自分らしさを守りながら、最期まで「生きている」と思える暮らしを支える
有限会社永世会 代表 平野美紀子氏
有限会社永世会は、グループホームの運営を通じて、高齢者一人ひとりが「自分らしく生きる」暮らしを支えてきました。
効率や管理を優先するのではなく、これまでの生活や人とのつながりを大切にしながら、最期まで安心して過ごせる環境づくりに取り組んでいます。
本記事では、代表の平野美紀子氏に、事業の歩みや運営に込めてきた思い、組織づくりで大切にしている価値観、そしてこれからの展望についてお話をうかがいました。
目次
「自分らしく生きる」暮らしを支えるグループホーム運営
――現在の事業内容や、運営で大切にしている考え方を教えてください。
グループホームの運営を行っています。事業を始めたのは今から20年ほど前で、介護保険制度が整い始めた頃でした。当時は、高齢者が増えていく中で、家族が自宅で介護する形から、専門職が関わる形へと移行していく時期だったと思います。
その流れの中で介護という仕事に関わるようになり、実際に高齢者の方と日々を過ごすようになりました。
現場に入って強く感じたのは、高齢者の方と過ごす時間の穏やかさです。介護を「してあげる」という感覚よりも、人生の先輩と関わる時間が増え、そこから学ぶことや気づかされることが非常に多い仕事だと感じました。
人生の最終段階に近い時間を共に過ごし、その人の歩んできた背景や思いに触れながら関われることに、やりがいと意味を感じています。
運営で大切にしているのは、「私らしさ」と「共同生活」です。施設に入ることで、それまでの生活が途切れてしまうのではなく、できる限り今までの暮らし、例えば環境や外世界との繋がり等を続けられるようにしたいと考えています。
犬を飼っていた方であれば、犬と一緒に暮らすことができる環境を整えていますし、「これが欲しい」という声があれば、一緒に買いに行くこともあります。施設の中だけで完結する生活ではなく、暮らしの延長線上にある場所でありたいという思いがあります。
――他の施設とは違うと感じている特徴や、強みはどのような点にありますか。
入居者さんとスタッフの関係性が、家族に近い形で成り立っている点だと思います。
スタッフが子どもを連れてくることもあり、学校に行けない事情がある場合には、「ここにおったらいいやん」という空気があります。
入居者さんが子どもの勉強を見てあげたり、逆に子どもが入居者さんに教えてあげたりする場面もあります。こうした関わりは、あらかじめ決めた仕組みというより、生活の中から自然に生まれてきたものです。施設というよりも「暮らしの場」であるからこそ、人と人との距離が近くなり、日常の延長としての関係が築けているのだと思います。
現場に入って気づいた、介護という仕事の本質
――この事業を始めたきっかけと、実際に携わって感じたことを教えてください。
最初から自分が主体となって事業を始めようとしていたわけではありません。元旦那さんがこの事業を始める話を持ってきて、私が運営を任される形になりました。
人と関わることが好きだったことや、子どもが手を離れる時期だったこともあり、「やってみたい」という気持ちで現場に入りました。
実際に関わる中で、高齢者の方と過ごす時間の豊かさに気づきました。穏やかな時間が流れ、その中で人生の話を聞いたり、日々の小さな変化を一緒に感じたりする。介護というより、「一緒に生活をする」「人生の先輩と時間を共有する」という感覚に近い仕事だと思っています。
――経営者として歩む中で、転機になった出来事はありましたか。
大きな転機は、離婚をして事業を引き継いだときです。仕事内容そのものは変わらなくても、立場が変わり、精神的な重みは大きくなりました。すべてを自分で決めなければならなくなり、責任の重さを強く感じるようになりました。
また、後ろに男性がいるかどうかで、周囲からの見られ方が変わることも実感しました。そうした経験を通じて、「自分がやり切らなければならない」という意識が強くなり、経営者としての覚悟が固まったと感じています。
スタッフが笑顔でいられることが、良いケアにつながる
――組織運営で特に意識していることは何でしょうか。
一番意識しているのは、スタッフの状態です。スタッフが精神的に追い込まれている状態では、良いケアはできないと思っています。
そのため、日常的に声をかけ、雑談を交えながら、思い詰めすぎない空気をつくるようにしています。
「仕事だから我慢しなさい」「自分のプライベートや家族との時間を犠牲にしてまで仕事をしてほしい」という考え方は一切持っていません。それが「自分らしくいれるからこそ、いい仕事ができる」につながり、だから「仕事中は目の前の入居者さんの事を、本気で考えてあげてほしい」と、繰り返し伝えています。
また、基本にしている考え方は、「自分がされたら嫌なことはしない」ということです。
「自分だったらされていいのか」という問いを通して、相手の立場を想像する時間を大切にしています。
――一緒に働きたいと感じるのは、どのような人ですか。
一方的に「介護したい」という気持ちよりも、「入居者さんともスタッフとも、互いに助け合って生活していきたい」という視点を持っている人です。介護を押し付けるのではなく、自分の意志も他人の意志も尊重できる、たとえば食事の場面でも、「何でもいい」ではなく、「これとこれ、どっちがいい?」と選択肢を出しながら会話をつくる。そうした関わりができる人とは、長く一緒に働いていきたいと感じます。
――社内の雰囲気を一言で表すと、どんな言葉になりますか。
自分らしさを出せる、安心できる場所です。理念に「笑ってばかりいられない 怒る時も泣く時もあります」とあるのですが、普通の生活として感じられる喜怒哀楽を大切にしています。生かされているのではなく、「生きている」と感じてもらえる場所でありたいと思っています。
広げるよりも、深めていく介護のかたち
――今後の展望や、これから大切にしていきたいことを教えてください。
大きな展望を描くよりも、今を大切にしたいという思いが強いです。穏やかな環境の中で、入居者さんが落ち着いて暮らせること。それが続けばいいと考えています。
以前は事業を広げたいと思った時期もありましたが、今は一つの場所で、一人ひとりと丁寧に向き合うことを大切にしたいです。今後については、息子が関わってきているので、どうしていくかは息子に託そうと思っています。
――業界全体の変化について、どのように感じていますか。
効率化や省力化が進み、スタッフが楽になる仕組みが求められる時代になっています。その一方で、便利にとIT化に任せる故、入居者さんとゆっくり向き合う時間が減っているように思い、寂しさも感じています。
大手が増えていく中で、うちは同じ土俵で競う必要はないと思っています。その人らしさを守ること、尊厳を大切にすることを軸に、できることを続けていきたいです。
「やりたいことはやる」人生観が、仕事にもつながっている
――仕事以外でのリフレッシュ方法や、大切にしている時間を教えてください。
ウィングフォイルという、ウィンドサーフィンに似たスポーツをしています。4月から10月頃までは、川や海に行っています。旅行も好きで、海外にも行きます。船舶免許やダイビングの免許を取ったり、パラグライダーに挑戦したりもしています。
6年前に親しい友人を亡くしたことがきっかけで、「自分もいつどうなるかわからない。やりたいことはやろう」と思うようになりました。
そのためにも健康であること、病気にならないだけではなく「本当の健康」を意識して生活しています。
――そうした生き方は、仕事にどのように影響していますか。
やりたい事ができることに感謝し、全力を注ぐ為に日々の仕事をしている。そしてまた、仕事に精一杯向き合うからこそ自分の人生が楽しいと思える。という感覚です。満足しているからこそ感謝し、目の前の人と丁寧に向き合えるのだと思っています。