子どもたちへ安心を——笑顔で溢れる社会を目指し、「居場所」と「支援者」をつなぐ
一般社団法人Heart resQ 設立者 尾上 翼氏
一般社団法人Heart resQは、「子どもたちへ安心を」という想いのもと、子育て世帯や子どもたちがより笑顔になれる社会の実現を目指して活動している法人です。笑顔であふれる世界の実現に向けて、虐待予防支援・子どもの居場所づくり・支援者コミュニティの運営という3つの軸で取り組みを進めています。本記事では、設立者の尾上翼氏に、活動の全体像や今後の展望などを伺いました。
目次
「予防支援」「居場所づくり」「支援者コミュニティの運営」の3つを軸に活動
――現在取り組まれている事業の特徴について教えてください。
私たちは一般社団法人として、「子どもたちへ安心を」という理念のもと、誰もがSOSを発信しやすい環境を作り、子育て世帯や子供たちがより笑顔になれる状態を増やしていきたいと考えています。そのためにビジョンとして掲げているのは、「笑顔で溢れる社会」です。
事業としては、現在は「子どもたちを守るための予防支援事業」「子どもの居場所づくり事業」「支援者コミュニティの運営」の3つを軸にして活動しています。
――「予防支援事業」では具体的にどのようなことをされているのでしょうか。
自治体との関わりながら取り組みを進めています。例えば、奈良県の広陵町に「子ども・子育て委員会」が設置されており、そこで副会長をさせていただいています。
具体的には、自治体が子どもに関する取り組みをどう進めていくかを話し合う場で、児童虐待を受けた子どもたちとの関わりも含め、現状を踏まえたうえで、自治体の子育て政策に意見を出しながら、子育て環境づくりに携わっています。
また、当団体では「こころのはしわたし」というオンライン相談支援プラットフォームを運営していますが、こちらも予防支援にも関わる取り組みです。
他団体で厚生労働省が支援するオンラインチャットサービスがあり、その取り組みから課題として見えてきたのは、支援者の数が圧倒的に足りないことでした。子どもたちが相談しても100%返信が返ってくるわけではなく、実際に答えられているのは2〜3割程度という現状があるそうです。相談が必要な子どもはいるのに、支援側のリソース不足で対応が行き届いていない――ここをどうにかできないか、という問題意識がありました。
そこで、地域で活動している民間団体などの資源を活用しながら、「こころのはしわたし」というチャット式のプラットフォームで、相談者と支援をつなぐ「橋渡し」になれないかと考えました。「助けてほしい」と声を上げた子どもたちがプラットフォームにアクセスして支援者を選べたり、複数の支援者を選べることで孤立せずに相談できたり、そういった形を目指しています。
――「子どもの居場所づくり事業」についてもお聞かせください。
コロナ禍の時期に、小学校にタブレットが支給されるなどDXやプログラミングへの取り組みが進んだタイミングがありました。その際に立ち上げたのが、無料のプログラミング教室です。
子どもの居場所づくりで一番難しいのは「集客」だと思っています。そこで、無料で開講することで、地域の中に子どもたちが集まれる場所、居場所をつくれたらという狙いがありました。今はプログラミング教室自体は以前ほど活用されていない面もあるのですが、子どもたちが新たな子どもを呼んできてくれるような、地域の居場所として少しずつ根づいてきていると感じています。
「リアル×オンライン」と「中立性」が強み
――業界の中での強みはどこにありますか。
リアルな居場所と、チャット相談のようなオンライン上での活動、その両方をやっていることだと思います。
もう一つは、実際に虐待を受けた経験のある方がチームメンバーにいることです。団体としては、当事者だけで固まるのも、当事者がいないメンバーだけで構成するのも中立とはいえません。ちょうどイーブンなバランスで活動していることで、中立的な意見を出しやすい点が、他団体と比べたときの強みになっていると感じています。
「経営している感覚がない」——趣味の延長線上で続けてきた
――経営の道に進まれたきっかけはありましたか。
正直、私自身はあまり「経営している」という感覚がないんです。趣味の延長線上でずっとやっている感じです。好きでやっているので、「経営したい」と思って始めたわけではありません。
「よりみんなに喜んでもらえるように頑張りたい」というところから始まって、気づいたらここまで来ていた、という感覚です。
――活動のきっかけや法人化の経緯を教えてください。
活動のきっかけは、大学生の頃に「虐待」という言葉を初めて知ったことでした。なにか自分にできることはないかと思ったのが始まりです。
法人化が必要になったのは、自治体の子育て政策などに携わるようになった段階でした。活動を拡大していくために必要な通過点として、法人化もしていこうという流れでした。
――これまでのキャリアで、ターニングポイントとなったできごとはありますか。
3つあります。1つ目は、19歳のときです。Instagramで「携帯の機種を安く買い替えられます」といったストーリーズが流行った時期があり、それに誘われて面白半分で行ったことがありました。そのときに同級生に言われた、「人生で何をするか、それに対する手段を逆算思考で考えられているか」という言葉が刺さったんです。
当時の僕は、アルバイトをしていて、「このまま楽しく生きられたらいいな」程度の人生観でいました。でも、同級生とこんなに差があるのかと痛感して、初めて自分の人生でやりたいことや成し遂げたいことを考えるようになったんです。それが、今の活動を始めるきっかけの一つにもなりました。
2つ目は、ボランティア先での出来事です。児童養護施設にボランティアに行っていたのですが、「活動を広めるにはどうしたらいいか」と相談したときに、「今すぐ奈良県庁に行ってこい」と言われたんです。何をしに行くか分からないまま走って行ったんですが、そこで学んだのが「やってみなきゃわからない」という精神でした。
躊躇する時間が必要なときもあるとは思いますが、結局、やってみないと結果はわからない――そういった考え方を教わったのは大きかったです。
3つ目は、YouTube企画で有名な社長とお会いする機会があったことです。そのときに感じたのは、「大事にできる選択肢は何個かしかない」ということでした。両方を100%で取ることはできない――さまざまな選択に迫られる中で、自分の軸を考え直してどの選択をしていくかという価値観を学びました。
主体性を引き出すのは「メンバーがやりたい事業を立ち上げる」文化
――メンバーが自分の考えで動けるように、工夫されていることはありますか。
当法人では、メンバーがやりたいと思った事業を立ち上げているんです。私が実現したいと思っている世界をつくるために、メンバーが「こういうことがしたい」と主体的に動いてくれており、本当に感謝しています。
主体的にやっているからこそ提案もたくさん出ているため、その状態を大事にしていきたいです。
――人材や組織の育成で大事にしていることを教えてください。
人それぞれ得意不得意はありますし、虐待の当事者もいるので、メンタルが安定しづらいこともあります。最近はZ世代の転職が多いという話もありますが、僕自身は「長く活動してもらう」ことよりも、「自分の人生の中でHeart resQに属して何を成し遂げたいか」を大事にしています。
各々の人生が軸にあり、私たちの活動はその枝として感じてもらえたらいいと思っています。ですので、月に1回ほど時間を取って、その人の人生で何を成し遂げたいのか、何をやりたいのか、何を大事にしたいのかといったところを1人1人と話しています。
私が以前在籍していた児童養護施設などでは、「ケースファイル」というものがあるんです。子ども1人1人の入所から対処までの道筋を記録し、「ゴールはこれで、今はこの段階だね」と確認しながら進めるものです。それを、メンバーごとに実践しています。
助成金に頼らず続けてきたからこそ、次は活用も視野に
――今後取り組んでいきたい挑戦や展開を教えてください。
今やっていることをきちんと継続することが一番大切だと思っています。その上で、子どもの居場所づくり事業をどんどん定着化させていきたいです。
私たちは助成金や補助金を受けず、寄付金や、僕が立ち上げたもう一つの会社の関係者からの支援などで活動してきました。国の助成金・補助金に依存していない団体です。だからこそ、次の展開としては助成金や補助金も活用しながら、居場所づくり事業を広げていけたらいいなと考えています。
福祉業界には困っている方がたくさんいらっしゃるので、まずは1人でも多くの子どもを救っていきたいんです。そのために、新しく入ってくる人たちの提案も聞きながら、できることを実践していきたいと思っています。
――そのための施策として考えていることはありますか。
第一に描いているのは、オンライン相談の窓口を広げていくことです。また、来年からは広告戦略にも取り組みたいと思っています。
現在、SNS総フォロワー10,000人越えの元児童養護施設職員がアンバサダーとして在籍しているのですが、彼女をを通して福祉事業に新しい風を吹かせていけたらいいなと考えているんです。福祉でアンバサダーというのはなかなかない試みなので、具体的に進めたい部分です。