留学経験を“武器”に変える経営――「留学生を活かす」理念と留学×ITが生む人材循環
株式会社アレックスソリューションズ 代表 大野 雅宏氏
株式会社アレックスソリューションズは、「留学生を活かす」を理念に掲げ、グローバルIT事業と海外研修事業を展開しています。英語力とITスキルを兼ね備えた人材を育て、日本と海外をつなぐ役割を担ってきました。代表の大野氏は、自身の留学経験を原点に独自のビジネスモデルを構築しています。本記事では、創業の背景や経営判断の軸、組織づくり、そして今後の展望について伺います。
目次
留学経験を活かすために生まれたビジネスモデル
――今の事業を始められたきっかけを教えてください。
私には留学経験があり、行き先はエジプトでした。アレクサンドリアという町に滞在し、アラビア語を学びながら、中東地域の研究の一環として現地で過ごしていました。会社名の「アレックスソリューションズ」も、そのアレクサンドリアから取っています。
ただ、帰国後に「留学経験を仕事に活かせない」という現実に直面しました。日本ではアラビア語を使う仕事がほとんどなく、2年ほど海外で学んでも、その経験を活かす場所が見当たらなかったんです。
そんなとき、友人がITの会社を運営しており、そこに入ったことが転機になりました。最初はITの知識がない状態だったので、営業として現場を回りながら業界を学んでいったという流れです。
――なぜ「留学×IT」という組み合わせに至ったのですか?
当時は「英語もITもできる人」がほとんどいませんでした。そこで、ITが分かる人に英語を教えるのではなく、英語の素地がある元留学生にITを教える方が早いと考えました。
留学経験者にITを教え、英語とITの両方ができる人材を育て、外資系企業やグローバル展開する企業の現場に入ってもらう。自分と同じように、経験を活かせず困る人は多いはずだという感覚が、この事業の出発点です。
採用についても、ITの知識はゼロで構わないというスタンスです。留学経験や英語を使えること、海外で得た視点のほうを重視しています。
全社員が元留学生という組織の強み
――事業の特徴や他社にはない強みは何でしょうか?
当社は社員が約200人いますが、留学経験者が100%という点が大きな特徴です。
そのうち85%ほどは日本人で、残り15%ほどは外国籍の社員です。外国籍社員も、日本に留学してきた方を採用しています。つまり、全員が留学生、または元留学生という構成になります。
そのため、多くの社員が日本語と英語の両方を扱えます。加えて、ITの知識や現場経験も備えている。語学と技術だけでなく、当社が強みだと感じているのは「現場での潤滑油になれる人材が多い」点です。
2007年に創業した当時、IT業界は職人気質で、スキル重視の雰囲気が強く、コミュニケーションが得意ではない人も少なくありませんでした。そこに留学経験者が入ると、お客様とエンジニアの橋渡し役になり、現場の空気を滑らかにしてくれる。実際に、お客様から「現場のコミュニケーション役として重宝される」と言われたこともあります。
留学経験者は、新しい人と話すことに臆しない傾向があります。異文化の中で生活し、自分の言葉で伝える経験を積んでいるからこそ、現場での対話に強いのだと思います。
――経営理念「留学生を活かす」に込めた思いを教えてください。
理念はとてもシンプルで、「留学生を活かす」です。日本人か外国人かは関係ありません。留学した経験のある人を活かすことを共通の軸として掲げ、そこをずっと貫いてきました。
事業を拡げるときも、判断はこの理念に立ち返ります。「その業務は留学生を活かしているのか」。この問いが、事業の方向性を決める基準になっています。
ゼロから市場をつくった創業期の挑戦
――会社を立ち上げた当時の思いをお聞かせください。
新しく会社を始めるなら、他社がやっていないこと、社会の役に立つことをやりたかった。留学経験とIT営業、ITを教える要素を組み合わせたら、今のビジネスになりました。
ただ最初は理解されず、「英語とITの両方ができる人がいます」と言っても「ITできる人を出してくれ」と言われることが多かったですね。
――創業期のターニングポイントは何でしたか?
創業時に営業で採用した最初の社員が辞めそうになった時です。
新しい市場を開拓する事業なので、お客様の反応も薄く、成果が出にくい時期がありました。そこで挫けそうになり、「生活も苦しいから辞めたい」と相談されました。
そこで私は、彼のボールペンを指して「それを質として預かり、お金を貸す。結果が出たら返す」と伝えたんです。その時に「そこまで考えてくれるなら、もう少し頑張れる」と思ってくれたようです。
踏みとどまってくれた結果、事業は形になり、今ではその社員が取締役を務めています。
手挙げ制が生む自走型組織
――社員が主体的に動くための工夫はありますか?
役職転換や人事異動は「手挙げ制」です。任命されると“やらされた感”が出やすいので、やりたい人に手を挙げてもらう。最初は差が出ても、自分で選んだ人は踏ん張ります。
さらに面白い取り組みとしては、給与制度の設計にも手挙げ制を取り入れています。委員会メンバーを募り、そのメンバーが翌年の給与体系を決める仕組みです。毎回10人ほどが手を挙げ、評価ポイントをチェックし、修正した上で「来年はこれでいきます」と決めていきます。
自分たちで決めるからこそ、納得感が生まれ、制度への理解も深まるのだと思います。
――社内コミュニケーションで意識していることは何ですか?
外国籍の社員が増えているので、半年に1回ほど国際交流イベントを開いています。
先日は「フィリピン会」という形で、フィリピン出身の社員を中心に、フィリピンに留学経験のある日本人社員も交えて交流の場を設け、現地の料理を用意して文化や習慣について話す時間をつくりました。
各国の文化を紹介し合い、相互理解を深める機会を継続することで、日常のコミュニケーションも円滑になると感じています。
バックパッカー精神と人材観
――どのような人と一緒に働きたいと考えていますか?
求人説明会では、必ず「バックパッカー精神を持っている人が欲しい」と伝えています。
バックパッカー精神とは、チャレンジ精神があること・さまざまな価値観をフラットに見られること・事前準備を怠らないこと・そして準備してもうまくいかないことを受け入れながら前に進めること。
そういうマインドが仕事に活きると感じています。
――社員の成長を感じたエピソードを教えてください。
直近で印象に残っているのは、先月マレーシアに出張したときの出来事です。
マレーシア企業との協業のきっかけをつくったのは、クライアント先に常駐している社員でした。その社員が自ら「こういうプランがあるのですが」と私に直接提案してきたんです。
普段から直接話す機会は設けていますが、社員が自分から動き、社長に提案できるような距離が近い組織になってきたと感じました。
留学生を「活かす」から「育てる」へ
――今後取り組みたい挑戦や展望は何でしょうか?
「留学生を活かす」から一歩進めて、「留学生を作る」「留学生を育てる」「留学生を伸ばす」事業へ広げたいと考えています。ワーキングホリデーや青年海外協力隊など海外経験はあっても、就職に繋がっていない人は多い。そうした人が社会で活躍できるプラットフォームになれたら、という夢があります。
取り組みとしては海外採用の強化です。スリランカに現地法人があり、今後はマレーシア版も進めたい。また、海外研修事業として高校生・大学1〜2年生向けに無料のオンライン研修「GOAL」と、現地体験ツアー「START」も行っています。留学する人が減っていると言われる中で、「まず行ってみる」経験を増やしたいんです。
座学の研修で終わらせず、現地での体験までつなげるのは、机上の学びだけでは価値観が変わりにくいと感じているからです。短い期間でも現地を見て、帰ってきた後にどう活かすかまで考える人が増えれば、その後の長期留学を志す人も増えていくはずです。
――IT業界の未来をどのように見ていますか?
プログラミングやメンテナンスは自動化が進み、人間が必要な領域は「人間同士をつなぐところ」だと思います。
国や言語、文化が混ざる現場では橋渡し役が欠かせません。だからこそ、技術一辺倒ではなく、人をつなげる人材を作り続けたい。
自動化が進むほど、当社の役割は増える可能性があると見ています。
影響を受けた価値観と、経営者としての原点
――経営判断の軸になっている価値観を教えてください。
判断軸は「留学生を活かせているかどうか」だけです。新しい取り組みも、この軸につながるかで決めています。
軸を絞ることで事業の幅は狭くなるかもしれませんが、それが当社の使命だと考えています。私の代では、まずこの理念を確実に実現することに集中したいですね。
――人生で影響を受けた人や出来事はありますか?
尊敬しているのは京大の学者、梅棹忠夫さんです。学生時代に『文明の生態史観』を読み、スケールの大きい考え方に感銘を受けました。
もうひとつはバックパッカー時代の経験です。トルコで移動中にバスが止まり、バス停しかない場所で野宿を余儀なくされました。朝、街へ歩く途中でお茶屋さんに声をかけられ、お金も払っていないのにお茶を出してくれたことがありました。
あの時、「大変な時でも世の中には助けの手を差しのべてくれる人がいるものだ」と実感し、会社をやる時もどこかで助けがあるかもしれないと思えるようになりました。
次世代を育てるもう一つの現場
――休日のリフレッシュ方法や仕事以外に情熱を注いでいることを教えてください。
学生時代からラグビーをやっていて、今は息子が通うラグビースクールでコーチをしています。小中学生の指導をしており、土日はほぼラグビーです。教えている選手が上達し、将来の活躍を聞けるのが何より嬉しいですね。
コーチの場では社長という肩書きは出しませんが、選手を育てることと社員を育てることには共通点が多い。選手に話す内容と、30代の社員に話す内容がほぼ変わらないと感じることもあります。
私生活で得た経験が、結果的に仕事にも活きている感じです。