びを、遊びに翻訳する
——御社の事業について教えてください。
商業施設さんや住宅展示場、自治体さんなどの子ども向けイベントを主に企画しています。子どもに特化したイベント企画会社は意外と少なく、私たちは16年目に入りました。全国で年間300本ほど企画しています。
——どのような理念を掲げて事業を展開されていますか。
理念として掲げているのは「子どもだましを一切しない」ことです。子どもは分からないから、と質を落とす妥協はしません。地域の慣習や文化など、その土地ならではの要素も大切にしています。
また、日本の教育や地域の取り組みは、グローバルに見ると遅れている部分が多いと感じています。世界の最新の地域情報を集め、日本の子ども向けにカスタマイズし、遊びの中で身につけられる形にしています。
無数の選択肢がある時代だからこそ、子どもの「好き」「気になる」を見つけられる環境を用意し、見つけたら見守って伴走する。そこが私たちのミッションです。
IRの現場から、子どもの体験づくりへ
——どのようなキャリアを経て起業に至ったのでしょうか。
銀行のシステム部で勤務した後、IR(インベスターリレーションズ)をしていました。決算資料を作り、説明会の段取りやシナリオづくり、機関投資家対応などを、日本上場企業と米国上場企業で経験しました。
ただ、3か月ごとの決算に合わせて国内外を飛び回る働き方では、子育てと両立しにくい。辞めて子育てに専念するつもりでしたが、仕事もしたい。そこで「子どもはどう育てたらいいのか」を徹底的に調べたところ、日本の子どもは本物に触れる体験が少ないと分かりました。
最初に形にしたのが、3歳までの子どもが入れるクラシックコンサートです。超一流の方に、超一流のホールで子ども向けに演奏していただく企画でした。サントリーホールを借りるなどの段取りに法人が必要で、急遽会社をつくりました。
娘に体験させたいものがないなら、自分でつくろうと思ったのが出発点です。結果として52公演を行い、2019年まで続けました。
子どもは目の前の演奏の「音圧」を繊細に感じ取れます。感覚が鋭い時期に本物に触れることは大切で、耳が育つと、言語の習得が早くなるなどの副産物も実感しています。
俯瞰できる組織で、伝統工芸の未来もつくる
——組織運営について教えてください。
現場で子どもと対面するスタッフは、こちらの迷いや不安が伝わってしまいます。だから、重要視しているのは、分からないことや迷いはその都度すぐ解決し、社内で共有できるような環境にすることです。
外国人スタッフも多いので、フラストレーションが溜まらないよう、みんなが会社を俯瞰できることも大切にしています。結果として、スタッフが辞めない会社になっていると感じますね。
また、リフレッシュの意味も込めて、月に1回は高いところのレストランで食事をします。夜景を見て視界が広がると、悩みが小さくなったり、言いにくかったことを言えるようになったりするんです。
——今後の展望、そしてご自身が大事にしていることを教えてください。
未来に向けては、15周年を機に「工芸コード」を立ち上げ、伝統工芸の職人さんが儲かる仕組みづくりを始めました。職人さんが儲かれば弟子が来て、産地がにぎわう。その先に、伝統工芸の「キッザニア」のような体験拠点をつくりたいと考えています。
2030年までに技の66%がなくなるというデータもあり、後継者不足や高齢化、温暖化による原材料不足など、急ぐ理由があるのです。
職人さんへのアクセスは可能ですが、作ってくださるのは現時点で約20%。まずは30%を目指し、成功事例が見えれば周囲も動くと考えています。価格を上げたくないという美学もあるので、信託の仕組みを使うなどして進めています。
個人的に大切にしているのは、本質に触れることと、好きなことを見つけたらそれを伸ばすことです。尊敬しているのはIIJ創設者である鈴木広一さんで、私に多くを教えてくれました。子どもも大人も「好き」と出会える場が増えるように、挑戦を続けていきたいです。