「あの丘の向こう」へ挑み続ける。AI時代に文章制作のプロが貫く「内製化」と「挑戦」の哲学

オーズ合同会社 執行役員社長 方山 敏彦氏

2011年、27歳で「文章制作」を主軸に起業した方山敏彦氏。以来15年、外部委託が常識とされる編集・ライティング業界において「完全内製化」を貫き、高品質なコンテンツを提供し続けてきました。しかし、2022年以降のAI台頭により、業界は激変。方山氏は「既存のクライアントの8割が入れ替わる」ほどの抜本的な改革を断行しました。経営理念『Over The Hill(あの丘の向こうに)』に込められた、不確実な未来への挑戦心と、人を大切にする経営の真髄に迫ります。

「文章が仕事になる」と知った瞬間から始まった15年

――オーズ合同会社の事業内容と、大切にされている経営理念についてお聞かせください。

弊社は「文章制作」を中核に、出版事業、そして海外貿易支援事業の3つの柱で展開しています。メインとなるのはBtoBのWebライティングで、特に不動産コラムなど専門性と正確性が求められる分野で多くの実績を積んできました。

私たちの最大の特徴は、制作を「完全内製化」している点です。この業界では、ライターやカメラマン、デザイナーといったリソースを外部委託するのが一般的ですが、弊社は私を含めた5名のメンバー全員が正社員として在籍しています。未経験から時間をかけて育成することで、情報のソース管理やファクトチェック、そして何より「その人だからこそ書ける」独自の視点を担保しています。

そして、創業以来掲げ続けているのが『Over The Hill(あの丘の向こうに)』という経営理念です。これは、とある小説のフレーズから取ったものですが、「あの丘の向こうが豊かな草原なのか過酷な砂漠なのかは、行ってみないと分からない。だからこそ挑み続ける」という思いを込めています。

――近年、AIの普及によって制作業界は大きな転換期を迎えています。方山社長はどのように向き合っていらっしゃいますか。

正直にお話しすると、最初はAIに対して強い抵抗感がありました。文章に携わる人間として、人が作ることにこだわりを持っていたからです。しかし、2022年の終わり頃にChatGPTが登場した際、「これは自分たちの仕事を奪うものではなく、適応しなければ生き残れない大きな変化だ」と直感しました。

そこからは、私自身が先頭に立ってAIを学び、現在は全社的にAIツールを「もう一人の社員」として業務に組み込んでいます。例えば、インフォグラフィックの生成や、構成案を切るときの壁打ち相手として用いるなど、AIで半自動化できる部分は徹底して効率化しています。それによって生まれたリソースは「ファクトチェック」や「より深みのある時間をかけた取材」、そして「企画の立案」といった、付加価値の高い領域に時間を割けるようになりました。

この方針転換により、2024年から2025年にかけて取引先の8割が入れ替わるという劇的な変化が起きました。しかし、経営理念に立ち返り「挑戦せざるを得ない」と決断した結果、今ではAIを「頼もしい相棒」として、より高度なコンテンツ制作に挑戦できています。

経営者として大切にしてきた「挑戦」と「素直さ」

――経営者になられた経緯を教えてください。

私は元々、大学進学を機に長崎から上京し、日経新聞の奨学生として新聞配達をしながら学校に通うような学生でした。本を読むのは大好きでしたが、文章を仕事にするのは小説家や脚本家のような限られた才能を持つ人だけの世界だと思い込んでいました。

転機は、大学卒業後に5年間勤めた学習塾での講師時代です。副業としてWebライティングの募集を見つけ、試しに原稿を書いて納品してみたんです。翌月、銀行の通帳に「原稿料」という名目で数千円が振り込まれているのを見た時、20代の自分は震えるほど感動しました。自分の書いたものが、少額であってもプロの仕事として認められた証でしたから。

そこからは学習塾の仕事とライターの「二足のわらじ」です。4年目には副業の収入が本業の給与と並びました。30歳を目前にして、このまま中途半端に続けるのは会社に対しても失礼だと考え、退職を決意。2010年から1年間のフリーランス期間を経て、2011年8月にオーズ合同会社を設立しました。

――起業にあたって、大きな影響を受けた出来事があったとお伺いしました。

実は、起業を決断した最後の決め手は、共にルームシェアをしていた大切な友人の死でした。漫画家を目指してコツコツと努力していた20代の彼が、突然病気で亡くなってしまったんです。

彼のお母さんが東京に来られ、「息子の分まで、あなたたちは挑戦し続けてほしい」と言ってくださいました。その言葉が胸に深く刺さりました。人生は一度きり。若いうちなら失敗してもやり直せる。彼が叶えたかった夢の重みを感じながら、「自分の信じる道へ挑戦しよう」と心に誓ったんです。

独立してからは、スマホの普及という波にも乗り、順調に案件を増やしてきました。物販(海外貿易)を始めたのも、元々は自分たちで古本を売る際の「商品の魅力を伝える文章」が起点です。そこから派生して、海外へのEC展開を目指す方々の翻訳やコンテンツ制作をお手伝いするようになりました。何をやっても、私たちの根底にあるのは常に「日本語の文章」へのこだわりなんです。

完全内製化だからこそ生まれる組織の強さ

――組織運営で意識していることを教えてください。

小さな組織ですから、コミュニケーションの質がそのまま業績に直結します。特にコロナ禍を経て、弊社ではフルリモートワークを積極的に導入しました。現在は渋谷のオフィスの他に、遠方から正社員として参加しているメンバーもいます。

リモート下でのコミュニケーションで私が意識しているのは、「聞かなくていいことは聞かない」という逆説的なスタンスです。様子が見えないからといって、社長から頻繁に連絡が来れば、社員は監視されているようで窮屈に感じてしまいます。

ですから、コミュニケーションを円滑化するために、「数字に関すること(納期、金額、日付)」だけは、チャットツールなどで徹底的に記録するようにしています。それ以外の、個人の裁量に任せられる部分は口を出さない。社員をプロとして信頼し、各自が責任を持って判断できる環境を生み出すことが、結果として組織の安定につながっていると思います。

――採用面でも、独特の方針をお持ちですよね。

経験者を採用するのではなく、あえて異業種や未経験の方を積極的に採用しています。文章の書き方は教えられますが、その人が元々持っている好奇心や誠実さは教えられませんから。

時間をかけて育てているので、社員の定着率は非常に高いです。一番長いメンバーは丸10年在籍しています。彼らが子育て中であれば、家族の事情に合わせて柔軟に休める体制を整える。その代わり、仕事ができる時はバリバリと稼いでもらう。そうした「人としての当たり前の暮らし」を尊重することが、質の高いアウトプットを生む土壌になると信じています。

AI時代だからこそ広がる、新たな表現と事業の可能性

――今後の展望や挑戦したいことを教えてください。

これからは「AI×コンテンツ制作」をさらに深化させていきます。文章だけでなく、動画制作やインフォグラフィック、さらにはアプリ開発にも着手しています。

最近、私が個人的に挑戦しているのが「バイブコーディング(AIを活用したプログラミング)」です。私自身はエンジニアではありませんが、AIにコードを書いてもらいながら学習アプリを試作したところ、驚くほど短期間で形にすることができました。今後は、経営者が最低限身につけておくべき知識をコンパクトに学べる「社長向け学習アプリ」の開発なども視野に入れています。

元々教育業界にいた人間として、「教えること」や「伝えること」への関心は尽きません。今の子供たちはタブレットを使いこなし、教育現場もデジタル化が進んでいます。そうした分野で、AIを入り口にしながらも、最終的には本や良質なテキストコンテンツに親しんでもらうための架け橋になりたいと考えています。

――AI活用における課題はありますか。

「効率化が進みすぎること」への副作用ですね。これまで社員が時間をかけて行っていた仕事がAIに置き換わったとき、社員にどのような役割を担ってもらうか。これは非常にシビアな経営課題です。

単純な作業をAIに任せるのは正解ですが、それによって社員の働く場所がなくなってしまっては本末転倒です。AIを活用しながら、いかに社員がやりがいを感じ、気持ちよく働ける環境を再構築するか。このバランスの見極めこそが、今の私の最大の役割だと思っています。

走ることで整える思考と、尊敬する経営者たちの存在

――尊敬している人物はいらっしゃいますか。

特定の有名経営者というよりも、身近な中小企業の先輩経営者です。50年近く経営を続けてこられた方など、実体験に基づいた言葉には重みがあります。

――リフレッシュ方法についても教えてください。

リフレッシュといえば、走ることですね。自宅近くのスポーツセンターや公園で、考えがまとまらない時などは息が切れるまで走ります。お金をかけず、汗をかいて、お腹が空いたら美味しいものを食べる。そんなシンプルなことが、一番の切り替えになります。

仕事柄、どうしてもパソコンの前に座りっぱなしになりがちですが、意識的に体を動かし、人と会う機会を作るようにしています。AIと向き合う時間が増えたからこそ、逆にリアルの対話の価値が自分の中で高まっていると感じます。

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