広告から暮らしへ――4つの事業で描く、ライフスタイル起点の経営戦略
株式会社ティー・エム・ティー_代表取締役 社長 矢倉 仁氏
株式会社ティー・エム・ティーは、大阪に本社を構える総合広告代理店です。広告事業を中核に、トランクルーム、飲食、介護と、人々の暮らしに関わる複数の事業を展開しています。代表の矢倉氏は、広告で培ったマーケティング視点を軸に、住環境やライフスタイルの変化を捉えた事業づくりを進めてきました。本記事では、同社の事業構造や新規事業誕生の背景、経営者として大切にしている考え方、そして今後の展望についてお話を伺います。
目次
広告を核に広がる、4つの事業体制
――現在の事業内容と、会社の特徴を教えてください。
当社は総合広告代理店としてスタートし、今年で19年目になります。
創業当初から広告事業を中心に展開してきましたが、現在は大きく4つの事業体制で会社を運営しています。柱となるのは広告事業で、そこに加えてトランクルーム事業、飲食事業、介護事業を展開しています。
広告代理店としては、いわゆる「総合広告代理店」という立ち位置になりますが、特徴としては「住」に関わる分野を中心に広告を手がけてきた点です。
引越しを核とした大手グループ企業や大手ハウスメーカーなど、住環境に関わるクライアントが多く、暮らしそのものをどう支えるかという視点で仕事をしてきました。
――広告事業では、どの分野に強みを持っているのでしょうか?
広告業界では、テレビやラジオ、新聞、雑誌といったマスメディアを扱うことが、かつては総合広告代理店の主な役割でした。
当社もそうした領域を経験してきましたが、単に広告をCM制作・出稿するだけでなく、クライアントの新しいサービスやビジネスにつながる提案ができないかを常に考えてきました。
住環境を軸にした広告に携わる中で、生活者のライフスタイルそのものを理解し、次に何が求められるのかを考える。その積み重ねが、広告以外の事業展開にもつながっています。
ライフスタイル視点から生まれた、介護と飲食への展開
――介護事業を始めた背景には、どのような考えがありましたか?
介護事業については、広告の延長線上というよりも、ライフスタイル全体を捉える中で自然に生まれた事業です。
日本はこれからさらに高齢化が進みますし、当社のクライアントの顧客層を見ても、30代・40代を中心に、親の介護に直面する世代が増えていきます。
そうした社会背景を踏まえ、高齢者の方々がどのようなライフスタイルを送っているのか、また健康に長く生活するために何が必要なのかという点に着目しました。
専門的な介護そのものではなく、日常の行動を有意義にする健康面のサポートとして取り組んでいるのが、リハビリサービス「ハピエ」です。
――飲食事業には、どんな狙いや学びがありましたか?
飲食事業は、これまで失敗も含めてさまざまな経験をしてきました。福岡で寿司店を出したり、六本木でステーキハウスを運営したり、大阪ではビストロから串カツ専門へと変化させるなど、スクラップ・アンド・ビルドを繰り返してきた事業です。
特にコロナ以降は、長時間滞在する飲食店よりも、短時間で利用できる立ち飲みスタイルが広がってきました。そうした変化を捉え、現在は関西の主要都市を中心に3店舗を運営しています。
飲食事業は常に試行錯誤の連続ですが、市場の変化を体感できる点は、他の事業にも良い影響を与えています。
広告代理店だからこそ挑んだ、トランクルーム事業
――新しい事業として、なぜ「トランクルーム」に着目したのでしょうか?
トランクルーム事業を考え始めた背景には、「広告の仕事を通じて見えていたクライアントの現場」がありました。特に引越し会社の仕事に携わる中で、繁忙期と閑散期の差が大きいことは以前から感じていました。
引っ越しは3月・4月に業務が集中しますが、それ以外の時期には人や車輛が余ってしまう。その空いているリソースを活かして、別の価値を生み出せないかと考えたことが、最初のきっかけです。
人や車輛、保管できる場所を活用できる事業として、「宅配型トランクルーム」という発想に行き着きました。
――働き方や人材の変化も、事業構想に影響したのでしょうか?
もうひとつ大きかったのが、働く人の高齢化という視点です。物流業界では、ECにより小口配送の需要が年々増えていますが、重い荷物を運び続ける仕事は年齢を重ねるほど負担が大きくなります。
一方で、季節家電や衣類など、生活に必要だけれど重すぎない物を保管し、必要なときに届ける作業であれば、年齢を重ねても続けやすい。将来的な働き方を考えたときに、宅配型トランクルームは現場で働く人にとっても可能性のある事業だと感じました。
――住環境の変化も、トランクルーム事業を後押しした要因ですか?
大きな要因のひとつだったと思います。
以前は、郊外に住んで職場へ通うというスタイルが一般的でしたが、今は利便性を重視して、働く場所の近くに住む「都心回帰」が進んでいます。そうした流れの中で、住宅価格の高騰や住戸面積の縮小といった構造的な変化が起きています。
ハウスメーカーのクライアントから話を聞く中でも、「暮らしやすさ」と引き換えに、住空間そのものはコンパクトになっている現実を強く感じました。
この流れは一時的なものではなく、今後も続いていく。そう考えたとき、住まいの中だけで完結しないライフスタイルを前提としたサービスが必要になると感じ、宅配型トランクルーム事業を検討するようになりました。
――広告の知見は、どのように事業づくりに活かされていますか?
広告の仕事では、市場や生活者の行動を細かく分析します。その視点をそのまま事業づくりに落とし込みました。
高齢化や都心回帰、住居のコンパクト化といった社会の変化を踏まえ、「なぜ今このサービスが必要なのか」を徹底的に考えています。
都市の住環境課題に向き合う「宅配型トランクルーム」
――従来のトランクルームと、何が違うのでしょうか?
従来のトランクルームは、自分で荷物を持ち込み、長期間預けっぱなしになるケースが多く見られました。実際、3~4年使われていない荷物も珍しくありません。ただ、その多くは「本当に必要なのか」と考えると、そうではない場合も多い。
当社が展開する「サブクロ」は、宅配型のトランクルームです。WEBサイトでお申込みや配送集荷の予約をいただき、ご自宅まで届ける仕組みにしています。
都心では車を持たない方も多く、高層階など荷物を自分で運ぶ負担をなくすことが重要だと考えました。
――都心型サービスとして、どんな価値を提供していますか?
サブクロが提供している価値は、「収納スペースを貸すこと」そのものではありません。都心で暮らす方が、限られた住空間をどう使うか、その選択肢を広げることだと考えています。
例えば、季節ごとに使う家電や衣類、キャンプやスキーといったレジャー用品など、毎日は使わないけれど手放したくない物は多くあります。そうした物を外に預け、必要なときに届けてもらえることで、部屋の中は日常生活に必要な物だけで整えられる。
「持たない」のではなく、「今使わない物を最適な場所に置く」。その考え方を実現できる点が、都心型サービスとしての価値だと思っています。
サブクロに込めた、サービス設計と差別化の工夫
――サービス内容や保管方法で意識している点を教えてください。
サブクロは室内型のトランクルームで、現在ビルの2階から6階までを収納スペースとして使用しています。
一畳程度の収納スペースに加え、衣類だけを片づけたいというお客さまへハンガーにかけたまま保管できるボックスや、溢れかえった下駄箱を整理したいというお客さまのご要望に応え、靴を型崩れさせずに最大16足まで入るシューズ専用ボックスを用意し、こちらも集荷配送いたします。
スタッフ全員が外部の収納に関する講習を受けており、単に荷物を詰め込むのではなく、保管状態にも配慮しながら、丁寧に配送から収納まで行います。またスタッフをコンシュルジュと位置づけ、ホテルクロークサービスようになればと考えています。
――利用者やメディアからの反響はいかがですか?
大阪では当初、宅配トランクルーム文化が根付きにくい面もありましたが、徐々に利便性が理解されてきました。
テレビなどのメディアに取り上げられた際には、すぐに問い合わせが入ることもあります。
広告一筋のキャリアと、経営者としての現在地
――これまでのキャリアについて教えてください。
映像の専門学校を卒業後は一貫して広告代理店で働いてきました。25歳のときに大阪へ転勤し、現在56歳になります。
創業前は東京本社の広告代理店の関西支社に所属していましたが、その会社がなくなったことをきっかけに、関西支社にいたメンバーで独立し、ティー・エム・ティーが誕生しました。
――経営者という立場になって、感じた変化はありますか?
なりたかったというより、気付いたらそうなっていた、という感覚に近いですね。
創業時に現オーナーより、全員が創業者のような意識でスタートするのだと発破をかけられました。また数年前から経営は担っていましたが、感じることは会社を築きあげるということは、その責任の重さも築きあがるのだということ。
責任と向き合いながら築く、組織と人の関係性
――経営において、大切にしている考え方は何でしょうか?
当社では「クライアント(お客さま)の、何となく違うの“何となく”がわかる会社」という考え方を大切にしています。その感覚を持てるスタッフを育てることが、どの事業においても重要だと考えています。
――社員とのコミュニケーションで心がけていることはありますか?
風通しの良い空気をつくることを意識しています。無理に飲み会を設けることはせず、「何かあればいつでも言ってきてほしい」と伝え、話を聞く姿勢を大切にしています。
事業の先に描く、これからの展望
――今後、特に注力していきたいことはありますか?
宅配トランクルーム事業は、現在大阪を中心に展開していますが、今後は京都や神戸といった京阪神エリア、さらに名古屋や福岡などの都市部にも広げていければと考えています。
都市型のライフスタイルに合わせたサービスとして、当社が考えてきたマーケティングの集大成にしていきたいですね。
株式会社ティー・エム・ティー
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